233.半魚人との戦い
『とにかく、あのトライデントをヤツから引き離すのが急務だ』
『あー、俺が【引き寄せ】は出来るけど、あいつの手元に戻る魔法か何かが厄介』
『オールを手元に持ってきたやつか』
『じゃあ、セツナくんが捕ったトライデントを私が預かるわ。綱引き……棒引きねっ』
『それじゃあその間に拙者仕掛けるでござるかぁ~』
それぞれの役目を確認したところで、ソーダが宣言する。
「【一身集中】」
これで多少は攻撃先がソーダよりになる。
「【投擲】」
そう言って飛び出すのはクナイ。あ、バレないの? 大丈夫?? まあ、あの奴隷商人をやったときは、クナイは見えていなかったかも? いつの間にかクナイ消えてたし。あのときの映像は不自然に切り取られたものしか渡してない。
ソーダはあくまで何も言わなかった。
じと目で見られたけど。
バタフライ泳法のように足を揃えて動かしてぐんぐん進む半魚人に、俺らは翻弄される。一応ダガーは氷付与して構えている。近くに来たときに【ひと突き】すると、当たらずとも氷が伸びて多少は避けるような動きをしていた。そして、大きく振りかぶりトライデントを放ってくる。
「【引き寄せ】」
俺のスキルが発動すると同時に、ピロリがすかさずそばに寄ってくる。
ソーダの盾を狙っていたはずのトライデントがこちらへ引っ張られた。しかし、相手もその不自然さに手を真っ直ぐトライデントへ伸ばす。あれがきっと手元に戻すためのスキル発動の印。
「【沸騰】」
その指先を熱してやると、やはり魚類? 慌てて手を引っ込めていて、無事トライデントが俺の手元へ。すかさずピロリがその柄を掴む。
半魚人が手を伸ばすモーションをするたびに【沸騰】を仕掛けていると、苛立ったのかこちらへ真っ直ぐ向かって来た。
トライデントの前に降り立った半魚人にピロリは逆にトライデントを向ける。掴まれたら負ける気がして、俺も邪魔をしていると、どこからか声が響く。
「【居合い斬り】」
【隠密歩行】で半魚人の後ろ側に回っていた半蔵門線が、半魚人の足を切り落とした。
叫び声が辺りに響き渡る。
かき消すように鳴り響くゴング。
「赤コーナー! ソーダと愉快な仲間たちの勝利!!」
5対1なんだけどね、そこは許されるらしいです。
てことでおめでとう、優勝だ!
《ミッションクリア!!》
宴会場はとても豪華だった。ピンクカメの言うとおり、タイやヒラメの舞い踊りを見せてもらいながらタイやヒラメの活け作りを食べるというなかなかにエグい事態だった。
でもお刺身好きだから普通に食べるけど。
竜宮城内のこの宴会場は食事スペースに限っては海水がない。料理びちゃびちゃになっちゃうしね。
お酒も出た。
柚子、来たかっただろうな。この動画みたら発狂するかもしれん。これ、たぶん焼酎。焼酎はまだ見つけてないって話を聞いたことがある。
「善き哉、善き哉。今日の戦い誠に天晴れであった。しかも来訪者とは。面白き試合。わらわは満足である」
乙姫様、黒髪で美人さん。ふんわりとした薄紫の着物に、ゆらゆらと揺れる薄い細い布をいくつも身体に纏っていた。被帛というらしい。水もないのにゆらゆらしている。
手には芭蕉扇みたいな緑色の団扇を持っていて、それでちょいちょいと魚たちを呼んで食べ物を運ばせていた。なんと魚たち、この水のないエリアに出ると、ドロンと人の姿に変わるのだ。つまりきっと、乙姫様も……。
「そなたもよい働きであった」
乙姫様がお誕生日席に、俺たちはその右手に座っている。左手の方向に、俺たちと対戦した相手がいた。頭に包帯を巻いたハンマーヘッドシャーク擬人化と、半蔵門線に切り落とされた足に包帯を巻いた半魚人。足はくっつけたみたいだ。
「ありがたきお言葉」
足切り落とされてあぐらかいてるのキツいだろうな。
「戦いの後には宴会である。来訪者とはよく眠るのであろう? 眠くなったら部屋を用意してあるからそこでゆるりと休むが良い。何も心配はいらぬ。起きたら地上へ送らせよう」
とは言われたが、まだ地上は朝だ。
『ヤダヤダ。帰って本屋に行きたい!!』
『そうね~もうひと狩りできるわよねー』
「お気遣いはありがたいのですが、地上で我々を待っている者もおりますので、そろそろお暇しようかと」
ソーダが代表して固持すると、乙姫は心底残念そうな顔をしてそうかと立ち上がった。
「優勝者には褒美を取らせねばならぬ。そなたたち、宝物庫への道を!」
乙姫様の後をついていくと、サメたちがずらりと並んでいる。乙姫様はその背をひょいひょいと移動した。
『い、因幡の白ウサギ……』
『皮を剥がれるでござるぅ!!』
微妙に歯をガチガチ言わせてるんだよぉ……。
宝物庫は大きな蔵だった。かっこいいなぁ~。朱塗りの蔵ってどうなのよって感じだが。まあここでだまし討ちなんてないだろうということで喜び勇んで飛び込んだ。
金銀財宝何でもござれ状態。……ではなかった。箱が、箱が山ほど積み上げてある!
「好きなだけ吟味するとよい」
どうやら箱を選ぶゲームが始まったようだ。
『セツナぁ!?』
『残念、【鑑定】ではどれもこれも『宝箱』だよ。たまに、玉手箱混ざってるから危険かもしれん。年はとらないとは思うけどさ』
ということで俺たちは宝箱を目指して吟味開始。これ、振ると音がするんだよ。そして音がすると表記が少し変わった。
『これ、『小さな幸せがいっぱい宝箱』になった』
好きなだけと言われたので思い切り好きなだけ振って振って吟味させてもらった。【鑑定】大会。
玉手箱は音も何もしない。怖い。
結局、細長いものややたらと大きいものもあったが、みんなそれぞれ両手で抱えられるくらいのものを持って行くことにした。
「それでよいのか? では送らせよう。しかし……残念じゃ」
と、突然ため息を吐く乙姫様。
「わらわは強く美しい者が大好きじゃ。ステゴロ万歳じゃ。皆、どうも武器に頼りすぎてのう」
……ちらりと俺たちの武器や、トライデントを見ている。
「わらわと拳で語り合えるくらいの者はいないかの?」
『新職の匂いがする……』
『この乙姫、ヤバそうだわ』
『闘拳士あたりか?』
『武闘家かもしれないでござる』
『あとで、ステゴロスレに投下しておいてやるかぁ……』
のちのち判明したが、温泉宿の話はレベルが一定以上の者しか拾えず、さらに温泉に2回目以上という条件付きだった。
トーナメントに武器を使わずに拳1つで出場すると、勝っても負けても闘拳士として乙姫に育てられるルートが生まれたのだ。
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新職解放要員乙姫様!!
アイテムポーチは後ほど回収できました。




