215.堕落した苦痛
まずは初手、いつもの通りソーダが全面に出る。
「【一身集中】……できるのかなぁ?」
初対峙だもんなぁ。何をしてくるかわからない。
『弱点属性聖、ただし、属性が変わる?』
案山子が疑問形で言う。確かに、俺の【鑑定】でもそうなっている。
とか言っていたら腕の1つがぐるぐると手のひらを回し始めた。俺と柚子の足下に赤い円陣が展開される。
反射的に柚子を担ぐ。
数瞬後、噴き上がる火柱。
『【ファイアーピラー】だ!!』
『魔法使い系なのね~』
『少しずつ様子を見ながらやっていこうか』
ヴァージルがそう言って駆けだした。
『半蔵門線は一応案山子のフォローよろしく。ピロリは八海山な!』
『か弱い女の子に~この長身わんこ担げないわよぉー』
『1番ムキムキなのがピロちゃんなのじゃ~』
『拙者より背の高い案山子殿担げないので、引きずる方向で』
『扱いッ! 酷いッ!』
なんとも賑やかなパーティーチャット。
「【ひと突き】」
様子見なので固有スキルではない、普通のスキルを発動するヴァージル。
ダメージは結構入った模様。やっぱり弱点属性なのが強い。が、黒いでろんとした塊から生えていた手足が蠢く。そしてその内の1つがまたもやひらりひらりと手首を回し、案山子の足下に円陣が広がった。
『【ウォーターボーテックス】だ!』
足下から水が渦を巻いて湧き上がってくる。間一髪で半蔵門線が案山子を引きずった。本当に担ぐのは無理っぽい。
さらにアランが弓を射る。魔弓なので聖属性の矢が飛んで行った。
すると次の魔法が飛ぶ。また属性が変わっていた。
『これは、こちらの攻撃1つに対して1つ攻撃を仕掛けてくるということか?』
『しかも属性変えて。つまり、耐性系はコロコロ変わるから難しいということだな』
一応重ねがけはできるそうだが、3属性までだとのこと。
『まあ、やるしかないだろう』
『1度総攻撃してみようよ!』
アランの無邪気な言葉に、ヴァージルがギロリと睨み付ける……が、うちのクランメンバーが、ウキウキしちゃった。
「「【ホーリーライト】」」
まずは魔法使い2人。
「【一刀両断】」
ピロリが行くと、半蔵門線も同時に踏み込む。
「【抜刀術・壱】」
新しいの覚えてるし!!
「【ホーリーライト】」
あ、八海山まで。
「【聖なる雷】」
あ……矢の雨が降った。
堕落した苦痛さんがボコボコなんか内側から膨れ上がって、わけわからん状態になっている。
なんか、なんかやってしまってるよ!?
声にならない叫びがする。
そして、足下に広がる数々の円陣。
ちょ、ちょっとまてまて、半蔵門線接敵しちゃってるから、案山子が。おわああああ!? 慌てて右手に柚子を抱え、左手で案山子を掴む。けど、重いぃぃぃ!!
「【投擲】」
案山子投げた。
なんかね、人投げられるんでござるよ~って1度教えてもらったんだよ、某御仁に。
とりあえず円陣たくさん足下に浮かび上がってるところから遠ざける。案山子にダメージ入る!? そんなの仕方ないだろぉぉ!!
色とりどりの魔法が、俺たちがいた場所に展開された。アタッカーたちは自分で逃げたようだ。八海山は、ヴァージルが引きずってくれましたよ。
『やんちゃすぎんだろおお!!』
俺の叫びにみんなてへぺろしてる。こいつら。
アランはダメージ出るくらいヴァージルにげんこつ喰らってた。自ヒールしてたよ。
『総攻撃禁止だな。対応が間に合わなかったときがヤバイ。2人ずつくらい行くか~』
基本、強いのだ。
聖付与があるので、本来無力化するアタッカーが逆に弱点属性突ける強役になれる。
そうやって、例のごとく本体の上に出ているHPバーが半分を切ったところで、おや、堕落した苦痛の様子がおかしいぞ?
総攻撃したときの、内側から何者かが殴りまくってるボコボコが止まらない。みんな警戒していると、堕落した苦痛を中心として風が吹き荒れる。
『ぎゃああいたいたいたああいいい』
『びえええんんなのじゃああ!!』
『ひどッ!! 体力終わるわ、オワタッ!!』
『回復間に合わん』
「【癒やしの息吹】」
広範囲回復らしいです。聖騎士特有の。
ギリギリでしのぐ。
『なんでセツナ平気なんだよ』
『いや、単なる風でしかなかった……あ、風の花か』
ヴァージルの胸元のアネモネが散っている。アランも耳に飾ってたのがなくなっていた。
『レイスが嫌っていたのには理由があったんだな』
慌てて俺は【持ち物】からアネモネを引っ張り出して各人に渡して回る。
素材だからけっこう採ってたんだよね。ラッキー。
そこからレイスが召喚され、それを八海山が無双する横で順番に、あくまで順番に堕落した苦痛をたたき、3回ほど痛い風が吹き荒れて、ようやく倒すことができた。とってきたアネモネ足りなくなった。ソーダと八海山に我慢してもらいました。体力あるところからね。
「我が牡牛神よ、悪しきものをその聖なる炎で空に還せ! 【浄化の炎】」
最後は八海山にかっこよくキメてもらった。
ドロップは、苦痛の黒という涙滴型の宝石と、闇の欠片という小さな水晶のような形をしたもの。謎アイテムがまたたまってしまう。
「本当に、本当にありがとうございます」
山頂に避難していた村長たちから涙ながらに大感謝された。俺はその横でせっせとアネモネを回収。
「レイスは、生け贄になった村の者です。弔いながら過ごしていきます」
「お兄ちゃんありがとう」
さっき助けた男の子にお礼を言われた。
俺たちは大満足で帰路につく。
ソーダ:
生け贄ルートからの派生だと思うけどさー、何が違ったんだろうな?
セツナ:
わからん。とりま2度目がってのはヴァージルだろ?
俺が【鑑定】持ってるって知ってて、睡眠薬盛れなかったのはあると思う。
なんでも村長さんの頭の中に堕落した苦痛から警告があったらしい。なんなんだろうねあいつ。
セツナ:
それで、なんか子どもがノックノックトントンして逃げろって教えてくれて、【気配察知】で人の気配感じたから部屋に物理的に入ってこられなくした。投げ入れたりされたらやだからさ。あと、窓の外にもこっそり木魔法で木を生やして妨害したね。
捕まってたってことは、窓から何かしようとこっちにきたのだろう。
八海山:
無力化して生け贄としてダンジョンへ担ぎ込むことができなかったから、ダークレイスが大暴れしたってことか。
柚子:
窓の外には罠仕掛けるのがよさそうじゃな!
案山子:
弓師の出番だねッ!
ピロリ:
アネモネ知ってたらヴァージルたちいなくてもまあ、ゆっくりやってたら倒せそうよね~
ミッションクリアからの貢献ポイント結構いただけたし。
村を救った貢献度なのだろうという話。
ソーダ:
退魔師は欲しいけどな。
ピロリ:
それはそう!!
レイスダンジョンへは村を通らなくて直通で行けるので、そのせいでこのイベントに引っかからなかったのだろう。というか、ソロレベル上げしたい人たちは余計なクエストに引っかかりたくないから意図的に村を避けていた。
まあ、風素材も手に入れたし、あとはヒガンバナかな。
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すみません。




