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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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15.仕組まれたトラブル

 詰め所というやつだ。

 例の兵士、オーランは、俺にもついてきてほしいと言うので大人しく同行した。

 赤髪二人はずいぶんと暴れている。


「あっ、てめぇ!!」

 ヤンさんロンさんちーっす!

 嫌だな、これあとあと狙われたりするのだろうか。

「ほら、お前らはこっちだ」

 曲がり角でのやりとりを、他の兵士がこちらを気遣ってか止めてしょっ引いていく。廊下の向こうの部屋へ詰め込まれていた。


「セツナくんはこっちね」

 オーランがすぐ横のドアを開ける。

 中には同じような兵士の服を着た者たちがたくさんうろついていた。

 その中の椅子をすすめられる。


「それじゃあ、改めてお話を聞かせてもらっていいかな?」

 同じ話を繰り返す。

 ユリアさんが襲われたこと。相手は赤毛の双子の男たちだったということ。物騒な世の中だと思いながら散歩をしていたら彼らがその話をしている場面に出くわしたこと。詳しく聞いてみようとおもったら気付かれて追いかけられたこと。

 あえて、金で雇われたらしいとは言わなかった。

 

「ありがとう。じゃああいつらからも話を聞くか。セツナくんはもう大丈夫だよ。何かあればまた連絡するね」


《オーランからフレンド申請が届きました》


 なんで男ばかりからフレンド申請が届くのだ?

 まあ今回は連絡用ということか。


 NPCからのフレンドチャットってどういった技術ってことになるんだろうな?


 で、俺はここで帰るつもりはない!


「ご迷惑でなければ彼らと話をするとき、同席か、こっそり見ていたらダメですか?」

「ええ? さすがに今回は街からの追放処分にはなると思うけど、よそでつけ回されるかもしれないよ?」

「そうですか……でもちょっと気になって」

「うーん、まあ、俺の後ろにいるようにね?」

 オーランさん、多分三十歳前後。面倒見の良さそうなタイプ。


 ということでついて行く。

 部屋の中はまー騒がしい騒がしい。


「あ、てめえ!!」

「こんにちは~」

 まずはご挨拶である。


「お前が俺らが女を襲ったとか嘘言ったんだってな! ふざけんなよ!」

 お、そこから否定してるのか。まあ、襲ってないけどね。


「静かにしろ! じゃあなんで彼を追いかけ回してたんだ!」

「それは、こ、こいつが睨んできたから」

「そうだ。なめられたらおしまいだからな!」

 何がおしまいなんだろう??

 君たちの考えがよくわかりません。


「女性を襲ってないって言うの?」

「ああ! そんなことしてねえ」

「じゃあ、何人か並べて、本人に襲われたの誰か聞いてみたらいいんじゃないですか?」

 俺の提案に彼らがぐっとうめいた。


「その特徴的な髪型と赤毛なら一発であたりそうですけどね」

 さらに顔をしかめる。


「そうするか?」


 さらにオーランが問う。

 すると、どっちがどっちかわからんが、片方がしゃべり出した。


「俺らだって頼まれただけなんだよ!!」

「おい、黙れ!」

「うるせえ! 女を襲ったなんて犯罪歴つけてみろよ。盗み程度じゃ済まねえだろうがよ!」

 内輪もめが始まればこっちのものだ。




 詰め所の一室に、ユリアと彼女の父親、そしてマルスと、ウォルが集められる。

「先日事情を知らずに殴りかかってしまったと、マルスさんがウォルさんに謝りたいそうですよ」

「ユリアが暴漢に襲われたところを助けていただいたそうで、それを知らずに申し訳ございませんでした」

 と、打ち合わせ通りマルスが頭を下げる。

 だいぶごねたけどね。ここはやってもらわなければならない。


 するとウォルは人好きのする笑顔で首を振る。

「いえいえ、誰しも間違いはありますから。気にしてませんよ」


 ユリアの親父さんは仏頂面のままだ。


「ところで、詰め所に来ていただいたのは、先日のユリアさんを襲おうとした二人を捕まえたからで、彼らかどうか、確かめて欲しいです」

 オーランの言葉に笑顔のまま、ウォルはピクリと眉を動かした。

 器用だな。


「扉の隙間から覗いていただくだけなので、ユリアさんとウォルさん、よろしいですか?」

「ユリアは無理しなくても……」

 マルスが言うと、彼女の父親も頷く。


「お前が危ないことをする必要はない」

「ウォルさんに見ていただく方がいいかもしれませんね」

 俺も援護射撃。

 ここまで言われれば、彼は頷くしかないだろう。


「それでは私が確認しますね」

 そういって彼をヤンとロンのいる部屋に連れて行く。扉をすこーしだけ空けると、その隙間から確認した。


「ああ、彼らですね。間違いない」

 一瞬見てすぐ身体を扉から離す。

 ので、俺がちょいっとドアを内側に押してやった。

 お三方ご対面。


「ちょっと!?」

「ああ、こいつだ。この人から金をもらった」

「ちょっと絡んだらいいって言われた。断じて襲ってはない」

 ヤンとロンも必死だ。襲ったら街を追放。二度と入れない。しかし、金をもらって襲う気はなかったと証明されれば一時的な街からの退去。一定期間で街へ入ることも可能になる。


「は、何を……」

「どういうことだ?」

 と、すぐ後ろにはユリアの親父さんがいた。

 ウォルはドアを閉めようとするが俺が立ってるから閉められない。そして必死の双子は全部べらべらと話すのだ。


「そこの家具屋のぼっちゃんに、金をやるからそこのお嬢さんに軽く絡んでくれって頼まれたんだよ!」

「俺はそんなことを頼んだ覚えもないし、こんな奴らは知らない!」


「と、そんな話もあるんですよ。あと、これ見ていただけますか?」

 取り出したのはマルスから借りていたリスの木彫り、二つ。


「えっ!? なんでマルスが二つ持ってるの? 私も持ってるのに……」


「見せてみろ……こっちは、マルスの作ったものじゃないな。彫りが雑だ。こいつの腕はこんなもんじゃない」


「つまりね、ユリアさん。君たちの待ち合わせ場所の暗号はあの界隈の人ならみんな知ってることなんだ。木彫りのリスを複製して、それぞれの待ち合わせ場所を川の下流と上流にして待ちぼうけさせて、ユリアさんをこいつらに襲わせたのがウォルってわけ」

 違う! 襲ってないなどとうるさいのでドアを閉める。


「そんなことはしてない!」

「まあ、別にそっちはどうでもいいよ。ユリアさんとマルスさんの二人の仲が元に戻れば。よろしいですか?」

 ユリアの後ろでとても怖い顔をしている親父さんに話を振る。材木屋なだけあって、ガタイがめちゃくちゃいい。怖い。Lv15の俺ぷるぷるしちゃう。


「マルス、悪かったな。好きな木持っていけ」

「親父さん! こちらこそ、迂闊でした。お嬢さんを危険な目に遭わせて申し訳ございません」

「やだ、ウォルってもしかして私のこと好きだったのね。ごめんなさい。でも、私はマルスが好きだから!」


 おいおい、一人勘違い女が混ざってんぞ……。


 まあ、そんなこんなでこの騒動も終わりだ。

 これに懲りて、からかわれるの覚悟で店まで迎えに行けば良い。好きな女のところには喜んで向かえ。俺はそうする。

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


ホントはマルスが木彫りに気づくべきだが、恋する男子は気づかなかったってことで。

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