238.空の国ケルムケルサ
今日は申し訳ないがお言葉に甘えて少し遅い時間まで本を読ませてもらうことにした。
『空の国との歴史』では、アランブレを首都とするテラエトゥーラ王国と、その上空にある空の国ケルムケルサとの交流の歴史が描かれていた。
200年前、国交断絶する前は、定期的に空の国とは行き来がされており、ケルムケルサ特産品との物々交換もなされていた。
王女王子がそれぞれに嫁ぎ、婚姻関係を結んで地上より強い空の魔物をケルムケルサの戦士たちが狩ることにより、テラエトゥーラの空路は安全を確保されていた。両者は互いに互いを利と捉えていたのだ。それが1つの事件でがらりと変わる。
約200年前、ケルムケルサへと婿入りした王子が空より落ちた。
その死の原因をケルムケルサ王室は事故としたが、同行していた侍従により、王子は殺されたとの話がもたらされる。だが、空の領域は地上にとっては遠すぎ、事実の解明はなされなかった。
そのときの対応に不満を持ち、当時地上に嫁いでいた空の国の王女を責める貴族たちが噴出し、その身の安全を危ぶんだ国王は彼女を空の国へと帰した。あくまで彼女の身を案じてのことだとテラエトゥーラは主張するが、1度嫁いだ王女を落ち度もなしに返還することは、ケルムケルサを侮辱していると国交に亀裂が入り、先の王子のこともあり、とうとう完全に行き来が断絶された。
それにより、今まで安全を保っていた空路の確保が難しく、テラエトゥーラの飛行船は一時運行を停止せざるを得なくなったのだ。
ほうほうほうと読んでいるとアナウンス。
《空の国ケルムケルサの歴史1が公開されました》
ウィンドウを開くと、今までなかった『空の国との攻防』という項目の中に、歴史というリストが増えて1の文字が現れた。詳細を見ると、今俺が読んだ本の内容そのままだ。
《空の国ケルムケルサの戦力が公開されました》
さらに追加。
こちらはまったく知らない新しい内容だ。
空人たちは、羽根を持つ有翼と、無翼があり、有翼はほとんどが貴族であり戦士だった。無翼の貴族も存在はするが、権力面では弱い。翼があることにより戦闘面では数段上を行く。また、風魔法の扱いは地上の人々より格段に上手だ。
セツナ:
今アナウンスがあった歴史1だけど、俺が読んだ本の内容が書かれてる。
ソーダ:
お、俺も騎士のフレンドと面会予定なんだけど、アランブレの騎士団が今始まりの平原に天幕張って、なんか会議してるんだよ。来訪者も協力を願うとかなんとか言ってる。
ピロリ:
私の貴族フレンドともつなぎとろうとしてるんだけど~お返事待ちだわー。
半蔵門線:
拙者、【木登り】習得したでござる。アランブレの図書館、こんな夜なのに開いていて、来訪者もちらほら。有事だからって司書さん言ってたでござるが、これ、プレイヤーがどこかで得た情報どんどん共有されるのかもしれないでござるね。
ちょっとこれから登ってきてみるでござるよ~。
八海山:
すでに何人か登っていってるらしい。1番太い幹の部分を登って行った先には空人がたむろしてるらしいから、そこから伸びた枝を行った方がいい。
半蔵門線:
了解したでござる~。
ソーダ:
セツナ、本読んでるのもいいけど、昼になったら鍛冶屋行けよ。
セツナ:
りょーかい! あんまり遅くまでイェーメールの貸本屋いるの迷惑だから、図書館空いてるなら俺もそっち行くかも。
いくら宵っ張りといえども来訪者の朝まで元気に付き合わせるのは悪いからさ。
あと1冊くらい読んだら出ようと思う。
『空の国の成り立ち』を開く。
空の国ケルムケルサは1番大きな浮島に王侯貴族、戦士たちが棲まい、その周辺にいくつもある小さな浮島で農耕を行っている。島と島を繋ぐのは馬と呼ばれる羽の生えた馬と、それらが牽く馬車だった。
大昔はケルムケルサも大地に根付いていた。しかしあるとき大地が乱れ、島を浮かせる技術を開発した一族は空に逃げた。何千年も前のことだ。やがて空で住むことに適応した身体を得て、空の国ケルムケルサは生まれたと言われている。
だが、有翼は適応するために自然に発現するとは思えず、あくまで後から作られた話だと思われていた。
島を浮かせているのは空の国の大地に含まれている飛有物質のおかげであり、空の国にはその飛有物質を生み出す魔法が伝わっている。
現在地上の国テラエトゥーラで使われている飛行船は、魔道機構で浮いているが、過去はケルムケルサからもたらされた飛有物質を使っていた。
そして読み終わるとアナウンスで歴史3が増えた。2は飛ばしたからまたこれもどこかにあるのだろう。
「遅くまでお邪魔しました」
「今日はどうするんだ? 眠る日ならうちで寝てもらっても構わんが」
「いえ、まだあと1日動き回ります」
「そうか。俺らみたいなじじいですら空の国とやりとりがあったころには生きてない。空人は100年をゆうに生きるらしいぞ。地上にいる長命種といやエルフだ。誰かエルフに知り合いはいないのか?」
いるけど、あの人もそこまで年寄りには見えない……。どうなんだろう。
「いるなら、少しはそこら辺から情報を得られるかもしれないな。こっちでも集めておいてやるが、どうしても日数が掛かる」
「助言ありがとうございます」
連絡を取ってみよう。
起きてる時間が読めないが、ハトメールは騒がしく起こしたりしないだろうということでファマルソアンに飛ばしておいた。
そして、反対にハトメールを受け取る。
ヴァージルからだった。時間があるなら会って話したいとのことだ。
今から行ってもいいか聞いたら、OKだったので神殿へ向かう。神殿にはたくさんの人々が祈りを捧げていた。夜中なのに、人が多い。みんな突然のことに不安なのだろうか。
「セツナ!」
冒険者スタイルのヴァージルがやってくる。くっそ、夜なのになんでお前キラキラしてんだよ。ほら、祈りを捧げてる人たちの目がうっとりしてるじゃん。
……奥様たちの目がこっちにも向いてる気がする。くっそ、イェーメールなんでそんな爛れてるんだよ……。
どこか落ち着いて話が出来る場所へということで、結局来たのが錬金術秤の薬屋さん。
「もう店閉めてたってぇのに」
迷惑そうな顔をされたが、ヴァージルはすまないで済ませてる。多分普通に仲がいいんだよね、ここ。お詫びにカツ丼出したらヴァージルからも要求されて、結局店の奥で3人でご飯しながらの話になった。
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空の国の成り立ちとか考え出すと止まりませんな!!




