213.村に巣食うモノ
俺たち3人はこそこそと屋敷の外を目指した。村人は逃げ惑い死に神はそれを追い立てている。
こっそり【鑑定】したところ、名前はダークレイス。この世に未練を残して死んだ亡霊が寄り集まったもの、だそうだ。
セツナ:
ダークレイスって出た。
ソーダ:
ちょ、おまそれ、ボスクラス……ヴァージル連れて逃げろ。
セツナ:
ガチヤバイヤツか。
ソーダ:
風の村だろ、行こうか?
セツナ:
ヴァージルたちと行動するといつの間にか他のユーザーがいなくなるんだよね。
別チャンネルに送られてるのかも。来てもなんもなさそう。
ソーダ:
シータートルの時もそうだったな、確か。
聖魔法のエキスパートがいるっていえばいるけど……。
この2人が村人見捨てて逃げてくれるかどうか。
『ダークレイス。弱点は聖属性だけど、強そう』
即パーティー再結成しておいた。話しやすいし。
『レイス系は倒してもまた出てくるからな……やっかいだ』
『できるなら原因を始末した方がいいんだよね』
あ、これは謎解きかな?
『村人が逃げていく方へ俺たちも行ってみようか』
そう、村人、一定方向へ向かっているのだ。
俺たちもこそこそと移動する。
が、前を行く子どもが派手に転んだ。同時に大きな声で泣き出すと、わりと遠くにいたダークレイスがこちらへ向かってくる。
早いなぁ。
『セツナ、聖付与を頼む』
「【聖付与】」
花びらの汎用だ。うーん、これ、今後のためにもヴァージルバージョンも集めた方がいい気がしてきた。付与師だしね。みんなの付与は任せてください的な! つまり、長剣、双剣、日本刀。なかなか大変ですな。
『セツナももしものために付与しておけ』
シロユリはまだもらってないので俺も汎用。
「【聖付与】」
『レイス系は聖属性を帯びた武器および魔法しか通じない。物理攻撃は通り抜けてしまうんだ』
『セツナはその子を連れて先へ!』
『え、2人は?』
『すぐ追いかける』
2人の方が心配なのだが、有無を言わさぬ言葉に頷いて子どもを担ぎ上げた。
さっさと親に返して戻ろう。
だが、少し行った先で言葉にならない叫びが空気を震わせる。
辺りが白い光に包まれた。
えええっ!?
振り返ると、ダークレイスの身体に十字の光が刻みつけられており、デスサイズを落としてもだえていた。あれ、一瞬で終わった??
ダークレイスは身体を何度もひねりながら消えた。
「ヴァージル!!」
子どもを受け取りに来た親に押しつけると、俺はすぐ引き返す。
「すごいね」
だが、俺の言葉に聖騎士の2人は首を振った。
「あれは一時的に追いやっただけだ。すぐ復活する」
「レイス系は本当に面倒なんだ」
「やはり根本を解決しなければならないようだ」
そう言って一点を見つめた。
その先にいるのは、俺たちを家に泊めてくれた村長の姿。
「詳しくお聞きしたい」
村長は、見たことないほど汗をかいて顔色を青くしていた。
そして唐突に始まる村長の昔語り!!
