229.聖地の話と魔法使い組
「聖地?」
ソーダがじっとこっちを見て言う。
「そう。ヴァージルが連れて行ってくれるって。聖地の場所知ってる?」
「この世界の中心と言われてるな。たぶん中央にあるんだろう。アランブレは真南だ」
とは八海山。
「イェーメールはアランブレの東の方よね。街の入り口は場所によって違うけど基本反時計回りに都市が続いてる感じ」
「1番北が第7都市予想なのじゃ」
「ファマルソアン殿の本拠地でござるね」
クランメンバーの発言にヴァージルはうんうんと頷いていた。
「まあ、しっかり均等にあるわけじゃないけれど、だいたいその認識で合っているよ。アランブレの西側は第12都市だね。ただ、間にかなり深い渓谷があって、騎獣でも飛びきれないから、行きにくいのは第12都市だ。大回りになるが聖地から第11都市を経由していった方が早い」
そんな仕様らしい。
「第8都市の騎士様が、細剣の固有スキル教えてくれるんだって。で、第8都市も遠いから、それなら聖地で開催される奉納試合があるから、そのとき一緒に行かないかってヴァージルが誘ってくれた」
クランメンバーたちは俺の振りを理解しただろう。
ギラリとみなの目が光る。
「うらやまなのじゃぁ~私もー私も行きたいのじゃぁ!!」
「聖地ッ!! 何か見たことない食材ある!?」
「いいなぁ、新しい場所に行くのは」
「えーっ! セツナくんだけなのー私も行ってみたい! 自費で行くから、ヴァージルさん、ついて行っちゃだめ!?」
「ピロリ、迷惑だろう、やめろ」
連携がすごいな。
「聖騎士団から10名ほどと行く。途中休憩をはさみながらで、セツナは眠る時間が長いから俺だけ先に行こうとは思ってるし、別にみんな一緒に行くのは構わないよ。あちらでは済ませなければならない用がたくさんあるからあまり一緒に行動はできないけど」
「帰りのポータルは任せてもらおう」
八海山の言葉にヴァージルは目を丸くして、考え込んだ。
「それは……とても嬉しい提案かもしれない」
帰り道短縮出来るのは嬉しいよね。NPCはポータルは出せないけど乗ることはできるし。
「もう少し先のことだけど、一緒に行くのは問題ないし、君らの眠りの時間に合わせることもできる。騎士団と一緒に行くか、俺だけ別に行くかはまた検討させてくれ。途中の町で宿を取りつつになると思う。騎獣もあるし、行きは休み休みなら5日ほど見ていてもらえると助かるな」
たぶん、俺らの睡眠と、ヴァージルたちの睡眠の取り方のずれ、だな。俺らだいたい1日半弱、ぶっ通しで動いてるから。
「楽しみにしてます!」
「みんなで行けるならそれもいいなー」
先に楽しみがあるのはいいことだ。
結局、海鮮丼も楽しめたヴァージルは、昼前に帰って行った。八海山のポータルで送り出した。
「聖地……」
「聖地でござるよ」
「聖地なのじゃ!」
「めっちゃ楽しみじゃな~い!!」
クランメンバーがきゃっきゃしだす。
「これ、どうなのかなぁ……聖地解放されると思うか? それともNPCによる招待制」
「微妙なところだなあ。ただ気になるのは奉納試合、だな」
「それッ! なんかありそうッ!!」
「解放されそうな気もするなぁ~。一時期だけなら、専用ポータルが開いたりして」
運営によるお祭り企画か。
「とりあえずしばらくは黙っておくか」
「面倒なの寄ってくるからね~」
「承知したでござる」
と、食事をしながらそんな話をしていると、愛する人からのメールを受信だ。
『この間の魔法使いに関してのお返事よ。商人さんを通して会うことは可能ですって。ただし、最初の、セツナくんの友人さんは、セツナくんも一緒に伺うこと! お返事は直接この間のお店に行ってちょうだい』
俺もーっ!? 魔法使いはとうてい無理なんだが。なんと言っても知力が足りない。
だがまあ、せっかくのチャンスだしちょうど2人は目の前にいる。まあ、行かないわけがないのだ。
なんと、聖職者には酒を抜くスキルもありました。
柚子が悔しがりながらやってもらってた。酒臭い身体で行くわけにはいかないからね。
俺がもちろん本のことは話さず、とある伝手でと2人に伝えると、当たり前だと行く手はずになった。
なんたって重複詠唱だもんね。
何か魔法を唱えながらもう一個いけるなんてドリームである。
商人さんにでは早速と連れられて、貴族門をくぐり、大きなお屋敷の前にやって参りました!
「言葉遣いには気をつけて。先方には来訪者であるとは告げてありますけれど」
「はいなのじゃ!」
「わかりましたッ!」
勢いがすごいんだよな、この2人。
門のところで来訪を告げると屋敷の中に通された。しばらく待たされ、やってきたのは――、
「セツナ君久しぶりだね、そちらがご友人?」
「あれっ!? 木魔法の!!」
「本業は雷ね」
そう、マジックストーンゴーレム狩りのとき、雷担当して木魔法の【グローイングアップ】教えてくれた人だー!
お名前はローハンさん。
なんか聞いたことのある名前。
「魔法使いギルドのタペストリーの魔法使いさんの名前がローハンザラハルだったのじゃ」
「ええ、俺のご先祖様だね。偉大なる大魔法使いローハンザラハル・アースラッテ。そこから名前をいただいて、ローハン・アスラッテ」
「柚子なのじゃ! よろしくお願いしますなのじゃ」
「案山子ですッ! よろしくお願いしますッ!!」
2人ともRPは止めない姿勢。
「今回は古い本を修復してもらってね。そこにはローハンザラハルが研究していた重複詠唱について書かれていた。おかげさまで俺の魔法使いとしての力も上がったよ。こういったことは秘伝として家門に伝えて行くべきという御仁もいたんだが、俺としては広く知ってもらって魔法使いの質を高めた方がいいと思うんだ。かなり厳しい訓練になると思うが、2人は覚悟できているかな?」
「ハイなのじゃ!」
「もちろんですッ!」
はなから俺には聞かれない模様。まあ、魔法使い職やめちゃって付与師になってるからなぁ。そして何より知力が足りぬ。
「それじゃあ2人の身柄はこちらで預かるよ」
「あ、でももう少ししたら眠りの時間が来るかと……」
「来訪者の体質は把握しているよ。そこら辺も含めて俺の管理下でびしばし鍛えようと思う。2人の習得の感じを見て、他の人が習得するときどのような過程を踏めばいいかを検討させてもらおうかなとも思ってるんだ。誰も彼も俺が面倒見るわけにいかないからね。わりと忙しい身なんだ。ノウハウを把握できたら魔法使いギルドに丸投げしようかなと」
ふむふむ。つまり、魔法使いギルドで覚えられるようになるってことだな。
俺はローハンさんにしっかりとお礼を言って、屋敷を辞した。八海山や半蔵門線が新職に就くとき、かなり大変だったのを思うとこちらも一筋縄ではいかなそうだった。
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誤字脱字報告も助かります。
上級職がちょいちょい見つかっていく感じですね。




