171.来訪者の多属性持ち
とはいえ、持っていない魔法もある。
「それってどの属性が必要なんですか?」
「どの??」
「えーと、時魔法とか?」
「あれはいらねえなぁ。どっちかというと補助の魔法だろ?」
ハザック親方とモランさんが顔を見合わせながら指を折って行く。
火、氷、雷、風、地、水、そして無属性。
「基本ここら辺だろ。属性がないとき暴れて被害が出るんだよ。ゴーレムのくせに素早いし、もちろんだが力が強い。ストーンゴーレムのとき、雷で動きを止めたが、魔法が効かない。押さえつけるのが大変だ。足下のぬかるみにはめたいが、早くて飛び越えたりもするんだ」
「その七属性の最初の魔法なら持ってます」
俺の言葉に二人は目を見開く。
「……そうか、来訪者だからか」
「普通は複数属性そんなに持ってねえんだよ。俺が知ってるのはギルドのじーさんくらいだ。それでも水は持っていなかったはずだし、あのじーさんを船旅の上に激しい狩りの現場に連れてくのはためらわれる」
「しかし、セツナ君がいるならちょっと考えたいですね」
「あの大きな建築依頼だろ? わかる。魔鉱石の在庫がちょいと寂しくなってきたところだったしな」
何やら2人が頭の中で計算を始めた。
前回は何が何やらわからぬうちに連行されたが、今回は望むところである。
「魔鉱石となると便乗したいところが増えるだろうな」
「どちらにせよ城に申請しなければなりません。狩り場は国の持ち物です」
「船旅も2日くらいか……来訪者の特性を考えるとちょうどいいかな」
「モラン、お前ちょっとそこら辺調整してこい」
親方に指示されて、モランは家を出て行く。
「セツナ、お前を雇う。今回のマジックストーンゴーレム狩りについてきてくれ」
「報酬は現物がいいです」
「何を作る予定なんだ?」
「一応細剣予定です」
ミュスは西風のダガーで狩ればいいしね。
「ならそれに必要な分と、別に500万シェルだ」
たっか!?
「そんなにもらっていいんですか?」
「来訪者でなければ多属性持ちは珍しい」
むしろ、来訪者は多属性だと思うんだが。
「何よりお前のその魔法があれば怪我人がかなり減ることとなる。お前の予定に合わせるが、船のこともあるからな、今日明日の出発じゃない。準備の目処が立った時点で連絡する。契約は……冒険ギルドに指名依頼を出す。その方がお前も信用がおけるだろう」
「別にハザック親方のことは信頼してますから気にしませんが」
俺の言葉にハザックはガハハと笑う。
「俺もお前のことは信頼してるよ。だが、城が関わることだからな、きちんとした手順を踏もう。また連絡するぜ」
大物狩りの予感にわくわくする。
しかも素材が揃えばそれだけ余計な費用がかからないのだ。
問題は……アンジェリーナさんとしばらく会えないことだった。
辛い。
ということでできうる限り摂取しに行くことにする。
残りの日のあるうちはアンジェリーナさん。
日が暮れたらミュス狩り。
定期的に進捗が来るが、前回の突然の強制連行と違って、なかなかお呼びがかからない。珍しい。まあ、それならやりたいことをやるまでです。
本屋に入り浸る。
「あら、マジックストーンゴーレム?」
「はい! 今度付与剣を作りたいのでその材料集めをしなければならないんです」
「それは大物ね。以前お世話になったハザック親方を頼るのかしら?」
「そのつもりですね」
「でも親方たちだけってわけにはいかないだろうし、気をつけてね」
「はいっ!!」
そこで会話が終わるのかと思ったら、俺を見て首を傾ける。
「すぐってわけじゃないのかしら?」
「そうですね。今回は段取りがあるらしくて、しばらく待機です」
なのでたくさん本を読ませていただこうかと……。
「それなら、お使いを頼んでもいいかしら? ウロブルへなんだけど」
「はい! 任せてください!!」
即答でした。
ウロブルの貸本屋さんへのお届け物らしい。おつかいクエストとかそんな感じかな?
本を5冊預かった。
ウロブルはホント、移動が楽でいいや。ファンルーアが今1番行きにくいかもしれない。空路が高いんだ。それで陸路を行こうとすると、渓谷などが邪魔して大回りをしなければならないのだ。
ウロブルからローレンガは死にそうで怖いけどね。
ウロブルの学院研究準備室から、出口へ。
「あ、先日はありがとうございました。おかげさまで楽しいひとときを過ごせました」
受付の青髪さんだ。
「いえいえー、お仕事頑張ってください」
俺の返事に彼はにっこりと微笑んだ。
貸本屋仲間には優しくね。こういったところからアンジェリーナさんの好感度も上がるかもしれないだろ!
相変わらず貸本屋の店舗の周りは閑散としている。確実に立地間違えてるんだよ。NPC市民の住むところだから、クエストでも発生しない限り来ることのない場所なのだ。
「こんにちは~」
「いらっしゃい、セツナくん」
「お届け物です」
【持ち物】から預かった本を取り出す。
「あら!! アランブレにあったのね~助かったわー。ついでと言ってはなんだけど、この本、この間の彼に渡してきてくれない?」
「ああ、学院の受付の?」
「そう! 彼、苦学生なのよ~。学院は金のある平民か、貴族かだけど、彼は本当に研究をしたい平民の出なの。優秀だからと研究室の教授も何かと目を掛けてくれてはいるけど、最低限は自分で稼がないといけなくて。それで研究の間に学院の事務の手伝いをしているのよ。この本、かなりくたびれてきたからね、今回彼に格安で売ることになったの」
分厚い本だ。
「時間はあるので構いませんよ」
お呼び出しがかかるまで待機だし。派生おつかいだな。
「代金はもうもらっているからよろしくね」
黄緑色の長い髪のエルフ美女がウインクするけど、俺の心は動きません!
キレイデスネ程度だよ。
我ながらこんなにも一途だなんて。思いもよりませんでした。
預かった本を改めてしまって、来た道を戻る。
ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。
誤字脱字報告も助かります。
ドキッともしなくなったらリアルに影響出そうだなとふと思いました。
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