206.火ヤマアラシの針
火ネズミを倒しきり、本命の火ヤマアラシだ。
とりあえずこの後も【フロストダイス】係を続ける。
『半蔵門線さん、水付与してみます?』
『そうでござるね、せっかくだしお願いするでござる』
「【水付与】」
こうなると、それぞれの武器用触媒も取りそろえたい。自分だけじゃなく、相手にも適切な付与をしてこその付与師だしな!
「【MP譲渡】」
案山子がすかさず補充してくれた。ありがたい。
『とりあえず針を出すまで魔法使い組の水魔法で』
『任せるのじゃ』
『おっけーッ!』
火ヤマアラシの攻撃パターンは決まっているそうだ。
まず、火を噴く。これは避けるしかない。いつも通りソーダがヘイトをとっており、ソーダの盾はかなり良い物で、火を防ぐ。
そこへ俺が再び【フロストダイス】……たいしたことなくてすみません。
だが、柚子と案山子の詠唱が終わる直前に投げたので、【ウォーターボール】の攻撃力は無防備状態へのものとなる。
「キュッッ!!」
なんとも可愛い鳴き声だ。
すると、ブルブルとヤマアラシが震えだした。
『傘用意!』
そう、ここで傘。アリ戦で作った傘の出番だ。
俺はそばにいた案山子の前で傘を開く。ピロリは柚子、八海山を半蔵門線が守った。
バチバチと傘へ針の当たる音がする。
『針飛ばし攻撃エグかったでござるが、これで防げるのがわかって良き!!』
『アリ傘すげえいいなこれ』
今までは避けて刺さって大変だったと言う。だいたい針を飛ばしてくるのがとんでもないのだ。
針は1度出してしまうと戦闘中復活することはない。今は全体の1/3くらいが針なしの状態になっていた。
『それじゃ繰り返すぞ!』
「【一身集中】」
針がすっかりなくなった火ヤマアラシは、火を噴くネズミだった。ピロリと半蔵門線により、儚く散った。
「ヤマアラシ対策ができるならいい狩り場になるな、あそこ」
「ヤマアラシの相手が面倒だっただけだもんねー」
クランハウスに帰還し、EP回復中。
花は手に入ったし、そのまま帰ってもよかったのだが、1度ヤマアラシと戦っておきたかったと言う。
「動画流す前に火ネズミの皮衣売っちゃおうぜー」
「そうだな。高く売れる方がいい」
だいたい1着分が5枚なので予備で6枚をもらった。
「ヤマアラシの針は……飲んだくれストリートに持って行ってみようか」
「あそこのドワーフたち、高額買い取りしてくれるからいいでござるね」
「もっと恩売っといてッ! つまみまた追加しといたから持って行ってッ! 鹿肉のローストとか、赤ワイン煮込み美味しくできたよッ!」
それは俺も食べたいかも。また漁らせてもらおう。
まだ日も高いので、八海山にポータルを出してもらってローレンガへ向かう。カクさんの店だ。
「こんにちは~」
「よお、いらっしゃい」
「こんにちはセツナ氏!」
お、管さんがいる。
「花とってきたので、触媒をお願いしたいです」
貝も一緒に渡す。うーん、貝、1つでかなりの触媒が出来るとは言え、捕るのが結構大変だったんだよなぁ。クランの底上げを俺もするとなればやはり、双剣と、日本刀専用触媒が欲しい。
「火と氷と毒か。ずいぶん集めたな」
「頑張りました」
「管ブラウン、来い、見せてやる」
「ありがたき幸せ!!」
俺はぼけーっと眺め、管さんは目玉ひんむいてガン見していた。
「釜の材料集めが難しくて、セツナ氏、もしかしたら依頼するかもしれないです」
「俺はそこまで強くないんだよね~。頼むならクランに、かなぁ」
「お金貯められたら相談するかもしれません」
完全生産職って大変そうだから、お手伝い出来るならしたいけど、俺1人ではなさそうだし要相談です。
そのまま今度はアランブレ。ここに来る前に出しておいたモヤシラへのフレンドチャットの返事が来た。
もちろん、火耐性のローブの作成依頼だ。
待ち合わせの『繊維工房わたげ』の前には以前あった小人族のジャンドゥーヤも一緒だ。
「やっほー! ご依頼ありがとうございます!」
「よろしくお願いします」
「それじゃあ生産施設に行こう!」
モヤシラは布団などの布製品専門で、服は作れないそう。なので服飾専門のジャンドゥーヤに連絡を取ってもらった。
「携帯用ミシン持ってるんだけどね~、クランハウスはないから出せないんだよ。そういった人は、生産施設の片隅のスペースで作ることになるんだ」
クランハウスは高い。
生産施設に来るのは初めてだ。調薬も結局ヤーラ婆のところで終わらせてしまった。
真っ白い、豆腐のような四角い建物。2階建てくらいだろう。2階には窓がたくさんついていた。
「ここの2階に生産施設の個別スペースがあるっていう設定ね。数に限りがない、いつでも使えるスペースだよ。1階に素材なんかの販売と、受付カウンター、携帯用調薬台とか、ミシンを持ってる私たちとかが使える場所があるんだ」
そんな話をしながら中に入ると、広々とした場所にテーブルがいくつも並んでいた。その1つにジャンドゥーヤがミシンをドンと出す。
「糸あるかなー。あー、ないや。ちょっと買ってくるね」
販売用NPCの元へ走る。俺もちょっと覗いてみたくて後を追った。
本当にいろんな物がある。生産それぞれに使う物だ。裁縫系なら糸とか、布も売ってる。フライパンやレードルは調理、ポーション瓶なんかは調薬だな。そして、携帯生産設備。ミシン、ガスコンロ、そして調薬台は50万シェル。本に換算すると……。
「生産施設1時間で1000シェルだから、そんなに高くないんだよ。500回やったら元が取れるの。ただ、重量がそれなりで、倉庫に預けることができなくて【持ち物】にずっと入ってることになるんだ~それがネック。クランハウス持ちは買ってもいいと思うけど……クラン内に設置可能場所があるみたい。買うなら相談してみてね」
思わずぽちっとなしそうだった俺に、ジャンドゥーヤが待ったをかける。
危ない。普通に買うところですよ。
「さて、火耐性ローブ、黒でいいの? 色染めもできるよ! 可愛い刺繍していい?」
「可愛い刺繍はいらないです!!」
「ちぇーっ。仕方ないから裾に炎の模様入れようかな」
「えー、ジャンちゃん、炎の意匠手に入れたの?」
「へへへっ! この間見つけちゃったんだよ~。今度教えてあげるね」
「わーい!」
服飾も楽しそうだ。
「全部で15万シェルいただきたいけど大丈夫かな?」
だいたいの相場は告げられている。技術料と糸などの材料費だ。30万なら良心的と言われていた。
「安くないですか?」
「火耐性ローブは私まだそこまで数こなしてないし、たぶん5枚で出来るので、この余分の1枚をいただきたい!」
火ネズミの皮衣は露店価格1枚17万くらい。
「OKです」
取引成立だ。黒いフード付きローブの裾に赤とオレンジの糸で炎の意匠が入ったかっこいい物を作ってもらいました。
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誤字脱字報告も助かります。
被服系もたのしそうですね。
私は返し縫いすら綺麗にできないから、そしてそれが平気だと思ってしまうから無理かなぁ〜




