189.例のお屋敷の交換会
何か誤魔化すのかと思ったら、トラヴィスさん、ペラペラしゃべり出した。ぜーんぶ洗いざらい。
「なんと……」
言葉を失ってらっしゃった。
「セバスチャン、もう、どうしたらいい。家宝を差し出すしかないのかっ!?」
「前回これで最後だと領主様が借金の清算をしたので、もうさすがに無理でございますね」
「やはり、家宝を」
「わーお、見たいのじゃ~」
「猫目石だよね? どんなやつなんだろう。俺宝石に詳しくないから」
あちらの2人とこちらの2人の温度差がひどい。
『ってか本当にどうやってクリアするのこの人』
『それなんじゃが、せっちゃん……本来屋敷には入れてもらえないらしいぞ。で、絵と家宝を持ち出し合流するらしい。それを美術商に持って行って、絵の価値が皆無なのを知って、家宝を持ち込んだところを聖騎士が摘発しにくるという流れじゃな』
『すでにイレギュラー』
『たぶんじゃが、普通、チップ融通してあげないじゃろ』
『はっ!! 面白くてついあげちゃったチップが好感度も上げちゃってる? いや、この人の逆張りしてたら俺勝てるから、つい……』
『あんな別室に通されないで、家宝か1000万シェルかをその場で言い渡されるらしい』
『うーん、どうなるんだこれ』
『ヴァージルスレまたもや炎上じゃぁ』
執事さん大弱りしている。トラヴィスは自業自得なのである。
『そろそろお暇する? 正直、ヴァージル出てきてカジノに行ってたの怒られるのやだ』
『私もじゃー。もういい年こいた大人だから怒られるのいやじゃ』
『クエスト中途半端になるけどいい?』
『構わんのじゃよ』
ということでご挨拶して辞することにする。
「それじゃあ、俺たちはここら辺で」
「お茶とお菓子おいしかったのじゃ。ごちそうさまなのじゃ」
そう言いかけたところ、セバスチャンがそうだ! と大きな声をだした。
「トラヴィスぼっちゃま、今日、例のアランブレのお屋敷で、交換会が行われます。そこへ行ってみるのはいかがでしょうか?」
「ああ! 例のお屋敷の交換会かっ!」
わざとらしい……。
「上手く交換を進めて行けば!!」
「セバスチャン、光明が見えてきた! そうだ、君、【鑑定】持ちなのだよね? ぜひ、ぜひついてきて助言してくれ!」
「おお……そーゆう流れか」
「みたいじゃなぁ」
《ミッション! トラヴィスのお宝鑑定! トラヴィスについていき、交換会でより高い物を手に入れろ》
『柚子さん、アナウンス来ました?』
『来たのじゃ……行くしかないのう……』
さすがヴァージル家、アランブレまでは馬車を出してくれました。そしてその馬車のまま貴族門をくぐって貴族街へ。
「俺の命は君たちに掛かってる!」
「え、迷惑なんですけど」
「ギャンブルに身を落としたそなたが悪いのじゃ」
俺と柚子の対応に、えっ!? みたいな顔してるけど、ギャンブルサイマーは自業自得なのでこっちくんな、だ。ミッションだから仕方なく付き合うんだぞっ!! 柚子のペナルティ、または俺までペナルティくらうかもしれないからな。
『とりませっちゃんはあちこち鑑定して来てくれ。聞いた話だと物々交換を進めていく……つまり、わらしべ長者パターンじゃ。到達目標1000万シェル。それを持ってるヤツの欲しがるものを、私がこのたぐいまれなる話術で聞き出して行くのじゃよ』
『了解しましたっ!』
たぐいまれなる話術は知らないけど、まあ、方向性はわかった。
『これ、【鑑定】持ち関係ありそうですよね~』
『たぶんなぁ……【鑑定】持ちがクエストに関わっているとかで話が変わっている可能性がありじゃ。せっちゃんのお小遣いあげちゃう攻撃も結構大切だったように思えるが』
『【鑑定】持ってないとなかなか無理そうですもんね』
やがて大きなお屋敷に辿り着く。アランブレは貴族のお屋敷がたくさんある。イェーメールなどは基本そこの領主様のお屋敷のみだ。
入り口に横付けされた馬車から降りると、メイドさんが先導してくれた。
連れられて行ったのは中庭だ。テーブルがいくつも置かれていて、その周りに人々が集まっている。
「トラヴィス様はこちらの商品で参加と言うことでよろしいでしょうか?」
「ああ。頼むよ」
空いていたテーブルに、トラヴィスの持ち込んだ素人の絵が飾られる。
【鑑定】すると、大体の店売り金額まで出してくれるんだよ。
トラヴィスの持ち込んだ絵は1万シェル。とうてい足りない。その絵の前に札があり、番号が付けられた。トラヴィスにその番号札が渡され、見える場所に付けておくよう言われた。
「それじゃあ、俺はあちこち見てきますね」
「私もみなさんのお話を聞いてくるのじゃ」
「ああ、頼むよ」
ひたすら【鑑定】なのだが、みんな……やってんな……。
中途半端な物が多すぎる! 母親の形見とか持ってきてるやつよりマシだけど。
形見は大事にしてなさいよー。
そうして見つかった1000万シェル以上のアイテム。
『優雅な春のひととき』という物だった。絵画だ。1250万シェル。番号札は11番さん。
『11番の人のアイテムが1250万シェルです』
『らじゃったのじゃ。後は私にお任せあれなのじゃ~』
目標は決まったので、あとはそれを手に入れるための流れだ。
わらしべ長者は逆に辿った方が話が早い。
『せっちゃん、わかったのじゃ。11番からの32番、15番、27番、そして我らがトラヴィス殿の39番じゃ!』
『27番→15番→32番→11番、ね。了解。じゃあトラヴィスさん捕まえよう』
彼もまたこの中をうろうろしている。
「あ、いたいた。トラヴィスさん!」
後ろ姿はヴァージルとそう変わらないんだが、こちらを向くとお疲れ風体になる。
「トラヴィスさん、見つかりました、よ……は?」
「はぁ!?」
俺と柚子が口を開けたまま固まる。
「やあ、聞いてくれよ、とっても素敵なものと交換してもらったんだ、どうだい?」
さっきまで39の札をつけていたトラヴィスが、胸に16番を付けている。
俺は慌てて16番の品物を見に行く。
1000シェル。
うそだろおおおおおお!!!!
「もう見捨てましょう!」
「待つのじゃせっちゃん!!」
『こういった流れを私はしっておるのじゃ。予定調和というやつじゃよ!!』
『予定調和?』
俺の宣言にトラヴィスがめちゃくちゃショックを受けた顔をして、見捨てないでとすがりつこうとしているのを手で払っていると、後ろから声が掛かった。
「察するに、あなたたちは私の所蔵品が欲しいのかな?」
振り返った先の身なりの良い、紳士の胸元には11の番号札。
口ひげと優しげな表情。
これは……怪しい。
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わらしべ長者ならず!!




