188.借金なんと1000万シェル
先ほどまでのにこやかな表情はお空の彼方へ吹っ飛んでしまった支配人。いらいらとした様子で後ろの厳つい男が寄せる耳元に囁いている。
「なんか拙いかもしれないのじゃ」
「そういえばここって非合法?」
「まあ、そうだね」
「聖騎士団にヘルプしたらこっちも怒られるヤツか」
俺たちがぼそぼそと話し合っているのを漏れ聞いたのか支配人がばっとこちらを見る。
「聖騎士団?」
お顔がたいそう悪うございます。
「なんのことでしょう?」
とぼけます。とぼけるしかない。チャット使えないの内緒話が出来なくて辛いな。あと、ヴァージルへのハトメールももちろん飛ばせない。
「まあ、そちらのお2人は無関係として、トラヴィス様、貴方にはずいぶん賭け金を融通しておりますよね。そろそろ耳を揃えて払っていただきたいと思います」
「はっ!? 急にそんなことを言われても!!」
「半年ほどツケが溜まってますからね。いい加減にこちらも返していただかなくては」
「だ、だが今は金が……」
「またまた、トラヴィス・アスター様。お金くらいいくらでも用意できるでしょう?」
領主の息子が裏カジノにド嵌まりとか、醜聞まっしぐらだ。
「興味からなんですけど、トラヴィスさん、どのくらい借りてるんですか?」
冷や汗かいて唇噛んでるくたびれたトラヴィスを横目に、聞いてみる。
「おや、セツナ様が代わりに返していただけるんでしょうか? チップをあれだけ与えられるお方ですから、さぞかしお金を持っていらっしゃるのでしょうね。ざっと1000万シェル」
「いや、それは無理」
「借りすぎじゃぁ」
「そんなに借りてない!!」
「利子が付きますからねえ」
ニヤニヤと笑っている支配人。
「そうですね、アスター家所蔵のクリソベリルキャッツアイの指輪なら、すべてをチャラにできますが」
「あれは家宝だ!! 俺が手出しできるものではない!」
「でしたら1000万シェル。耳を揃えて持ってきていただきましょうか? まさか領主の息子に取り立てが来るなんて……、ご家族もさぞかし驚くことでしょう。そういえば、三男のヴァージル様はイェーメールの聖騎士団の団長様でございましたね」
トラヴィスさん、汗だらだらで顔を真っ赤にしていた。
でも、ギャンブル嵌まって身の丈以上に賭けた人が悪いと思うんだよね~。
「クリソベリルキャッツアイ……見てみたいのじゃ……」
柚子がうっとりしていた。
俺とヴァージルが一緒になってレインボーシータートル本気狩りしてたらすぐ溜まるけど、解決法はそうじゃないんだろうね。普通はこれをどう解決するんだろう?
やがてトラヴィスはぼそぼそとつぶやく。
「1週間待ってくれ」
「えっ!? 家宝持ち出すんですか!?」
思わず聞いちゃった。
「セツナ様。部外者は黙っていていただけますか?」
「あ、はい。すみませーん」
怒られたぁ。
「トラヴィスさんはあてはあるのか?」
柚子お母さんも思わず質問する。
「……俺の所蔵品を売れば」
「え、そこら辺に手を付けずに今までツケしてたの?」
「その所蔵品はどのくらいあるのじゃ? キャッツアイが1000万シェル相当なんじゃろう? まあ、足下見られて3倍くらいまで。家宝よりお高いものをゴロゴロ抱えてるのか?」
俺と柚子の突っ込みにぷるぷるしてた。
その場限りの言い逃れにしか聞こえないんだよね~。ヴァージルに迷惑かかったら可哀想じゃん?
「お2人の方が状況をよくわかっておいでですね」
「1つ、かなりいい絵画がある」
ほうほうほう。
「ふうん、まあいいですよ。1週間後。必ず1000万シェル耳を揃えてお持ちください。借金取りがアスター家の門に現れることになりますよ」
そうやって、俺らは解放されたが、大丈夫かなぁ?
『ゲーム内1週間ってあんまり日にちないですよね』
『そうじゃのう……どうするせっちゃん、攻略見て進めるか?』
『うーん、柚子さんの攻略なのできちんとクリアしたいなら見てもらっても構いませんけど』
なんとなく、トラヴィスの後をついて歩いているところ。
『別に失敗してもヴァージルの好感度はもう変わらなそうだからいいのじゃ』
『なら成り行きで』
ということになった。
まあ、何はともあれ会話からだ。
「トラヴィスさん、その絵画って、どんなものですか、是非見てみたいです!」
「え……まあいいが……来訪者は本当に好奇心旺盛だなぁ」
アスター邸へご招待された。
「こんな大きなお屋敷に入るのは初めてなのじゃ!」
俺は2度目。
と、先日の執事さんがやってきた。
「お帰りなさいませトラヴィス様と……セツナ様、ヴァージル様は今はこちらにはおりませんが」
「えっ!?」
「あ、今日はトラヴィスさんにご招待されました~」
「は? ヴァージルの知り合いなのか?」
「最近よく一緒に狩りに行きます」
顔色が良くないが、告げ口する気はないよ。連絡とって欲しいならとるけど。
さあさあと、絵画を見せてくれるよう促すと、複雑な顔をしたまま屋敷の奥に案内された。
「立派なお屋敷じゃのう」
「領主様のお屋敷ですからね~」
前を行くトラヴィスとは正反対にのんきな俺と柚子。
やがて部屋に入り、座るよう言われた。
というか、ホイホイ連れてくるの、やっぱりこの人、ダメじゃね? チップたくさんあげたの嬉しかったのかなぁ?
そして奥から持ってきたのは風景画。印象派って感じだが……俺には【鑑定】があります。結果……ハズレ。『よく描けている素人の絵』と出た。
「トラヴィスさん、残念ですが二束三文です」
「はっ!? これは友人の知り合いの画商から資産として手元に置いておけばかなりのものだと言われたんだぞ!?」
「残念です」
「はっ……うそだろ……」
がっくり床に崩れ落ちてしまった。
ごめんね、【鑑定】持ちなんだよ。
「くそっ……どうすりゃいいんだっ!!」
と、そこへ先ほどの執事さんがお茶のセットを持って来てくれた。
あ、またマカロン。案山子に食べさせてやりたかったやつ。
「トラヴィス様、どうなされました!?」
「セバスチャン……すまないもう、俺は……」
執事さんのお名前を知ってしまった。
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執事の名前と言ったらこれしか思いつかなくて……




