199.付与剣のスキル
細剣のスキル。
すでに覚えている【ひと突き】。これは他の剣でも通用する基本中の基本。急所を突き刺すことで、致命傷を与えられるものでもあった。
さらに、スイカ市場で覚えた【突き刺し】。【ひと突き】と違うのは、急所じゃなくても相手に大ダメージが与えられる。個体が小さければ致命傷と判定された。対人ではなくて対モンスターのときにはこれが基本有効らしい。
さらに、教えてもらった刺す系がすごかった。
「【突貫】」
なんと、人の形をした打ち込み台にこぶし大の丸い穴が空いた。どう考えても大きさ合わない。
「これはもう少し筋力が上がったらできるだろう。今もかなりついてきているが、ほんのもう少しだ」
筋力にステ振りしろってことね。あとちびっとだけ。
様子見ながら今度やろっと。
ジュリアスお坊ちゃまも目をキラキラさせて拍手している。
俺のスキルツリーにグレーで表示されていた。すごい。嬉しい。
【突き刺し】からの派生だ。
「次は巻き込み系だ。相手の武器を巻き込んで間合いを詰めるだろう?」
これは何度も練習させられ習得している。対人用の【絡め取り】だった。相手の剣に細剣を這わせつつ、切っ先を円を描くようにして手元に入り込む。大剣では押し切られてしまうが、長剣、片手剣などはこちらのリーチが長い。特に両手剣は身体を横にして挑めば腕の分さらに伸びる。そこを絡め取りながら顔近くに細剣の切っ先が突然現れる寸法だ。
剣が目の前に現れれば人は自然と引く。さらにそこを突く。
「さらに狙うは手。柄を握っているところだ」
手元に剣先を持っていける。【絡め取り】からの【巻き上げ】や、単なる突きで武器を落とさせる。
「そこで【引き寄せ】をすれば完璧ですね」
「おお、セツナ殿は生活魔法にも熟知しているのか」
「ふっ……マイスターです」
効果は2倍だから、剣なら引き寄せられる。普通なら重さの判定でアウトらしい。
「さて、それでは本題の付与剣のスキルですが……セツナ殿の属性は何になるのでしょう?」
「えっと、火、氷、風、地、水、雷と、毒。それに木も――」
「待たれよ……そうか、来訪者だったね」
ふぅと短く息を吐く。
あー属性たくさん持ってるの、親方にも驚かれたな、そういえば。
「申し訳ないが、私が知っているのは風、火、雷の3属性だ。来訪者の方々はスキルを身につけやすく、魔法も多属性を持っている方が多いというのを失念していた。他の属性に関しては正直まったくわからない」
「こちらこそなんだかすみません」
「その代わり、この3属性なら覚えているスキルはしっかり伝授いたしましょう」
「ありがとうございます!」
目の前で実演してくれて、同じように真似して発動しなければ型の間違いを指摘される。細剣のスキルは発声とともに、手や足、剣の形が大切らしい。つまり、ポーズを取るのだ。【青嵐】はたまたま上手くいっていた模様。
そして1度発動してしまえば多少そのポーズが違っていても発動するようになった。
まず風。何度も突き刺す【青嵐】。切っ先から無数の小さな風の刃が飛び出す【烈風】。風の斬撃が重なって3回放たれる【鼬風】。
火は刀身の延長上にらせん状に火が飛び出す【螺炎】。突き刺した後火が細剣から爆発するように発して中から焼き尽くす【業火】。高温の炎をまき散らす【青炎】。
雷は、空から何本もの雷が落ちる、範囲型の【万雷】。何本もの雷が剣から放たれる【迅雷】。大きな雷が線状に相手に迫る【紫電】。
3つずつ教えてくれた。
わーい。
「スキルは、教えを乞うこともできるし、何度も使っているうちに星より天啓が降りてくることもある。なんにせよ使って行くことだ。使えば使うだけ次の強さを得ることになるよ」
「ありがとうございます!」
「他の属性を知っている細剣使いがいたらまた連絡しよう」
重ね重ね感謝だ。
夕暮れが迫ってきたので屋敷を辞して、クランハウスへ。
この時間から本を読むのは迷惑なので、借りていた物を返してまた1冊借りてくる。
お屋敷で指導してもらうと、どうしても昼間の時間がそちらに割かれるので、自室で読んでのルーティーンになっていた。明日からはまた思う存分昼間は本を読めそうだ。
今日の本は、星の歌というものだ。新しく入荷したそうで、星々のこぼれ話だという。オススメされて喜んで借りた。表紙が綺麗な夜空の絵だ。眺めながら今の空と見比べる。まだ夜空というには早いのでさすがに同じようなものは見えなかった。
薄暗い路地を、ぽちっとなでクランハウスへ移動しようとしたところで、キャーという子どもの悲鳴を聞いた。
即座に【気配察知】を展開すると、人のようだ。小さな子どもを、抱えている?
