152.エナドリの効果
土埃の向こうから女王アリの姿が見え始める。
俺の【属性看破】さんが仕事した。
風に変化してる~~!!!
アリに風が通じていたのは、アリが地属性だったからだ。とはいえ、地属性の時何が一番通じるかなどはやってみないとわからない。同じ属性だと一定数耐性が生まれるくらいだ。
火と水で水が火を消すから水が強いというわけでもない。あまりの火力に水鉄砲では負けてしまうのと同じだ。
アリに風が効くのは、すでにダンジョン攻略を始めていた者たちによる調べのおかげだった。
『有利属性から調べる魔力がないのじゃ~』
『柚子、案山子は魔力回復薬を』
『お高い飲み物じゃ』
魔法使い組と、八海山も補給してた。ただ、ホントに高いそうだ。1本55万シェル。
『ヴァージル、スタミナキツそうだよね』
『あー、さすがにな、兵隊アリの数が多かった』
さっきまでの余裕がちょっとなくなっている。
俺たちはまあ、負けてもやりなおし程度にしか考えないけど、NPCは違うんだろうなぁ。やっぱり巻き込んで悪かったかもって思ってしまった。
『明日動けなくなってもいい?』
『……まあ、明日動けなくなるか、今日動けなくなるか、だろう?』
後者は怖い怖い。
そっと差し出したるは、エナドリ。
『これは?』
『学院で作られてもうすぐ薬屋で販売予定のものです。ちょっと頑張れるけど反動で疲れちゃうかも』
ああ……ヴァージルを実験台にしてしまうっ……。ごめん。
せめて自分で実験しておけばよかったーっ!!
結果。ヴァージルのステータスが1.25倍。HPMP倍プラス回復。これが5分間だけ持続。
この人にそんなチート与えたら、5分もあれば女王の足全部無くなったよ。そしてとどめの頭貫通。
《ダンジョンボス『アリの女王フォルミーカ』を パーティー名ガンガンいこうぜが初討伐しました》
みんな後ろに下がって見てただけ。
セツナ:
ヤベー!!! エナドリヤベー!!!
ピロリ:
この間のキノコから出来たってやつよね?
柚子:
鬼神爆誕させてしもたのじゃ……
八海山:
その反動が怖いな。
セツナ:
反動は俺もわからない。せめて自分で試してからやるべきだった。
ソーダ:
俺らだけの攻略にはもう少しレベル上げと何か攻略方法がいるってことだろうな。
半蔵門線:
このエナドリ発売がウロブルに拙者たちきて、セツナ殿がクエストこなしたからでござろう? 攻略のサポートにエナドリも含まれてるかもしれないでござる。
案山子に【鑑定】してもらったのだが、『能力を一時的に引き上げる、これさえあれば徹夜もオッケー』のあとに空白あるらしく、たぶんデバフについて書かれてる空白。
『ヴァージルごめん、ほんとごめん。学院で先生方自分で試して飲んでたから大丈夫だとは思うんだけど、反動どのくらいくるかわからん!!』
『いや……身体に悪いのだろうなとはわかるんだが……すごいなこれは。常用してはいけないものだ』
ちょっとマジで明日が心配。
『早く帰って休もう!!』
5分経つとステータスは戻ったらしい。体力も魔力も飲む前くらいだという。それだけだと。
『絶対何かあるから、帰ろう!!』
ということでイェーメールにポータルを開く。まだ夕方前だ。アリが結構な量いたから、地下2階を進むのに時間がかかった。
『お互い無事でよかった。やはり、未知の領域には万全の状態で進まないとダメだったね。少し調子に乗ってしまったよ』
『手応えがあって楽しすぎて、慢心してしまったね~。まあ無事でなにより。また新しいダンジョン見つかったら教えてくれ』
アランの方は懲りてなさそうだ。
俺たちは1度クランハウスへ飛ぶ。
「セツナ、エナドリっていつ発売なんだ?」
「あー、わからん。今聞いてくる?」
「頼む」
ということで生活魔法研究室準備室へぽいっとジャンプ。
