237.よくわからないものには触ってはいけない
朝からアンジェリーナさんのところで入り浸り、夜はミュス狩りをしていた。平和な日常。何か突発的なことがない限りは、修復師のこともあって貸本屋になるべく顔を出すようにしている。
すると、たまに練習だと店の奥の部屋で修復の練習をしたり、図書館へ連れ出されたりする。
図書館では……また閉架図書整理もさせられたっ! パズルで鍛えていたからか、手際がいいと司書さんに気に入られてしまっている。
俺が気に入られたいのはアンジェリーナさんですので野郎はお断りです。
本の修復も段々難易度が上がってきて、表紙の修理やらそれに伴う素材採取やら、俺の日常はとても忙しく充実している。
そんなある日の夜中。
今日も今日とてミュス狩りだ。
先日七夕のイベントのおかげで山盛り種を得られたので、最近は結構無駄に使って楽しんでいる。オーク多過ぎだし。でも、オークの【グローイングアップ】後はかなり強くていい。ミュスがアクティブモンスターじゃないからなかなか攻撃しないが、根の張り方とかすべて無視した倒れ込み攻撃がなりふり構わずといった感じで気に入っている。
ちなみにこれを牛マップでやると大量の牛丼候補生たちが手に入ります。
牛マップの方が楽しいと言えば楽しいかもしれない。
今日はどの種にしようかと、漁っていると、そういえば先日玉手箱、もとい、宝箱から出てきたお宝の1つに種があった。謎の空豆。だそうで、なんだろうねーと話していた。他には器用さを少し上げる海色のスカーフとか、ちょっとした小物がいくつか。みんなのところも概ねそんな感じで少しステータスをあげるようなものが入っていたらしい。
器用さはありがたい。修復するとき腕にでも巻こうと思う。
「ぎょろちゃん、ちょっとこれ蒔いてみようかなと思う」
俺は謎の空豆をぽいっと投げて、唱えた。
「【シードウィップ】」
すると、可愛い芽が出る。
「【ブランチウィップ】」
ぎょろちゃんがミュスを捕まえてきてぽいっとすると、枝がシュルシュルと伸びてべちんとミュスをひっぱたいた。イチコロ。結構きつい攻撃らしい。喰らいたくないな。
「【グローイングアップ】」
謎の、と書いてあったんだ。
そう、謎の空豆。
何にも考えずに育てたのを俺は後悔しております。
《Marchサーバーに空の国への道が開かれました。空の国との戦いが始まります。参加者は空の国への入り口で登録を済ませてください。戦いに負けると周辺マップが空の国の領地となり通行税が課せられます》
始まりの平原周辺って……アランブレ……。
《開戦は1週間後です。それまで偵察や準備、情報収集に尽力してください。詳しい説明は運営公式サイトに掲示されております》
ソーダ:
ちょい情報収集中。なんかあればよろしく。
ピロリ:
空の国ですってー。楽しそう♪ 攻城戦みたいなのあるのかしら!
八海山:
空に関係ある物あったか?
セツナ:
すみません、自首します。
ソーダ:
ちょwwwww おまwwwww 何したんだよwww
セツナ:
乙姫様にもらった『謎の空豆』を【グローイングアップ】した……
柚子:
木魔法か。そりゃ……なんじゃろな。
ソーダ:
乙姫からなら、まだあんまり出回ってないはずだよ。
まあ、すでにスレ立ってて、面白そうってなってる。
場所が始まりの平原ってあるな。セツナとっとと帰って来い。
プレイヤーVS空の国だから、みんな全面的に協力してになる。
はわわわってなってすでに帰還してる俺はチキン野郎ですよ。だってー!! びびった!!
八海山:
まあスレでもみんなワクワクしかしてないからなあ。
問題ないだろう。
ピロリ:
また真鯖って言われるだけよ~♪
それよりも初は楽しいわ。成功しても失敗しても。
案山子:
失敗が、通行税www ヤバそうww アランブレ含まれてるッ!!
ソーダ:
まあ、全力を尽くそう。だな。斥候がすでに乗り込みに行ってるらしいぞ。空豆の木、空の、雲の上まで伸びてる。魔法使い組、これ、登れるか?
柚子:
登るのは別に……あ、私は生活魔法の【木登り】覚えてるからOKじゃ!
ソーダ:
【木登り】便利そうだな。俺も覚えに行こう。
八海山:
スレにその情報載せておく。必要になりそうなスキルだ。
なんてことを話しながらもクランメンバーが帰ってくる。
セツナ:
俺も【木登り】持ってるし、行ってこようかなぁ~
ソーダ:
おうおう、行ってこい。アナウンスで、1週間後ってあったろ? これ、リアルの時間な。てことは、この1週間はそこまで大きな戦闘にはならないってことだろ? こんなでかい戦初めてだから、また公式から追加あるかもしれないし、しばらくはよく注意していこう。セツナお前さ、装備関係どうなんだよ? 俺があげた初期のばっかりだよな。アリの殻で軽くて結構いい防具作られてるし、聞いてみたらどうだ?
防具は全然考えてなかった。そうだな。武器は新調したし、次は防具か。確かにそろそろ考えてもいいし、今回がいい機会かもしれない。
ソーダ:
俺ちょっとロジックとかと話し合いになるらしいから行ってくる。
防具ならイェーメール。だが、俺はまずアンジェリーナさんの元へ。何か起きたらまず本だ! が、もう夜なんだよー。もうすぐ夜中。仕方ないからイェーメールへ行って、オルロさんのところで本を読むことにした。
「こんばんは、夜分すみません」
「おう、セツナか。なんだか騒がしい事態になったな」
あれ!?
NPCもやっぱり認識してるのか。てことは? アランブレの騎士団とかどうなるんだろう。冒険ギルドで募集とかあるのか??
「そうなんですよ。それで、空の国について書かれた本ってないんですか?」
「あるぞ。人口はそこまでじゃないんだが、1人1人が一騎当千なんて言われてるんだ」
そう言いながらカウンターのこちらに来て、本をいくつか選び、さらに店の奥からも持って来てくれた。
「今日は時間は気にせず読んで行け」
「ありがとうございます。その、情報の、方では何かありましたか?」
「まだことが起こってからそれほど経ってないからな。特別これといった話は聞いてない。が、何かあったら伝えてやるよ」
「はい! それじゃあこれお借りします」
もちろんお代は取られますよ。緊急時といえども貸本は貸本!
ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。
誤字脱字報告も助かります。
まったくべつのはなしですが、プロジェクト・ヘイル・メアリー読み終えました。ゴリゴリSFですごかったです。ネタバレ禁止だからそれしか言えないけど、ゴリゴリSF読めるタイプの人は映画になってテレビにネタバレされる前にぜひ。




