177.釜の錬金術師
真夜中のクラン狩りを終えた俺は、八海山にポータルを出してもらった。一緒には行けないので1人で突撃してきます。
と思ったが、
「久しぶりに生姜焼き定食食べよ」
「あ、俺も」
「私も行く!」
「拙者もご飯食べるでござる」
「突撃じゃ~」
「みんなで行こッ!!」
ということで結局全員がポータルに乗ってローレンガ。渡し船で『湧き水亭』へ。
「いらっしゃい!!」
「おはようございま~す」
「おお、あんたらか。朝はメニューが限定されてるから生姜焼きはないぞ?」
がーん……しかも生姜焼き食べに来たのバレてる……。
ただ、朝食メニュー、ちょっと気になったのでせっかくだからお願いすることにした。
そうやって出てきたのは、大きなおにぎり2つ。中身は梅干しおかかと、しそ昆布。具だくさんの味噌汁に、サワラの味噌漬け。お漬物が三種類、白菜と大根とキュウリだ。
「ちょっと染みすぎて怖いわ……」
「美味しいのじゃ……うう」
「旨いッ!!」
これ、日本人基本的にやられるやつだろ。
「とっても美味しいです!!」
「朝食はおにぎりの具と魚の種類くらいしか変わらないが、また近くに来たときは寄ってくれ」
「是非!」
ごちそうさまをして、店を出るとここからは自由行動だ。俺はカクさんの店に向かうことにした。
「こんにちは~」
相変わらず所狭しと上から草が吊されている。
草の匂いに溢れた店内だった。
「おう、お前さんか」
「お久しぶりです」
そう言って俺は花びらと枝をカウンターに乗せる。花びらの種類は火。
「実は付与を始めました」
「おー、付与師を目指すのか。なかなか大変な道のりだな。まず武器を作らないと始まらないもんな」
やっぱり武器必要なのか。
付与師のスキルツリーがないのだ。つまり俺はまだ付与師にはなれていない。
何が必要なのかなとずっと考えていたのだが、皆が武器をと口を揃えて言うので、今注文しているものが出来上がったら何か変わるかなと思っている。
ちなみに、固有スキルはスキルツリー一覧にぽつんと1つ浮いている状態だ。付与師になればきっとこれが組み込まれることになるのだろう。
「これで触媒を作ってもらいたいのですが……」
「うーん……俺にこの素材は難しい」
「やっぱり、秤と釜ですか?」
「……お前、もう他のところで作ってもらったのか」
「実はそうなんです」
なら話が早いとカクさんが言う。
「花びらは、秤の仕事だな。俺みたいな釜で作るのは別の物だ。得物が決まってから来い。それ用の素材を教えてやる」
「やっぱり武器かぁ……細剣を作ってもらってるんです。俺の筋力と素早さからお勧めされて」
「悪くないな。確かに腕っ節に特段自信があるわけじゃなさそうだし、手数と隙を狙う方がよさそうだな。武器が決まってるなら俺の知ってるレシピを教えてやるよ。属性的には何を使ってくんだ?」
「ぜ、全部……」
俺が言うと、カクさんが大笑いする。
「欲張りたい気持ちはわかるがな! それじゃあまあ全属性作ってやるか」
いつも使っている花びらは汎用性の高いもので、長剣でも、弓でも、短剣でも、何にでも使えるタイプらしい。だが、本気でやるならその武器にあった触媒を使うべきだと言う。
「細剣は突く武器だ。突いて、流して、巻いて、突く。誰か細剣使いに指導を受けた方がいいと思うぞ。普通の剣とは戦い方が違う。チクチクと相手の小手を狙って武器を落とさせたりかな。まあ、モンスター相手だと話は変わってくる。大物にはそれこそ、毒や風なんかを乗せると変わるんだろうな」
奥から紙を引っ張り出してくるカクさん。
「こっちが一般的に知られている触媒。それをさらに強化するものがこっちだ」
ありがたい。
細剣用の触媒は、花びらではなく、花、らしい。その花だけで付与はできるが、いわゆるオワコンと言われていた時代の使い方だ。
そこへさらに効力を増す材料、エルダードリュアスの枝のようなものを入れる。細剣の場合は、貝?
「貝、どこにあるんですかね」
「そうだなあ、海があるっつったらファンルーア近くだな」
レインボーシータートルとかあそこら辺の海岸線か。
「付与師なんて久しぶりだからな。これは俺の先代のレシピだよ」
「おお……先祖代々受け継いだものですね。ちょっと聞いてみます。知り合いに別のところの錬金術師と関わりのある騎士がいるんですけど、聞いてみていいですか?」
「そこの錬金術師が秤か」
「そうです」
「まあ、錬金術師に関わってるならそいつも心得ているだろうよ。構わん」
「……聖騎士でも?」
カクさんの目がキラリと光る。
「聖騎士の付与師か」
「魔弓使いの人がいます」
「ああ、あれは、いい武器だな……イェーメールか」
おお、バレちゃうのか。
「俺らの中にもネットワークはあるよ。来訪者の好奇心に困ってるって話も聞いてる。まあ、おおっぴらにしなけりゃ構わん。なんなら金出せば魔弓用のも作ってやれるが……秤でも強い触媒は作れるから、そっちはそっちでやってるんだろうよ」
お、これは、来訪者がばらしてもおおっぴらに錬金術師だと連呼しなければ見逃してもらえるぞってやつかな?
火 フロックス
氷 サンカヨウ
風 アネモネ
雷 ヒガンバナ
地 ポピー
聖 シロユリ
闇 ゲッカビジン
水 ベロニカ
時 トケイソウ
毒 ベラドンナ
「木属性、無属性と星属性はないんですね」
「……よく勉強してるな。13属性中こいつは10までしかないんだ。もしかしたら無属性を持つ触媒用花があるかもしれんから、見つけたら持ってきてくれ。あと、星属性はもう神々の花だ。俺にはきっと扱えん」
星属性やっぱり星座なんだな。
「木属性はなぁ……木だからなぁ……」
それなー!!! うーむ。
そして気付いた。ここに、ベロニカがあることに! アンジェリーナさんが教えてくれた、ウンディーネの湖のそばで採った青い花はベロニカという種類だった。【鑑定】してわかった。
「とにかく貝が必要ですね。採りに行ってみます。生息地とかわかりますか?」
「いや、花の趣味はないんだよ。基本的に錬金術はこちらから言うことではないし、触媒は持ってきたら加工してやるだけだ。こちらで材料をそろえることはない」
「触媒だとわかるのはどうやったらわかりますか?」
「さあなあ、先祖代々継いできたものだが……来訪者なら便利なスキルがあるだろう」
「【鑑定】ですね……」
ベロニカも鑑定後は名前とちょっとした説明のあとに空欄があります。ここにきっと触媒云々書いてあるんだなぁ~。でも俺の【鑑定】スキルはまだそこまで育っていないと。
俺はカクさんに別れを告げて店を出た。
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専用触媒の情報も手に入れた!!




