222.ロポルトさんのお店へ
さて、このまま忘れてもいい。
だがあまりにも、誘われている気がする!!
ということで例の麻痺薬ロポルトさんの様子を伺おうかなぁなんて思ったのだが、問題はどこの人!? てことだ。
薬師のことは薬師に聞け!!
「ヤーラさんこんにちは〜この間はレシピ教えてくださってありがとうございます!!」
手土産は案山子印の蜂蜜カステラだ。
ほんと、日々新しいメニューが出てきてすごい。
「甘いものとは気が利くね! 治療院には持っていったのか?」
「はい、ついでに【鑑定】のアルバイトもしてきました」
「【鑑定】か。来訪者だけのうらやましいスキルだね」
「品質の良し悪しとかがわかって良かったです。それで、ロポルトさんってご存知ですか? 薬師の」
俺の質問にヤーラ婆がピクリと眉を動かし難しい顔をする。
「ロポルトがどうした?」
明らかに知ってる模様。ただ素直に伝えていいものか悩む。
「あれは、亡くなった知り合いの弟子でね。何かあったなら教えて欲しい」
そう、真剣に尋ねられて、さすがに隠し通すのは難しいと思った。
実は、と治療院であったことを話すと、ヤーラ婆はさらに難しい顔をして唸りだす。
「理由を考えたんですけど、治療院で使うものだし、自分の薬師としての信用を落とすだけだと思うんですよ」
何かメリットがあるようには思えない。
「麻痺薬って、何に使うんですか?」
「基本は罠だ。罠と併用して使うものさ」
基本は、だ。
俺がじっとヤーラ婆を見ると、ふう、とため息をつかれた。
「不埒な輩が使うものでもあるな、例えば、人攫いとか」
そう聞いて思い出すのはトムのこと。
この街に来た時、街から追い出される羽目になったのも人攫いだ。
なんだか人攫いが横行している。
「お前さん、誰か兵士に伝手はないのかい? 私は腰がやられててね。見に行ってもらいたいが、1人じゃ不安だよ」
「あー、と」
フレンド一覧をパーっとスクロールして見つける。
「オーランさんとか」
「おお! いいな。あいつと一緒にロポルトの店を見に行ってくれないか?」
もちろん、NPCの幸せはアンジェリーナさんの幸せ。というかまあ、普通に気になる。
『お久しぶりです、オーランさん。今お時間よろしいですか? 実は一緒に行ってもらいたいお店があるんです』
フレンドハトメールを送ると、すぐに返信が来た。何度かやりとりして、ヤーラさんから聞いたロポルトの店近くの道で落ち合うこととなった。
「久しぶりだね、セツナくん」
「オーランさん、お元気そうでよかった」
挨拶を交わして店へ向かう。NPCの商店が並ぶあたりだ。特にこれと言って店構えに不審な点はない。
チリンとドアベルを鳴らしながら中へ入ると、奥から顔色の悪い男が出てきた。
「……いらっしゃいませ」
ボソボソと、とうてい客商売と思えない対応。まあ、ジジババレベルだと応対が横柄は普通にあるけどね。ローレンガの貸本屋とか!!
それでも声は聞こえる。
ボソボソ過ぎてよく聞かねばならなかったのだ。
薬屋なので、ヤーラさんの店と同じようにたくさんの薬草が吊るされ、乾燥した様々な草の匂いがする。
「セツナくんにこの間のお礼をするんだから、よく見て好きなものを買うといいよ」
オーランのセリフに、俺はありがとうございます!! と元気に答えてよく見る。
【鑑定】大会だ。
目に入るポーション瓶、片っ端から鑑定する。
だが、ごくごく普通のロポルトさんのポーションだ。
「うーんないなぁ〜」
俺のつぶやきに、オーランはふぅんと漏らした。
「罠師のお友だちへのプレゼント、だっけ?」
「そうなんですよー。最近こちらにきた来訪者の友人で、罠に使う薬とかがあればと思っていたんですけど、俺、そこまで罠師に詳しくないから」
「俺も、弓矢罠はあまり知識がないな……店主はなにかオススメはないのか?」
自然な会話の流れで、ロポルトを交えた話が始まる。
「えっと……」
「罠に薬とかを使うって話を聞いたことがあるんですが」
「そう、ですね……ええ、トラバサミの歯に毒を塗ったりは……します」
「どんな毒なんですか?」
「ええと……」
俺とオーラン2人してグイグイ迫ってみると、奥でガタリと音がした。そしてやってきたのはガタイのいい男。
顔ぉー!!
堅気じゃない!!
「お客さん、どうされましたか?」
声、低い低い!!
客商売で威圧してどうするん?
人相が極悪。頬に傷。三白眼で睨んでる!!
ちなみにオーラン、今日は私服なので兵士とはバレていない。
「俺の友だちが罠師になったんですよ〜、で、お祝いをあげたいなとおもって!! あ、来訪者です! で、何がいいかな〜と思ってたら、こっちの友だちがー、罠を作る時に〜薬を使うことがあるって話を聞いたとかで〜今日はこちらのお店に伺ったんです! お兄さんも薬師さんなんですよね? ご存知ないですか、よい薬!!」
間延びした話し方で苛立ちを誘ってみる。
ロポルトはプルプル震えていた。
「あれ、ロポルトさんどうしました? 寒い?? え、風邪引いたとか??」
人相悪男もロポルトの様子にさらに表情を極悪なものにチェンジさせる。
「え、ほんとに調子悪そう……」
「大丈夫ですか?」
俺とオーランが店のカウンターの中に入って行こうとすると、人相悪男が止める。
「どうも調子が良くないようだ。悪いが今日は帰ってくれ」
「薬師ですもんね!! お薬、どれ飲めばいいです?」
「あまりひどいなら医者を呼ばねば!」
人相悪男の話を無視する俺たちに我慢できなくなったのか、カウンターから出てきて物理で店から追い出そうとしてきた。
これはどーしたらいい? とオーランとアイコンタクトを交わしていたのだが、悲鳴のようなロポルトの声が上がる。
「た、助けて!!」
「【フロストダイス】」
2✕2で4秒。
「【捕縛】」
え、なにそれ!? 前に使ってなかったよね!?
捕縛術というものらしく、NPC兵士の基本スキルらしい。大きな男がいとも簡単に捕まっていた。
《クエスト∶脅された薬師 をクリアしました》
なんでも、ロポルトは脅され、店で彼らに麻痺毒を作らされていたらしい。妻と子どもを盾に取られていたので従うしかなく、それでもこのまま続けるわけにもいかず、苦肉の策の、治療院納品分への麻痺毒混入だったそうだ。
治療院なら、冒険者が危ない時に使うわけではないし、医師がそばにいるので対処できるだろうと思ってのこととか。
にしても無茶だけどな。
オーランが、人攫いがこれで少しでも減ればいいがとこぼしていた。
ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。
誤字脱字報告も助かります。
と思ったけど、あんまりにも薬師の話が空きすぎるので急遽挿入しました。
人攫いは、キーワードの一つっ!!!
みんなもコロナ気をつけてね。




