234.焼酎と下方修正の話
竜宮城の話を魔術師たちにすると羨ましくてもだえていた。
『焼酎ううう!! ずるい、ずるいのじゃ。どんなのだった? 何焼酎?』
『焼酎詳しくないからわからんな』
と八海山。日本酒派。
『焼酎キツかったから一口でパスした。ストレート無理』
とはソーダ。ロックですらなかったもんな。
『芋はわかるが麦と米の違いはわからぬでござる』
『芋でないのはわかるのよねー』
2人の返答に、最後は俺に期待のこもった目を向ける。
『アルコール認識しかないタイプなので』
酒はあれば飲むがなければ別にどうでもいいし、何でも飲める。
がっくりと肩を落とす柚子だった。
『料理!! 料理はどうなのッ!?』
『料理は……なんとも気まずい』
『それなぁ……だってタイが目の前で踊ってくれてるんだけど食べてるのタイなんだよ』
八海山とソーダが顔を見合わせる。
『お造り美味しかったわ~』
『鮮度抜群でござる』
『カレイのエンガワ美味しかった!』
刺身は大好きだし、そこに酒があるのは嬉しいと思います。
活け作りは趣味が悪いと思いました。
『柚子っち、ちょっと知り合い誘って行こうよ。2人だと勝てない気がする。玉手箱欲しいし』
『私の交友関係生産職ばかりなのじゃ……あとはロジックとかに声をかけるしかないが、それだとあちらはあちらで行きたいじゃろうて』
『そうしたら深淵かなぁ~』
『そーちゃん! ちょっと動画化待つのじゃっ!』
2人が必死だった。
魔術師にクラスチェンジした2人と合流したのはリアル時間3日後。結構長いことかかったようだ。
『いやーローハンはこー、穏やか風を装ったドSだったのじゃ』
『魔力搾り取られたよッ……』
『でもおかげで二重詠唱来たのじゃ~♪』
『そして同時にッッ!! 【フロストダイス】弱体化ッ!!』
そう……そうなのだ……、あの便利スキル【フロストダイス】、ディレイが10秒になりました。なんてこと!! このタイミングの下方修正!
前は投げたそばからダイスに出来てたのにっ!! つまり、ラックごりごり上げてる人はなんとかなるんだ。20秒とか余裕あるから。投げて、氷漬け時間が20秒と決まり、10秒後に動き出せる。器用さを上げていれば詠唱時間が多少減るのだが、10秒で次の魔法をギリギリ出せるようになる。
だけど俺みたいなラック初期値が投げてもむしろマイナス補正で3秒とか多くても9秒くらいまで。10秒以上はまず出ないから、死亡確定である。パーティーなら問題ないけどソロでは使えないスキルとなった。
ぎょろちゃんに投げてもらって、俺がぎょろちゃんに乗ってたら逃げるのには使えるけどね。
『本当のダイス職人ラックごり上げにしか使えないものになったな』
『たぶんオリオンで、こりゃまずいという話になり、二重詠唱あるから魔術師になればそこまで問題ないだろう的な運営の思惑が見える』
『ダイス職人でソロしてたプレイヤーは泣き濡れておるらしいな』
『早く魔術師になるがよい。無条件で二重詠唱獲得じゃ、というか、魔術師になるのが二重詠唱ゲット企画』
オリオンで……俺のせいみたいじゃん!!
『二重詠唱も同じものは出せないしなぁッ』
エンドレスダイスも不可らしい。
今日はイェーメールからかなり先のマップに行ったところにあるダンジョン、通称、虹色ダンジョンにクランのみんなとやってきた。
ギミックダンジョンの最たるものらしく、攻略方法はわかっているのだが、タイミングが大変で楽しいけど難関だという話だ。
『とにかく色の順番は間違えないこと!』
赤橙黄緑青藍紫、これを呪文のように覚えさせられた。
虹色は日本仕様らしい。このゲーム、世界でも遊ばれているらしいが、制作元が日本の企業なので、文句があるなら他のゲームやってくれ。VRは色々あるだろうという強気スタイル。まあ、確かに色々あるしね。山のようにある。しかもサーバーを地域ごとに分けていて、日本は日本サーバーが独立してあるラッキーエリア。日本の企業だから日本びいきでそうなってますと公言している。心臓強いな、運営陣。
なので、入り口がド派手だった。
入り口で虹色はこの順番だよと、攻略のヒントだよと、アーチトンネルが虹色してました。
『森の中にこんなド派手な建物あるの、どういう設定なんだろ』
『さあなあ……このダンジョンだけはコンセプトがわからん。他はわりと自然に溶け込んでるんだが』
白い屋根があって、その手前に虹色のアーチトンネルがある。そこをくぐって地下にあるダンジョンへご招待、となっている。あれだな、某遊園地の配管工エリアに入るときみたいな気持ち。土管の中へご招待。
『とにかく赤から順番だから、何事もあの色の順番にこなしていかないといけない。あと、わりとアスレチック要素があって、素早さがいるんだよ。動けないやつは初めのポイントで待ってて、動けるのが動くんだが、2カ所同時があって、俺かピロリが半蔵門線の足引っ張ってたんだ』
『セツナ殿には期待しかないでござる』
『素早さはあるけど、アスレチックが得意かは正直わからない』
『失敗するとモンスターが出発地点を襲うでござるね』
『せっちゃんにかかっておるのじゃ!』
プレッシャーが酷い!
レインボートンネルを抜けると、真っ赤な扉が見える。
『最初は赤。赤の間だ。ここはアスレチック。ペナルティーはないけど、失敗するとモンスターが出る』
中は真っ白な洞窟だった。結構深く潜らされたので、空洞がすごい。ドーム型球場みたいにとても広い円形の空間がある。
俺たちが入った場所は、その広い空間の1番外側の一角。そこからさも、踏んで飛んでくださいというようにカラフルな石があちこちに浮かんでいる。15×15くらいの大きさで、片足でタップして次の石へ飛ぶような、そんな感じだ。
『ほら、中央にさ、ボタンあるの見える? 赤いやつ』
ソーダに指さされて俺は目をこらす。【鷹の目】さんお仕事お願いします。
ボタン。あるな。叩いたらピンポンって鳴りそうな形状をしているやつが。
『しかもここは虹色ダンジョンッ! 初見殺しの間ッ!』
『初見じゃないなら教えてくださいよ』
『えー、せっちゃん、大丈夫。私たち、モンスター出ても倒せるからっ!』
失敗する前提で語って来たよ。
『せっかくだから楽しめ』
みんなにサムズアップされた。
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ちょっとしたおつまみ程度の虹色ダンジョンでござる。珍しく2名以上のパーティー専用。