すぐさまそちらへ向かう。素早さには自信がありますよ。細剣に筋力必要ないって知ったし、素早さ重視だよねーとか思ってまたそちらへステ振りしてしまいました。次上がったら少し筋力と防御にも割こう。ラックはいらん。幸運の女神がついてるからな。
あと少しで追いつくと言うところで、人影が目視できた。
あれは……トムくんではないですか。ミュス大好きトムくん。俺とはほとんど目を合わせてくれないトムくん。男の背中の上で俺を見つけ泣き顔になっている。
「【投擲】」
魔法使うのはやめておいた。魔法の命中範囲わからなくて怖い。それよりは使い慣れた【投擲】で足首を狙う。
もちろんヒット。さすが俺。
男は足の痛みでか、もんどり打って転んだ。トムが放り出される。道の端でぐったりしてた。頭でも打ったか? そちらに駆け寄ろうとしたが、男が唱える声が耳に入る。
「ウィンドカッター」
魔法使うの!? 力業で子ども担いでたくせに!?
慌てて避ける。そのまま細剣を抜いて戦闘態勢だ。
「【突き刺し】」
俺の放ったスキルを相手はすんでで避けた。だがそのまま俺は少しだけ引いた剣先を再び前に出す。
男の得物は短剣。リーチでは細剣の敵ではない。
ハロルドにみっちり習った、細剣の特性を活かした戦い方だ。引いて突き出す。そして手元を狙う。さらに俺は魔法を使うことができるのだ。
「【フロストダイス】」
マイナス補正すらあると思われる俺の幸運値でも、3秒くらいは止められる。そして3秒止めればこちらの勝ちだ。
騒ぎを聞きつけて兵士たちがやってきたころには、男は俺の下で伸びていた。
「大丈夫か!?」
その頃には目を回していたトムも起きていて、大泣きしている。
「セツナくん!!」
「あ、オーランさん。こいつ、誘拐犯です」
「お手柄だよ、最近子どもを攫うやつらがいたんだ。きっとこいつだ」
街の人もたくさん集まってきた。トムは母親に抱きしめられ泣いていたが、その腕を抜け出すと俺の方に寄ってきた。
「兄ちゃん、ありがとう」
「いや、大声出せて偉かったな」
咄嗟に声が出ないといいますしね。
「ごめんなさい」
「ん? トムくんは悪くないだろう?」
あれか、俺に怒ってたやつか? いや、俺ミュスの尻尾大人げなく山ほど見せつけて煽ったからどっちかというとこちらがごめんなさいだけど?
「あの、本が……」
そう言われて初めて気付いた。
俺は、貸本屋から出て本と夜空を比べて――そう、本を片手に持っていたんだ。
大切な本が、魔法で無残に裂けていた。
えー、今回は感想欄で予想禁止にしまーす!
理由は後書きで↓↓↓↓
なろうの感想欄、ページの最後に出る仕様になってるんですよ~
もうほんとこれ迷惑なんだってー。
予想したくなるのわかるよー。私も予想したいし。書きたくなるよね~でもそれ全部丸見えになるんだよ~!
ぶっちゃけヒントだらけなので、まあだいたいわかるだろうけど、そこからこれ拾って!! みたいな答えを、気付いてなかった人も目にする可能性があるわけですよー。
なので、今回は感想欄予想大会は禁止です。1日待ってください。
よろしくお願いします。




