23.強制労働からの強制連行
小人族のハザック親方は、実力派の建築士だ。特に石積の技術はアランブレで、一、二を争うという。
今回はお城の一部を新たに積み直すこととなったそうだ。
そう、アランブレ、南門から真っ直ぐ北に伸びる道の先にはさらに大きな門があり、お城があるのだ。
それはそれは立派なお城。門の向こうには貴族街があり、さらに奥に白亜の城がそびえ立つ。
珍しい体験をさせてやるぜと連れて行かれ、今、石運びの強制労働をさせられている。
「筋力に頼るな。これは技術だ!」
石を運ぶための一輪車を、必死で押しているセツナに、先輩たちが声を掛けてくる。
筋力じゃないのは分かってる。
だが、1回運び終えるごとに石が増えていく。
めちゃくちゃ様子を見られている。
「おうおう、なかなかいい腰つきじゃねぇか! この1時間でかなり様になったな」
セツナを巻き込んだ張本人、ハザック親方が、運んだ先で石の形を見極め、1つずつ積むという大変な作業を行っていた。
「親方……俺なんでこんなことしてるんですか……」
「まあもうちょっと待ちねぇ、ある程度運んだら俺の妙技を見せてやるからよ! 石造りの家に興味あるんだろ?」
おおおお……余計なことを言ったな、あの時の俺!!
とにかく押しが強い!!
あれよあれよという間に巻き込まれた!
しかも貴族門内に入るのにめちゃくちゃチェック入った。門番に不審がられているのを押し通すから、バックレるために逃げることもできない。下手なところで見つかったらヤバイことになりそうだ。
準備されている石を、大きさに分けて親方の周りに置く。
勝手に新しい弟子にされていて、いやいや、知らないって……。
「うーむ……イマイチだな。おい! この石の仕入れはどこだ!」
そばで何やら書類をチェックしていた、明らかに親方のところの職人ではない人に聞くと、彼は書類を1枚ヒラヒラとさせて持ってくる。
「ヨーラン商会ですね」
「チッ、中途半端な仕事しやがって……お前ら! 石取りからだ!」
親方の号令に、何故かみんな喜んで手を叩いている。
「これはヨーランとこに突き返してやれ」
「ダメでしたか」
「素材の始末が悪すぎる。しかもこいつらがあとから運んでくるほど質が悪くなる。つまり、表面はマシなもん置いて、内側に質の悪いものを置く。わかってやってんだよ」
「悪質ですね」
「まあ、どっちの証言信じるかは知らねぇが?」
「ハザックさんの仕事を疑うようになったら、私もおしまいです。こちらで手配いたします」
「おう、頼んだ」
「任されました。船の準備は致します」
「即出発だ」
即出発です。
強制労働の次は強制連行だ!!
さあ行くぞ〜と呼ばれて、質問する間もなく運河に準備してある小舟に乗せられる。両側を職人の兄貴達にガッチリ固められている。
い、いやだ……。なんか絶対嫌だ!!
しかし、ゲームの強制退去などの無理やり感と同じく、今回も勝手に足が動く。そして、小舟に乗り込んだところでようやく口が動いた。
「どこに行くんですか!? 俺も行かないといけないんですか!?」
返ってくる台詞は予想がつくが、問わずにはいられない。
「貴重な体験ができるから、楽しみにしてろ」
ハザックがめちゃくちゃいい笑顔で言う。
「俺にも用事が……」
「んん? そんな急ぐことあるのか?」
あるよ! アンジェリーナさんとかアンジェリーナさんとかアンジェリーナさんとか!
「まだたいした戦闘経験ねぇんだろ? 面白いもん見せてやるよ」
何言っても無駄なやつ。
仕方ないので情報収集することにする。
「どこに向かってるんですか?」
「このあとあそこのでかい船に乗り換えて、岩島に行くんだよ」
目の前には、接岸できないため小舟で移動して乗り込むタイプの大きな帆船があった。
リアルでも乗ったことがない。
か、カッコいいなっ!!!
本来は行くぞ! で出発なんてとうてい無理だろうが、荷物も全部乗ってますよ! 準備万端。
船から垂らされた縄梯子を登る。いきなりやれと言われたら、かなり尻込みするやつ。そういった意味で、疑似体験は楽しい。でも、俺のこのレベルで大丈夫なんだろうか?
「帆を張れ!!」
ハザック、ではなく、すでに乗り込んでいた船長らしき人からの命令で、みんなが一斉に駆け出す。
何をしていいのか分からずにワタワタする。
「セツナ! こっち来い!」
ハザックが、船長の横に立って呼んでいた。船長、帽子が黒の三角帽でフサフサの緑の羽根がついている。イメージ海賊なんだけど、それ。
「船で3日ほどかかる。セツナは来訪者だろ? 寝る時間になったら教えろ。それまでは……船は素人が手を出せるもんじゃねぇから、黙って見ておけ」
職人の兄貴たちは船にも慣れているようで、次々に帆を張り準備を整えていっている。
黙ってか……暇だな。もう少し時間があるのだ。
その俺のそわそわが伝わったのか、船長が釣り竿を持ってきた。前に使ったような簡単なものじゃなくて、ごついリールまであるやつだ。
「船酔いもなさそうだし、これで夕飯でも釣ったらいい」
この大きな船の外にどうやって糸を垂らすのかと思ったら、船嘴の縁に何人かの船員が座って長い長い糸を垂らしていた。
この船、すごくでかい。豪華客船とかのでかさはないが、これで糸が垂れ下がってもとうてい釣れないと思う。
が、不思議なことに同じように座って餌をつけてもらって糸を垂らすと、すぐ竿がしなった。
「お! いいね、海に愛されてるな」
釣り上げたのは赤い魚。タイっぽい。
垂らせば垂らすだけ釣れた。
これは、【ビギナーズラック】発動してるな。
船員に褒めそやされて、今夜はごちそうだと喜ばれる。
ふと、ステータスを確認すると、【海釣り人】という称号が増えていた。称号の効果は特になく、海釣りを一定時間するともらえるようだ。釣り以外することないからな。
そしてスキルが生えていた。【釣り】スキルからの【海釣り1】これ、川や池もあるな。この間の太公望の池はゲーム内で1時間も釣っていないから、生えなかったやつだ。かれこれ2時間は釣っている。
スキルのところにはこうやって枝分かれして様々なスキルが生まれるらしい。
そしてそのスキルの多さに驚くそうだ。
【酔い耐性1】というスキルも見つけた。船酔いからの、だな。特に酔った状態にはならなかったが、VRなので酔いのエフェクトが入ったら本当に体調を崩す人も出てきてしまうだろう。そのための処理がされているのかもしれない。だが、とすると、この【酔い耐性】はいったいどういった効果が生まれるのだろうか?
「うわあああ!!」
突然、隣で釣りをしていた船員が叫び声を上げる。
はっとしてステータスを消すと、驚いて釣り竿を離してしまった。海の中へと消えていく。船員や職人たちが何人も、叫んだ男とその竿を掴んでいる。
「釣り竿を離せ! 総員緊急配備!」
船長の怒号が飛ぶ。
職人の一人が俺の腕を掴み、船嘴から中へと引っ張る。
「セツナ! お前は中へ」
「何ですか?」
「クラーケンだ! たまにこの海域に出るんだ!」
まさか、【ビギナーズラック】さんがとんでもない仕事をしてくれた?
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お約束のクラーケンです!




