136.付与の強化の秘密
鯉のぼりボートレースから、リアル時間の翌日。
俺は今、お姉様方に囲まれています。
圧がすごいなこれ。
一番前には濃い肌色の銀髪青目の少年が、困った顔をして微笑んでる。
困ってるのこっちだけどね。
クランチャットにはヘルプ出しました。
始まりの平原でアマゾネスに詰め寄られてるって。
「突然済みません、蒼炎のリーダー、黒豆といいます」
「あ、はい」
「何その腑抜けた返事~」
「黒豆が挨拶してるのに、名乗りもしないなんて」
「失礼千万」
「ちょっとしめる~?」
怖いよおぉ……。
「みんな、ご迷惑掛けてるのはこちらだからね?」
「はーい」
「私いい子だよ」
「大人しく後ろで待ってます」
総勢8人かな? みんな強そうな装備。
「この間の鯉のぼりレースの動画を拝見させていただきました。それで、少しお聞きしたいことがありまして……」
「なんでしょうか」
今度は、ちゃんと、ちゃんと答えたよ!
それでもお姉さんたちにじろりと睨まれたままだ。
「セツナさんは付与師を始められたんですよね?」
「あー、そうですね」
はっ、これは気の抜けたお返事!? と身構えたところに、別の声がした。
「すとーっぷ!! 黒豆さん、俺のクランハウス行きましょ」
「ソーダぁぁ」
セツナ:
怖かったよおお。なんなのこのお姉さんたち!!
ソーダ:
黒豆のハーレムメンバー。
セツナ:
え、ヤバっ!
ソーダ:
黒豆さん別に悪い人じゃないしもてあそんでるわけでもないけど、なんだろう……無自覚……。と思われている。
セツナ:
ヤバっ!!
「ここじゃなんなんで。あーさすがに全員入ったら狭いんで~、黒豆さんだけで」
営業スマイルのソーダに不満そうなアマゾネスたちだが、文句は言い出さなかった。
黒豆がじゃあそれでと言ったからだ。
「俺ら一足先に帰ってるんで、待ってます」
帰還ポチッとな。
クランハウスには柚子以外揃ってた。
「セツナ何したんだよ」
「何もしてないってー。なんか鯉のぼり見たけど~で話し出そうとしてたところ。動画上げた?」
「もちろん上げた! その後の温泉も上げた!」
動画再生率もなかなかだったそうだ。まだ誰も見てない温泉旅館だったからなあ。上位5グループのみ、先行温泉入浴券。ただし、旅館には泊まれません。高そうなお宿でしたよ。
「黒豆さんが用事があるらしいっぽかった」
「あの人がリーダーで彼女たち止めてるけど、結構怖いから気をつけろよ、あの姉ちゃんたち」
「圧ヤバかったな」
「基本自分たちでパーティー組んで狩りしてクエストしてって感じだけど、実力はあるからさあ、協力型レイドとかでは結構一緒に動くんだよ。黒豆に不利益なことしなきゃ大人しいし、変に関わらなきゃ大丈夫だけどな」
そんなことを話していると、扉がノックされる。
「いらっしゃい。何飲みます?」
「コーヒー以外ならだいたい大丈夫です」
ということで、桃ジュース。それぞれ腰掛けて、本題だ。
「動画でセツナさんが付与をしているのを見たんですが、効果が僕のとはまったく桁違いだったんです。それで、何が違うのかお聞きしたくて」
「あー、そういやセツナこの間バタバタして聞き損ねた。付与すごかったんだけどなんで? 全然オワコンじゃなかったんだけど」
「そうなんですよね……魔法剣憧れて取ってみたものの、付与の効果が全然で。僕の氷付与じゃ川を凍らせるなんてとうてい無理なんです」
あ……これは。
「触媒は何を使ってらっしゃいますか?」
「この間拾った花びらだろ?」
これはこれは。
「黙秘!!」
口を押さえて俺はブンブンと首を振る。
みんながきょとんとした顔で俺を見た。
「話せませんっ!!」
「おま……え、話せないって」
「だってNPCが話さないでねっって」
「あー!!! この間言ってたヤツか。うわ。ごめん、黒豆さん」
「……いえ、意味はわかりました。つまり方法によっては魔法剣は強くなると」
黒豆の目がキラキラと輝き出した。
いたいけな少年を前に、俺は黙秘しなければならないこの罪深さに……いや、ハーレムの王よ、こやつ。いたいけじゃないわ。
「頑張ってっ!」
「なんかヒントないの? セツナ」
ソーダの質問にまた彼は目を輝かせた。
そのつぶらな瞳はずるいっ。そうか、これであれだけの数のお姉さんを……っ!!
「ヒント、ヒントなあ。えーとうーんっと……」
触媒を強化するのが錬金術師だけど、錬金術師がいるってのがまだ知られてないからそこは言えない。でも結局錬金術師なんだよなぁ……。
うんうん唸る俺に、黒豆は苦笑して首を振る。
「困らせてすみません。何か探してみます」
ソーダ:
セツナ、それって貸本屋関連?
セツナ:
確かに、貸本屋で付与の本読んでそこにもヒントあったんだけど~、たぶんそれ以前から俺、そこら辺関わってるんだよね。
カクさんところで第1錬金術師に遭遇してるんだよなぁ。その後は本屋で読んで、ヴァージルからだから。
「ちょっとヴァージル関わってるんだけど、多分違う気もする」
俺もそれなりに考えてみたんだ。ソーダたちになくて、俺にはあった要因。カクさんが俺にだけ錬金術師ってことを告げたやつ。
「図書館で付与について調べました?」
「図書館!? いえ、調べてないですね……調べてみます」
「それだけか、わからないらしいですけど」
「ヴァージルさんが関わってるなら、ちょっと僕には無理ですね」
薬師、もキーワードな気がするんだ。
「とにかく、みんながありそうって言ってる職業はあるねえって話ですね」
「職業!?」
「え、お前新職業に触れてるの!?」
「それになるのはお断りしましたぁ」
「忍者でござるかっ!!!!」
違うでござるよ。
これ以上は勘弁してくださいと黙秘を貫く俺に、黒豆さんは少しウキウキして、図書館に行ってみますと帰って行った。
クランメンバーも聞いちゃいけないけど聞きたいでそわそわしている。
「忍者でござろう!?」
「違います……」
「忍者っ、絶対忍者はあるっ!!」
俺もローレンガの貸本屋で探してみたんだけどね~。忍者見つかりませんなぁ。
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みんな大好き魔法剣!!




