180.鑑定のその先
奴隷の首輪は逆らうと全身に苦痛が!! とかではなく、強制行動でした。ぁー、この自分の意のままに操っていたアバターが、勝手に動き出す感覚へーん。
アイテムポーチと【持ち物】が使用禁止になってるし。
「さあ、こっちに。ではこれを【鑑定】してもらえますか?」
わかっちゃった。そうか、こいつらが狙ってるのは来訪者特有のスキルだ。その代表が、俺が最近やっとこさ手に入れた、【鑑定】だ。
俺はちらりとキャロットの方を見る。彼女は真っ青な顔をしていた。
「【鑑定】。……3日前のカビたパン」
「正解です。お嬢さんの方はまだ【鑑定】スキルを持っていないようですね。来訪者からの情報は得ています。鉄鉱石は山ほど用意しておりますので、【鑑定】が出るまで頑張ってくださいね。貴方は次のステップに行きますよ」
ものすごく心細そうな顔で見られるけど、首輪があるからどうしようもないんだよ-。頑張れキャロット。知らない振りしてただひたすら鉄鉱石叩いてて!
引っ張られていった先はたくさんの鍵で溢れた部屋だった。
「さあ、この部屋の向こうの扉を開ける鍵はこの中のどれかです。【鑑定】すればすぐにわかります。頑張ってくださいね」
これ、【鑑定】育てさせるやつぅー!! いやぁー!
でも、やらないと進めないんだろうなぁ……もー。
仕方ないから片っ端から【鑑定】する。
昔の貯金箱の鍵やら、お隣さんの金庫室の鍵なんてあっちゃいけないものもたくさん。ほとんどが、ダミーの鍵だったが。
少し場所を空けて、外れを寄せていく。
てか、1000以上ありそうなんだよ。そんなに広い部屋じゃない。座りながら手を動かして行くので、MPは回復しつつだ。【鑑定】は消費MP1なので枯渇はしないだろう。
たまに面白そうな鍵が見つかるのでポケットに入れる。見張られてるなら取り戻されるだろうが。
1時間くらいしたところで『隣の部屋へ続く鍵』が見つかった。くぅ……逃げ出せる算段できんかった。鑑定に夢中になっちゃった。こういう作業きらいじゃない自分出てきてしまって、つい熱中した。
「ずいぶん早かったですね」
「そうですか?」
『次の部屋へ続く鍵』を使って扉を開けると、商人さんがいた。
「貴方の【鑑定】は随分熟練度が上がっているようですね……これはいけるかもしれません」
にやりと笑った顔がものすごく悪かった。
悪徳商人って感じだ。でっぷりタイプなのに魔法使えるし……てか、商人で麻痺使えるって、悪いことしていそうでしかない。
「まあ、かなり時間も経ちましたし、こちらをお食べなさい」
と、パンを出される。コップに入った水もだ。だだっ広い何もない部屋の中央にテーブルと椅子が設置されていて、そこへ座った。
EPがかなり減ってきているし、この首輪、行動制限があるらしく、スキルを使って鍵を探すことしかできなかった。スキルを使うかどうかの発動タイミングはこちらに任されてはいたが。
あー、パン美味しくなーい。案山子のご飯に慣れきっているのでこれは辛いっ!! くっそー。
「さ、食事が終わったら今度はこれです」
ばさっと渡された紙の束。
「読んでください」
にっこりと言われる。
うんんん???
「読めないです……」
「【鑑定】では?」
「えーと、『暗号で書かれた昨日の夕飯』……なんですかこれ」
「そう『暗号で書かれた昨日の夕飯』ですね。よく文字を見て」
「んん……読めないです」
「読めますよ、【鑑定】のさらに先のスキルがあると言われているんですよ」
なん、だと……。
「私は貴方にこれを読み解いて欲しいのですよ」
わー、目がマジだ。
これが狙いなのか……。
ただ、【鑑定】の先へ行くのがちょっと興味ある。
なので俺は文章とにらめっこを続けることにした。心の目を……いや、ダメなんだって。スキルは心の目というよりはガチでにらめっこしていかなきゃいけない。
そうやって1時間くらいしたころ、ぞろりと文字が動き始めた。
「おお?」
「変化しそうですか!? さあ唱えるのです、【翻訳】とっ!!」
「【翻訳】」
文字が動いて、読めるようになる。
なかなか面白い。
「ウサギのシチューと硬いパン」
「すばらしいっ!!」
商人は踊り出しそうな勢いで興奮している。
「これであの方のお望み通りの商品となりましたね。すぐ準備します、君はそこで待っていなさい」
商人が部屋を出て行くが、すぐに戻ってきて俺は強制連行。地下で繋がっていたのか階段を上がった先はごくごく一般的な店舗。ただ、さっきの雑貨屋ではなかった。店の前に横付けしてある馬車に乗せられる。首の輪をさらさないために、スカーフまでつけられている。
馬車はそこまで長い距離を移動したわけではない。
ただ、カーテンが閉められた窓からたまにチラリと外が見えるときがあり、知っている場所を通った。
貴族門だ。
アランブレの貴族街に来たようだ。
これは悪さしてる貴族がいるやつだー。
そこからすぐのところで馬車が止まり、俺は商人に言われて降りる。首輪のせいで言われるがままだ。入ったお屋敷はまたご立派。ヴァージルやウロブルのお屋敷よりは少し小さいかもしれない。街の領主様の屋敷だからな、あちらは。
通された部屋で俺は立っているように言われ、商人は座るが、扉が開くとすぐに立ち上がった。やってきたのは、ラフな姿の、悪巧みしてそうな人。
「ダゴール、できたと聞いたが、それか?」
ITだったな、絶対。俺のことは物扱い!!
「【翻訳】持ちの来訪者でございます」
「ならこれを」
紙をぺらりと差し出され、俺に向ける。
「何と書いてある?」
何か文字列がある。
「ほら、早く読み上げなさい。【翻訳】を使うんだよ」
うう、俺売られちゃう。どこら辺で逃げ出せるようになるんだろう……。
余計なことを話すことができないのは多分首輪のせい。これはもうスキルを唱えることしか許されていない。
「【翻訳】」
すると紙に書かれた文字列が動いて読める物になる。
「昨日の夕飯のメインはローストビーフ」
なんでこいつら夕飯を暗号化してるんだよおお!!
「素晴らしい! 言っていた通りの金額で買おう」
「他にもそれなりのスキルを持っているようですよ。【ライト】を使っていましたし」
「うむ。これで例の文書を読むこともできるだろう。お前にももっと儲けさせてやる」
「ありがたいことですね。私の方も、モンターグ伯爵様にもっと貢献できるよう頑張ります」
「ヨーランの方がしくじってくれたからな……あちらの回収も急がねばならぬ」
なんか聞いたことある名前出てきた-!!
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まあ、わかりやすい【翻訳】クエストです。




