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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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211/362

211.風の村の風習

 風の村に着く少し前に騎獣から降りるよう言われた。ぎょろちゃんを石に戻して歩き出す。道は一本。辺りは木々に囲まれている。

 日が落ちてきたので辺りは薄暗い。

 足下がおぼつかない。


「【ライト】」


 指先に光を灯す。一応【気配察知】で辺りの様子を探ってはいた。


「交渉は俺がするから任せてくれ」

 わりと何度も念を押されるので、よっぽど難しい相手なのだろうとちょっとびびっていたら……なんと、まったくの予想外。すごくフレンドリーな村の人たちなんだけど!?


「お久しぶりですヴァージル様。いやはやすっかりご立派になられて」

「お父上といらっしゃったのは何年前のことでしょうか。もうそのころは聖騎士団に入団したというお話でしたが、はあ、今は団長様。それはそれは、さすがでございますなあ」

「小さな頃は可愛さが全面に出てらっしゃいましたが、なんと、凜々しいお顔つきになられまして」


 小さい頃を知ってる田舎のじいちゃんばあちゃんに囲まれておる。

 アランはニヤニヤしていた。

 ヴァージルはよそ行き顔。笑顔で応対している。


「アネモネですか。ええ、この山の奥に群生しておりますから、全部なんて無茶でない限りはどうぞご自由に」

「放っておいたら増え続けるものですから、ええええ、たくさん採っていってくださいまし」

「ただもう夜ですからね、お日様が昇ってからでよろしかろう。どうぞ今日は我が家にお泊まりください。すぐ部屋を用意させますので」


 晩ご飯をごちそうになりました。お肉と野菜たっぷりスープとパン。突然の来訪にもかかわらず、おもてなししてくれる。

 ベッドは無理やり3つ突っ込まれてるけどまあ、こっちが非礼だしな。


「狭くて申し訳ないのですが」

「いや、急に押しかけて申し訳ない」


 就寝前のご挨拶。


 最後まで和やかに終わると思っていた。


「それでは、ヴァージル様はご存じかとは思いますが、決して朝の一番鶏が鳴くまで部屋をお出にならぬように」


 それまでとは違う、低い声で村長のご老人が言った。

 俺とアランは顔を見合わせる。ヴァージルはそれまでとは変わらず、了解しましたと笑顔で対応して扉を閉めた。


「ということで、一番鶏が鳴くまで絶対に部屋の外に出たらダメだよ。それがこの村のルール」


「なんかヤバいことやってるのか?」

 とはアラン。直球するぎる。


「俺が来たのは本当に大昔で、なんで来たのかも覚えてないくらいだ。それでも、夜は絶対に出てはならないと、父がわざわざ机をドアの前に移動してまで、物理的に外に出られぬようにしていたのは覚えている」

「ええ……」

 何かのフラグにしか思えない上に、プレイヤーとしては出るしか選択肢がなさそうです!!


「セツナどうする? 夜通し話でもしているか?」

「うん??」

「セツナ君は来訪者だから夜時間暇だろう?」


 あーそういうことか。


「いや、気にしないで。2人は寝る時間なんだから寝て」

 いざとなったら時間スキップも出来るのだ。


 おもてなしを受けていたらかなり時間も経っている。もう夜の21時だ。この世界の人々は朝が早い。一般的には日が昇れば起き出す。昼まで寝てるのはイェーメールのドワーフたちくらいだ。早寝早起きが習慣付いているのだ。


「その代わり明日の朝は一番鶏が鳴いたらすぐに行こう」

「そうだな。それじゃあおやすみ」

「おやすみ、セツナ君」


 2人が布団に潜り込んでそれほどたたないうちに、規則正しい寝息が聞こえてきた。


 推しファンたちへのご褒美にちょっとスクショを撮らせていただきますよっと。

 寝顔とか……これ、アリンさん、渡したときログアウトするんじゃなかろうか……警告しておかねば。むしろ、ログアウトしてからファイル開いた方がいい。



セツナ:

風の触媒用花探しに風の村に来てるんですけど、夜は外に出たらダメって言われてて……


八海山:

風の村……そこ、退魔師のソロ用ダンジョンそばの村だな。ソロ用ダンジョンへの道を見つけるために、そこでレイスとの鬼ごっこをしなければならないんだ。


 ちょっと語尾が元気ない八海山。察し。怖いヤツか。


ソーダ:

そこさ、なんか別バージョンもあるらしいぞ?

八海山の言ってるソロ用ダンジョンへの道開通のための鬼ごっことは違って、生け贄バージョンが。


八海山:

それは、俺は知らなかった。


半蔵門線:

拙者が説明しよう!! この!! 忍者になるためあらゆるクエストを網羅せんと奮闘したが故詳しくなった拙者が!


セツナ:

お願いします~。



 ソーダの言うとおり、ここは2パターンあり、八海山がやったクエストパターンと、生け贄としてその問題のダンジョンへ連れていかれそうになる生け贄パターンとがあるらしい。その分かれ道は過去に来たことがあるかないかと予測されていた。


ソーダ:

なら、セツナは初めてだろ? 鬼ごっこガンバ!


セツナ:

俺は初めてだけど……ヴァージル昔来たことあるみたいなんだが……。


ソーダ:

ヴァージルが一緒なのかよ!? それは……なんか起きそうな予感。動画よろ。


セツナ:

先ほど、無防備なヴァージルの寝顔撮ったところ。


ソーダ:

アリンさん、スクショ受け取り時ログアウトするんじゃねwww


八海山:

大変なことになるだろうな。


セツナ:

生け贄クエストの始まりってどんな感じで、どんな風に進むんですか?


半蔵門線:

なんか、夕飯に眠り薬仕込まれるらしいでござるよ。


セツナ:

【鑑定】しながら食べたから、盛られてるとは思わないんだけどなぁ~



 と、小さなノックの音がする。

 コンコン、コンコン、と音は鳴り止まない。


セツナ:

なんか始まったみたい。頑張ってきま~す。


ソーダ:

動画、ヨロ。


セツナ:

寝顔?


ソーダ:

それはショートでやれwww



 俺はベッドから立ち上がると扉の方へ向かった。なるべく声を抑えて返事をする。

「なんでしょうか?」


 ノックの音がピタリと止む。


「もしもーし?」


 もう一度話しかけると、小さな子どもの声がした。


「おきゃくさま、はやく、はやくにげてください」

「逃げる?」

「おきゃくさま、はやく、はやくにげてください」


 俺は思いきってドアを開ける。

 だが、廊下には誰もいなかった。


 そう、【気配察知】にも引っかかっていなかったのだ。

ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。

誤字脱字報告も助かります。


自由な聖騎士の二人と旅してきました、プレイヤーだけなら夜散策する一択ですが!!

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― 新着の感想 ―
ヴァージルたちが起きるまでに帰ってくればいいだけだからヘーキヘーキ
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 おっと、唐突のホラー展開
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