239.木登り開始
「旨いなこれっ!」
錬金術師のガーズもカツ丼を気に入ったようだ。ヴァージルがそうだろうとなんだか得意げ。
ひとしきりカツ丼を堪能したところで、ヴァージルが話し始める。
「聖騎士団は神殿に、神々に仕える騎士だから、今回の空の国との戦いには手を貸さないと言うことで話が決まっているんだ。空人もまた、神々を信仰する信徒の一人だから。ただ、みんな元貴族の子息が多いからね、どうしたって繋がりはある。個人で参加する分には好きにしていいと通達があったんだ。セツナはどうするんだ?」
「正直、戦いになるのかもわかってないのでなんとも。でも新しい土地は気になるね~ちょっと見に行きたいなぁって」
俺の返事に2人は苦笑する。
「来訪者の好奇心は尽きないな」
「だね。……ただ、このままだと戦争にはなると思う。今回領域侵犯を犯したのはこちらだからね。セツナも十分気をつけて」
ぎ、ぎくぅぅぅ!!!
俺が原因の人ではないですか……。
そこに種があったから、しかたないよ。
ちなみにこうやって話している間にも、アナウンスで空の国についてのデータが増えて行っている。
「空の国と言えば、兄嫁の実家がかなり前の代だけど、王家が嫁ぐとき一緒に空の国へついていったが、国交が途絶えるときこちらに帰ってきた人だったね。何か話が聞けるかもしれないが、紹介状を書いてもらえるように頼もうか?」
「えっ!? トラヴィス、さんが!?」
「いや、次兄じゃなくて長兄だね」
あ、だよねー、トラヴィスに嫁いないだろあれ。嫁とれねえよ。
放蕩息子でしかない……。
「実家ってアランブレ?」
「そう。3日後くらいに屋敷に行ってもらったらセバスチャンに渡せるようお願いしておくよ」
「ありがとう」
それはよき伝手である。
とにかく無茶はしないでくれと、ヴァージルに念押しされて俺は2人と別れる。まだ夜明けまでは時間もあるし、1回木登りチャレンジしてみようかと思う。
飛行型の騎獣があれば【木登り】せずに上まで行くことができるそうだ。ただその前に、豆の木の下にいる騎士に話しかけて、今回の戦に参加するを選ばないとある程度の高さで透明の壁にぶつかるという。
なので、俺も参加することを表明しました。
「好奇心旺盛な来訪者が登っていたということなら1度は見逃される。だが、基本2度目はないから気をつけるように」
騎士からの忠告をひもとけば、つまり、1度見つかっても来訪者だと言えばいいが、2度目見つかると偵察には行けないよということだろう。気をつけよう。
セツナ:
ちょっと遊びに行ってくる。
ピロリ:
いってらっしゃーい。
半蔵門線:
拙者は今小さい浮島に潜入中でござる。わりと森もあって、モンスターもいるでござるねこれ。小さいと言ってもマップ一つ分くらいはゆうにあるでござるよ。
ソーダ:
まあ気をつけて。見つからないように。
ってことで俺はがしっと豆の木にしがみついた。
【木登り】相変わらずいい仕事してくれる。やがて、幹部分が貫いた島の近くまで来た。だが、これをそのまま登ればすぐ見つかってしまうらしいので、俺はその横枝にしがみついてさらに先へ行く。枝の辿り着いた先は、確かに森の中だった。
今回マップは来訪者共有になっている。俺の辿り着いた浮島は外周の島Fとあった。南西に位置する。未踏の島だとグレー表示で、島Fはほとんどが色がついているので、誰かしらチェック済みなのだろう。
本島に潜り込んでる強者いるな。かなりグレー部分が減ってきている。見つからないでよくそこまで動けるな。
土の上でしか人は暮らせないとはよく言ったもので、さすがに植物を育てるには土が必要だったようだ。森を抜けたあたりで、大きな畑を見つけた。ファンルーアなどで見た小麦畑とはまた違った種類のようで、空島麦とあった。空でもよく育つ品種なのだろう。
夜も明けてきたし、うろついていると【気配察知】さん。小さい人型。さてどうするかと思っていると、声も聞こえてきた。どうやら子どもが2人、男の子と女の子のようだった。
だけど彼らが行く先が拙い。【気配察知】でモンスターがいるのがわかる。
森と言っても人が踏み入っているらしく、細い道が出来ていた。地図にもそれが載っている。そして彼らが行くであろう先にモンスターの影。
どうしよう。いや、案外子どもめっちゃ強いとか!? 心配になって物陰から見ているうちに、モンスターのうなり声と子どものか細い悲鳴。
あー、無理ぃー!!
子どもは男の子と女の子の兄妹。腰を抜かした女の子を背にかばっているが、男の子の足もガクガク震えていた。
「【投擲】【フロストダイス】」
まずヘイト取り、そして固めてからの、
「【ひと突き】」
小型のオオカミモンスター。一撃でおしまいだ。
「大丈夫?」
2人とも恐怖でただ頷くだけしかできない。
「怪我は?」
転んですりむいたのか、女の子の膝がすりむけていた。痛そうですね。俺の、回復弱々ポーションをあげるとしよう。傷口にざばっとかけるとみるみる元通り。
「この先にもモンスターがいそうだし、遊びに来ただけならもうおうちへ帰った方がいいよ?」
俺、まだこのあたりをうろつきたいし、この子たちがいるとなると心穏やかに探索できません。1人ならどうとでもなるのだ。
しかしお子様2人は必死に首を振る。
「もう少し先に行ったところにある薬草を採ってこないといけないんだ! 母ちゃんの調子がよくなくて……」
「えーっ! 俺の持ってるポーションじゃダメ?」
橙もあるよ。
「母ちゃんの病気にはあれがよく効くから」
「そっかあ……じゃあ仕方ないからついて行くから、採って早く森を出よう?」
俺が言うと2人はびっくりする。
「でも、でも……兄ちゃん地上の国の人でしょう?」
「……うん」
いきなりバレております。姿形はそう変わらないのになんでだろう。
「地上の国の人は……俺たちを空から落としてしまうって」
「へ? 落とすの? 落としてどうするの??」
俺と子どもたちの間に微妙な沈黙が降りる。
男の子は小学校2年生くらいかな。女の子は4才、5才くらい。お母さんのためにモンスターのいる森に入るとか泣かせるよね。つか、空の国に飛ばない系のモンスターいるんだな。
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目の前で襲われている子どもがいたら……フラグデスヨネー!!




