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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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14.賄賂は甘いもの

 ユリアの父親の材木屋はここら一帯で一番の仕事をしているそうだ。

 もちろん大きな商会に流す量も多いが、マルスのような個人経営の店にも積極的に融通する。仕事が出来る相手に相応の木材をと言うスタンスだという。


 親父さんが怒ったのは、約束すっぽかしてその結果娘が変な輩に絡まれて、それを助けたウォルを何も言わずに殴ったということだ。

 元凶がウォルだとわかれば早い。

 ユリアを襲ったやつを特定して、そいつらがウォルと繋がっているとわかるのが近道かな? え、腕力系? 俺ってどの程度対応できるんだろうか?


「とりあえず、ユリアさんが変なやつに絡まれた場所を教えてください」


 だが今日は時間切れ。タウンハウスへ飛んで、自室でログアウトした。

 自室……ベッドくらいは欲しいな。シングルベッド入れたら終了だが。ソファベッドか。この際。




 ログインしたら、ソーダからメールが届いていた。EPに気をつけろ、クランハウスのストレージに入っている食べ物を持っていっていい、という話だ。

 なので覗いてみる。

 蟹が、え、もう調理されてる。ログイン時間合わないやつか。

 カニつめグラタン一つもらっておこう。あとは甘い物からおかず、パンと多岐にわたる。すごいな。料理ってこんなにできるのか。

 いくつかもらっておく。材料が手に入ったらそれでお返ししよう。


 さて、出陣。

 昨日、ゲーム時間では一昨日くらいに手に入れた情報をもとに、ユリアが絡まれたという場所へ向かう。

 そこは小さな広場で、周りに露店も多かった。

 こんなところで絡むか?? いくらなんでも人目が多い。

 そしてたぶん、これが待ち合わせのベンチ。いくつかある。わりと人目につく。

 そばに、小さな木細工を、布の上に並べた少年がいた。


「こんにちは」

「お、兄ちゃんなにか探し物かい?」

「人探しなんだけど……」

 ここは商品を買うべきなんだろうが……金が、もったいない。

「今あまりお金はないんだが……甘いもの好き?」

「賄賂は遠慮なくいただくぜ!」

 差し出したのは蜂蜜クッキー。クランストレージから拝借したものだ。せっかくなので俺も一緒に食べる。

 ……うまっ! 蜂蜜の香りが口の中に広がる。


「うっっまっ! なんだこれ、兄ちゃんいいもん食ってるな」

「知り合いが料理が得意らしいんだ。もう一ついるか?」

「え! くれるの!? ……先に望みを言いなよ。これ以上はさすがにただじゃもらえない」

 最初のクッキーが賄賂だったのではないのか?


 気を取り直して。

「先日ここで女性が男に絡まれていたと聞いたんだが……」

「あーゴワン商会のとこの娘さんだろ? 見た見た。おいら、あれに関してはいい情報持ってるぜ」

「いーねー。蜂蜜クッキーお食べ」

 そうやって賄賂で口を緩くして得た情報は、まあ予想通りだった。

 つまり、絡んだ男たちはユリアとマルスが去ると、やれやれと言いながら報酬のことを口にしていたと言う。


 ウォルに雇われたやつだってことだな。

 さもありなん。

「その男たちって、どこかで確保できない?」

「河口付近でよくたむろってるやつだよ。ただ、あそこら辺は治安がよくないからなぁ……兄ちゃんくらいだと返り討ちに遭いそうで怖いぜ!」

 あー、レベル問題ね……。そういや15レベルに上がってポイント振ってなかったな。まるまる残ってる。全部腕力に振ってやろうか? いやー、ミュス倒すのに腕力もういらないんだよね。敏捷に振ってやろうか? 決められないなあ。

 

 ここは原点に返ってみよう。


 アンジェリーナさんはどんな男が好きなのか!!


 どう考えても知性だった……。

 知性はきついな。こー、色々振りすぎてバランス型と言えば聞こえの良い優柔不断型になるところだった。


 とりあえず、敏捷に全振りしちゃいまーす。

 いざとなれば、逃げられればいいだろ?


「足は速いほうなんだよ?」

 ステータスポイントを振り終わった後に言ってみると、彼は少し目を細めたあと、頷く。

「確かに速そうだとは思ってた。それならいざとなったら走って逃げちゃえば良いね!」

 お墨付きがもらえたので行ってみることにした。



 治安が悪いと言われたように、確かに、路地は薄暗くて物が散乱していたりする。細い道が多い。

 目的は、ユリアに絡んだ相手を突き止め、そいつとウォルの繋がりを何か得られないか、だ。

 身体的特徴は、赤髪でそれが天に向かって立ってる、双子。

 特徴ありすぎてきっとすぐわかる。


 ほら。いた。


 樽の上に座って何やら上機嫌で話し込んでいた。

 ちょっと壁越しに耳を傾けてみるとする。


「チョロい仕事だったな。またないかな」

「あれだけで2万シェルとか、またやりてえな」

「明日にでも聞いてみないか?」

「やめとけ、俺らの方から行ったって知らないふりされるだけだよ」

 そちらに集中していたら背後が疎かになっていた。肩をぐっと掴まれる。



「おい、何をしてる」

 こちらもガラの悪そうな男だ。これは、身の危険がひしひしと感じられる。


 赤髪二人も声を聞きつけてこちらへやってくる。

 早速、敏捷を上げた俺の脚の見せどころだ!!

「あっ!」

 と、彼方を指差し声を上げると、彼らは一瞬そちらへ気をやる。その隙に、俺は逃げ出した。

 相手のほうが土地勘がある。

 だから俺はなるべく大通りを目指した。

 あ、EPヤバイ。結構減っていたのが、こうやって猛ダッシュするとさらに減る。

 あと少しで大通りというところで人にぶつかり後ろへ尻もちをついた。

 もごもごと謝罪すると、あちらはあれ? と声を上げる。


「やあ、セツナくんだよね。あまりここら辺は治安が良くないから一人歩きはやめた方がいいよ」

 誰? というのが顔に出たのか、相手は苦笑いをした。

 彼の衣装は兵士のもの。街を巡回しているのか?


「ほら、トムと一緒に平原に君を迎えにいった……」

「ああ! あのときの!」

 トムと母親と兵士の人。


「道に迷ったなら表通りまで送るよ?」

「おかしな輩に追いかけられていて……もしかしたら彼らの話を聞いたせいかもしれないんです」

 かくかくしかじかと、真実を織り交ぜて、あることないこと言ってみる。


「実は、先日材木屋のお嬢さんが男に襲われ、通りかかった人に助けられたというのですが、その襲った奴らというのが、たぶんさっき道に迷って歩いていた先で見た赤毛の、双子で……」

「もしかして、捕まえようとしたのかい!? だめだよ。危ないからそういったことは兵士に任せなさい。赤髪の双子なら、ヤンとロンかな。細々とした軽犯罪に関わっているが、まさか女性にそんなことを!! すぐ応援を呼んで引っ捕らえるよ。ありがとうセツナくん!」

 兵士さんはとても感激してらっしゃった。

 数分後、増援部隊を連れてきて、ヤンとロンはあっさり捕まった。

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


お金はなるべく本に使いたいので、小銭節約したいセツナくん。

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