「この辺りはこれといって目立った特産品もなく、村の者は細々と暮らしておりました。ある日、村はずれの、山道の途中にある洞窟に、よからぬモノが棲みついたのです。それは、恵みを与える代わりに生け贄を差し出せと言いました」
だいぶお年を召した村長は、ぽつりぽつりと話すのだが、隣の聖騎士の圧よ。お爺ちゃん覇気で死んじゃいそうですよ。
「もちろん断りましたが……その年の農作物は全滅しました。ソレが何かしたようです。そして再度生け贄を要求してきたのです……。もちろん、人を。村を出て行く者も多かった。ですが、年寄りが、自分が犠牲になればとソレの元に向かったのです。その年は過去に見ない豊作となりました。何を育てても順調で、溢れるほどに実るのです。すると、働けなくなった年寄りたちが順番にその身を差し出すこととなりました。私の両親もすすんで……。ですが、ソレの要求が次第に生け贄を指定するようになったのです。老人は飽きたと。もっと若い者が良いと。それだけは、なんとしても拒否をしました。我が身を差し出した両親たちも報われない。すると、ソレは村に来た者を連れてこいというようになったのです」
風の村はイェーメールとファンルーアの道中にあり、空路を行かぬ者は風の村を通ることになる。旅程によっては風の村で宿を取る者も多いのだ。
1度来たときに、ソレはどのようにしてか目を付ける。そして、2度目来たときに村へ連絡を寄越すのだと言う。
昼間は洞窟の奥に潜み出て来ないソレに、旅人が見つからぬよう村の掟として夜は出歩かないように言うのだ。新しい犠牲とならぬよう。
だが、それでも指定されれば必ず捧げなければならない。
1度目に来たとき、ソレは匂いを記憶するのだという。
「ヴァージル様は以前いらっしゃったときに匂いを覚えられていました。そして今回、村に辿り着く時間が、遅かった。日が暮れ始めていた。ソレは、ヴァージル様を差し出せと言って来たのです」
うううと呻く村長にヴァージルは無表情。イケメンの無表情マジで怖い。
「ダークレイスがお前たちの言うソレなのか」
「いいえ、あれは、あれは……」
村長がふるふると首を振った。
「あれは生け贄として捧げられた者たちのなれの果てです。山道を行ったところに洞窟があり、そこに死んでいったものたちがうろついているのです。贄を捧げぬと、ああやって寄り集まり暴れます。ソレは、洞窟の最深部になりを潜めているのです……」
《ミッション! 村の山の途中にある洞窟の主を倒せ!》
ああん、ミッション来たぁぁ……。
セツナ:
ミッション始まった/(^o^)\
ソーダ:
どんなやつ?
セツナ:
洞窟の主を倒せ、だって。
八海山:
洞窟の主はダークレイスだと思っていたんだが……
セツナ:
ダークレイスはその主に生け贄に捧げられてレイスになったのが寄り集まったので、諸悪の根源とはまた別だそう。
八海山:
ううん……それは大変そうだな。
「聖騎士団に連絡をするか……」
ヴァージルが顎に手をやり悩んでいる。
「今夜もつかもわからないぞ? 使いをやるにしても間に合うか……」
「そういえば、村の人はどこに逃げていたんですか?」
村人が走って行った方向。それが気になった。
「それが、レイスたちはアネモネの咲く山頂の方にはあまり行きたがらないので……ただ、そこでずっと留まるわけにも。昼になればと思うのですが、主がなにか幻影を作るのか、村からは出られないのです……」
あらまー。
「ソーダたちならすぐ来られるけど、幻影があったら無理かな?」
「……セツナだけじゃ飽き足らず彼らまで巻き込むのは」
むしろ新しいイベントだってことで巻き込まれたいと思うけどね。ここ、イェーメールからわりとすぐ。ゲーム時間内30分で来ると思う。
「騎士団に伝令届きそうですか?」
NPCのハトメールの概念が、ハト座の加護で手紙を届ける、みたいな感じらしい。来訪者同士のそれとはちょっと違う。
「……それが、さっきから送ろうとしても何かに阻まれる」
「主の仕業かもしれません」
セツナ:
みんな来てって言ったら来られる?
ソーダ:
俺は行ける。今クランハウス。半蔵門線もピロリも八海山もおっけ。
柚子:
聞いてはいたのじゃ。行けるぞー!
案山子:
クランハウスにすぐ戻るのは大丈夫だよッ!
「俺の方はクランメンバーと連絡ついて、すぐ出発できるそうです。呼びますね。村に入れるかわからないけど」
ヴァージルは悩んだ末に頷いた。
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なんとなくつい、二人きりを回避するためにクランメンバーを誘ってしまう!!!
なんとなくつい!!