部屋を出るとブラウン先生がソファでだらっとしていた。ここのソファ寝心地よさそう。
「こんにちはー」
「やあ、大全読みに来たのか?」
「それはまた今度で。少し聞きたいことがありまして、あのエナドリっていつから発売になるんですか?」
ブラウン先生はにやりと笑う。
「なんだ、使ってみてあれのすごさを実感したか?」
俺は使ってないけど、すごさというかやばさを実感してます。
「一応明後日から販売予定だそうだよ。街の薬屋、道具屋にずらっと並ぶだろう」
「おいくらで?」
「1本80万シェル」
「たっっっかっっ!!! 反動あるのに?」
「反動? 試して反動があったのか?」
「え、いや、俺は試してないけど……反動も見てはないけど……」
少し驚いた顔をしていたが、俺の反応にまた笑う。
「さては、イエローハイマッシュルームの【鑑定】結果に踊らされているな? あれを食べたら翌日反動で死ぬが、エナドリはそんな恐ろしい反動はない。ちょっと腹が余計に減るくらいだよ」
マジか。つまりEPゲージの減りが早くなる。
「研究者を信用していないな。身体に大ダメージがくるようなものを販売したりはしないさ。イエローハイマッシュルームの良いところだけを上手く活かした薬を作り上げたんだ」
あーこれはもう、アリ攻略で困ったときに使うヤツか。しかし、80万シェルって。価格がすごすぎる。
「わかりました。ありがとうございました」
「製造はもう工場へ委託した。今は脂汗の方から作る薬であの研究室は大忙しさ」
お礼を言って部屋を出る。そのままクランハウスへ。ブラウン先生との会話を伝える。
「EPゲージの減りが早くなるのか。まあ、持続時間は5分だし、ずっと使ってあのダンジョン攻略というわけにもいかないだろうしなぁ」
「女王アリとの対決で、ここぞと言うときに使うくらいだろうな。80万シェルはばかすか飲めない」
「しばらくアリダンジョンでレベル上げかなー。セツナも参加しろよ~。お前の【風付与】はいいブーストになる。クラン狩りだ!」
そんな話をしつつ、戦利品の処理になった。
ヴァージルの体調が心配すぎてそこら辺全部後回しになっていた。
アリから得られたのはほとんどがアリの外殻という、防具用の素材だ。
というか、それくらいしか出ない。後は、アリの後ろ足で、ゴミと言われていた。一応店で買い取ってくれるが1つ100シェルだそうだ。
女王アリから出たのが、女王アリの上顎、下顎、女王アリの外殻、女王アリの足、女王アリの目という宝石のような黒い玉。
「こういったアイテムは何に使うかわからないからなぁ……しばらくはストレージの肥やしだ」
「目はまた何かアクセサリー用かしらね。どんな効果があるかわからないんでしょ? 案山子」
「うーん、女王の目って説明の後にまた空白あるからなんらかはあるんだろうけどねッ」
アリの外殻は防具作りをするプレイヤーや、冒険ギルドで結構高値がつくというので全部渡した。
「クラン資金にするのと、今回のMP回復薬の補填にする。あれ、使った意味なくなってたし」
「エナドリがあんなことになるなんて思ってもみてなかったのじゃ……補填してくれるならそれはそれで嬉しい」
精算は終わって解散。
「俺はちょっと、蒼炎とロジックからのフレチャすごいから行ってくる」
アナウンス響いちゃったからね。
「あ、案山子さん、またご飯もらっていい? ヴァージルに持って行ってくる」
「あーEP減りまくるのかッ! いっぱい持って行ってあげてッ!」
八海山がポータルも出してくれた。
ホントご迷惑をおかけしたよ。
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毒にも薬にもなる。
良いサイエンティストたちでした。




