183.クティス貝採り
アンジェリーナさんにはめちゃくちゃ怒られた。
手ぶらで帰るのもためらわれて、と言ったが、俺の命の方が大切だろうと言われたので怒られながら俺はウキウキしてました。すみません。
結局伯爵は逃げたのだが、雑貨屋が怪しげな商売をしようとしていたことが阻止されてよかったとも言っていた。
第7都市の貸本屋の男はもういなかった。
それにしても、一応ナイショにという話だったのに、アンジェリーナさん、普通に知ってた。どこから情報回ったのだろう。ワンチャンバレないかなぁと思っていたのに!!
日を改めて、今日は貝採りに付き合ってもらう。
「クティス貝は、二枚貝なんだが、これが強い」
ソーダの説明を、ぎょろちゃんの背中で聞く。
「アコヤガイみたいな形をしていて、たまにドロップに出る真珠がいい値段だから、一時期流行った狩り場だ」
「ただね~めちゃくちゃ狂暴なのよ~」
とはピロリ。
群れをなして攻撃はしてこないが、1体が強く、魔法使い組は噛まれたら即終了らしい。
「俺も終わりか!!」
「耐久10くらい振ってて装備それなりならまあ1撃死はしないし、即回復は飛ばすよ」
今日もわんこ神父は頼もしい。
「とにかく1体ずつ接敵するのが基本。弱点属性が毒……」
「毒すると貝柱食べられなくなるからダメッ!!」
「水は効かないから気をつけるように」
「火も、刺身にできないからダメッ!」
縛りがキツいな。
「基本俺が盾でがっちり捕まえて、剣で中を突くって感じだな」
「突く……だから細剣用触媒の材料なのかも」
花びらプラスこの貝。枝の代わりだ。
「それは確かにあるかもな」
貝採りは島の浜辺で行うらしく、島へは船で向かう。手前で騎獣から降りて、船賃を払った。1000シェルなので俺の懐も痛まない。
船は古い、ギシギシ音がするようなものだが、エンジン部分は魔道工学とやらの最新式らしい。……嘘くさい。それでも沈むことなくクティス貝の現れる島へ移動できた。
「クティス貝は浜辺に現れる。虫の始末は魔法使い組な」
「らじゃーなのじゃ~延々【フロストサークル】してるのじゃ」
「【メテオレイン】で近寄らせないよ~」
貝以外にもアクティブモンスターがやってくるらしい。
島は見晴らしの良いビーチとは言えなかった。レインボーシータートルはそれこそ産卵時期なのか? と思うくらい海岸にひしめいていたのだが、今回は海岸にモンスターの影が見えない。木が海岸ギリギリまで生えているので、視界を遮られるのも意外だった。青い海、白い浜辺、といった感じではなかったのだ。
軽い打ち合わせをして、少しだけ歩くと、【気配察知】に群れが引っかかる。大きさは小さい。
「なんかたくさん来るんだけど」
「それが虫だなー。蚊だよ。柚子、頼む」
ブラッドモスキート。血を吸う気満々の手のひら大のシマ蚊が群れをなしてやってきた。だが、真っ直ぐ人に突っ込んでくるので、柚子の【フロストサークル】のこちらがわに立っていれば吸い込まれるように氷付けになっていくのだ。しかも弱い。氷付けになったときのダメージで死んでいる。
「貝来たでござるよ~1体」
すっかり手のひら大のモスキートに恐怖していたら、【気配察知】忘れていた。
海の方からパカパカと音がする。
パカパカいってるのは、貝の口が開いたり閉まったりしながらこちらに向かってくるからだ。
モンスターってたまにとんでもない移動手段をとるのだが、こいつもとんでもない種類だったようだ。貝の口を下に向けながら、閉じるときの風圧でこっちに向かってきているのだ。
「さあ、タイミングだぞ!」
二枚貝は、海の中で貝を開け閉めして進むのは知ってる。まさか、地上でもそんな風に移動してくるとはっ! これでどうやって貝の口に盾をねじ込むのだろう?
と、パカパカと口を閉じ、こちらに飛んできたと思ったら突然ぐるぐる回り出した。
み、みたことある。
四方から炎を噴射し進む、お前、ガ○ラ方式!? 二枚貝でどうやってと思ったら、2方向で上手いことやってる。
そして最後に大口を開けて、【一身集中】でヘイトを取っていたソーダに向かって大きく口を開いた。
あー貝柱見えた。あそこを切らないと、だな。
そしてソーダが大きく開いたところに盾をねじ込ませる。
「嵌まったっ!」
半蔵門線が素早く動く。
あっ!! 村正使ってるし!
刀身が長いので、なんなく奥まで届く。
「浅いっ!」
貝柱を断ち切るまではいかなかったようだ。というか、あれ切ったら貝、閉まらなくなるから勝ちだもんな。
続いてピロリも双剣を貝の口の端に滑り込ませる。
「保たない! いったん離れろ」
盾で押し返すと、貝はパカパカしながらまたこちらに迫ってきた。
だが、最初のように上手くはめるのがなかなか難しいようで、酷い音をさせながら盾で跳ね返すこと数度。再び盾が口に嵌まる。
その間俺は、漏れてきたブラッドモスキートの始末に奔走しておりました。どうしても抜け出してくるから。単体は強くないので俺のダガーで一発だ。範囲魔法でほとんど始末できるからこそ、だった。
普段はこの魔法使いを守る役を半蔵門線が担当していたのだが、俺がいること、リーチの長い日本刀を武器としたことにより、倒すまでの時間は半減したらしい。
「これくらいならいけるな」
「2匹来なければね~。ソーダの盾があるからできるのよ」
ドロップは貝殻と貝柱。
「お米が手に入ったので、海鮮丼のための具材を集めます!!」
それは俺も楽しみだ。
その後も2匹来なければ余裕で貝を倒して、貝殻集めがはかどった。複数来たら凍らせて時間稼ぎ。被害は甚大。どうにか転ばずにやる。
残念ながら真珠は手に入らなかったが、接敵までの間に浜辺を掘り返す柚子に付き合っていたら、瑪瑙が見つかった。赤と緑だ。
「きれいじゃの。そういやあのウンディーネに礼はしたのか?」
「あ!! 忘れてた……」
「キラキラした物が好きと言ってたから、こういったものでもいいんじゃないか?」
「かもしれないですね」
思い立ったが吉日。
「リリさーん!!」
「はーい?」
呼べば出てくるのすごいな。
「これなんですけど、先日のお礼になりますか? 何か宝飾品に加工した方がいいですか?」
俺が赤い瑪瑙を差し出すと、リリは嬉しそうに笑う。
「いいえ、これで十分。アクセサリーにしたくなったら加工してもらうよう、知り合いに依頼するわ。ありがとうセツナ」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
柚子が気付いてくれてよかった。わりところっと忘れてしまうのだ。アンジェリーナさん案件以外。
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まめ男にはなれないセツナくんでした。




