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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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217/362

217.刀匠の病の原因

 そうして俺と半蔵門線は家の中に通された。

 奥さんと旦那さんの2人暮らしのようで、部屋数は少ない。部屋の中央に布団が敷いてあり、顔色の悪い男性が眠っていた。


「【鑑定】。……刀匠のユキヒコさん。ムジナの……」

 呪いとまで言えなかった。

「ムジナでござるか……」

「ムジナ……」


 奥さんが何やら考え込むので、俺と半蔵門線は顔を見合わせる。


『なんぞ、心当たりがありそうでござる』

『ですねー。ムジナって何だろう』

『ムジナはタヌキなんかのことを指す方言でござるね。ただ、こー民衆に伝わる話としては妖怪寄りの呪いなんかをかけて悪さをするタイプのものでござる』

『ああ……ムジナの呪いって書いてあるんですよ』

『ビンゴでござるねー』


 そして、実はと話を始めた。

 刀匠のユキヒコさんは、新しい日本刀が出来上がるとその仕上がりを確認するために試し切りを行う。彼は冒険者としても実績があるという。

 寝込む前に出来上がったばかりの日本刀を携えて、いつものごとく試し切りに出掛けたそうだ。

 帰ってきた彼はむっつりと黙ったままで、やがては微熱を出し病の床に就いた。


「ふむ……して、その試し切りの場所はどちらでござろうか?」

「普段はローレンガからウロブルへ向かう道中で行っているようです。私は足手まといになってしまうので、いつも帰りを待っています」


「ウロブルへの道のりかぁ」


『なんか最近聞いた気がする』

『クランハウスで話していた人数制限がありそうなやつでござるね。ちょっと掲示板調べてもいいでござるか?』


 了承して俺は奥さんと話を続けることにした。


「どの辺りかちょっとわからないですけど、見に行ってみます。何かヒントがあればいいんですけど……」

「あ……主人はいつも藤の花びらを着物に付けて帰って来るんです」

「藤の花びらですね。わかりました」

「見ず知らずの来訪者の方にお願いするのは心苦しいのですが……」

「友人が日本刀に興味があるんです。元気になったら是非見せてください」


 奥さんは悲しそうな顔をしながら笑った。


 掲示板に夢中な半蔵門線を引っ張って、『湧き水亭』へ向かう。が、もう食べ終わったから店を出たと言われた。

 俺も食べたかったのに~!!!


 仕方ないのでウロブル方面への出口で待ち合わせ、合流した。


『やっぱり関連っぽいでござるね~。どうもクエストにおさわりした御仁は、リアル時間1週間前くらいに、ウロブルへの道で着物姿で日本刀を持った男に会ってるらしいでござる。本人拳派だった故、まったく興味がなく放っておいたという次第。で、その頃から男に会った辺りで商人がそれはもう見上げるほど大きなモンスターに遭遇して、という話でござる』

『え、拳で戦う人いるんだ』

『闘拳士でござるね。まあ、職業見つかる前は戦士でステゴロサイコースレでぴーぴー言ってたでござる』

『武器のあるゲームで狂気の沙汰とまで言われてたけど、まあ、あるわよねー』

 メリケンサックみたいなやつを着けて、攻撃力を増すらしい。


 周りにいないから全然知らなかった。


『ローレンガは和テイストだから、見上げると聞くと見上げ入道を思い出すね』

『そういうときは、見上げ入道見越したりって言うのじゃ~』

『ムジナ、化ける系でしょッ! 見上げ入道に化けてるのありそうッ!!』

 見上げ入道。昔、本で見た気がする。


 藤の花という情報を頼りにウロブルへ向かう。この辺りの魔物は結構強い。1番最初に通った時は、たくさんのプレイヤーと駆け抜けたのでそこまでとは思わなかった。

 単騎なら騎獣に乗って振り切るのだが。この人数だとどうしても機動性の問題で遅れが出る。そして遅れたところが狙われるので、慎重に歩いて行くことにした。


『セツナの幸運値がもっと欲しい』

『器用さ上げてねってアンジェリーナさんに言われたから余裕ない』

 単騎の大きなモンスターにはかなり有効な【フロストダイス】。無防備状態からの、ピロリの一撃はダメージがすさまじい。双剣なのに!! どちらかというと双剣は手数重視だと思うのだが、ピロリは片手剣と同じようなダメージを両方の剣から繰り出すのだ。


『ステータスにはかなり気を遣っていますから~』

 乙女のたしなみみたいなていで言われてもなぁ。


『双剣の付与剣って……レインボータートルエッグの無属性、2ついる?』

 ふと思って尋ねるとみんな黙った。

 必要そうだよね。


『頑張ってお金貯めるわ』

 それでも諦め切れない付与剣。

 というのも、俺が今雷を付与している。その上で【紫電】を見せたらとってもかっこよかったらしい。


『セツナくんにおんぶに抱っこになっちゃうけど、マジックストーンゴーレム狩りもお誘いして少しでも経費を減らしてお願いしないと』

『拙者も日本刀の付与剣あったら……いや、小太刀の方がビジュアル的に忍者っぽい……くっ』

 理想と現実の狭間で楽しくもだえている半蔵門線だ。まあ、服装をとことん揃えたのだからやりきりたい気持ちはわかるが。


『日本刀はもうすでに呪いが付与されてただろう』

『浄化したけどな』

『すっきり綺麗になっちゃったでござるよ』

『1度魔法も覚えないとよね~。まあ、火と氷と雷かしらねえ』

『触媒探しもあるよッ!』

『やることが色々あって大変じゃな』


 大変だけど楽しい付与ライフ、だ。


 そうこうしているうちに、噂の見上げるほど大きなモンスターが現れるスポットにやってきた。

『さて、7人だと遭遇できるかどうか……』

『それでござるが……我らいわばクエストのやる気スイッチ踏んでるという判定入ってるでござるよ。たぶん。メイビー』

『あー、人数制限じゃなくて、クエストのほうで入れるやつか』


 ちなみに大きなモンスター、2人で向かうと確実に出会えるが、パーティー上限の10人だと会えなかったという。


『鬼が出るか蛇が出るか』

『ムジナよ出ろッ!』

『妖怪のムジナの弱点は特に見当たらなかったでござるね~うぇぶ情報』

『なら獣認定で火かしらね』

『様子見つつで』


『先に手を出してるのは刀匠のユキヒコさんの方だしね』

『そこら辺よね~』


 と話していると、大きなお坊さんの姿が見えた。


『あら、当たり』

ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。

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見越しするのじゃ~

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― 新着の感想 ―
見越し入道、私が読んだことあるのだと、袴の中身()が見えるレベルまで大きくなったタイミングで中身()見ながら、「小さい」というと、恥ずかしがって小さくなるというやつでしたね。媒体の違いか年齢制限のほう…
付与剣、まずは見積もりからだなぁ。これで違う素材が必要になったら乾いた笑みが出るし。双剣だと左右で違う属性の時にだけ使えるスキルありそうなのがロマンですよねー。その分お金かかるけど
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