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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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135/362

135.1位をねらえ!

 スタートの合図は華々しいファンファーレ。

「競馬の曲だぞこれ」

「馬と言うよりは競艇かな?」

「賭け事やってましたしね」


 そう、参加しないメンバーは賭けができるらしく、そこで的中させれば同じく宝珠が手に入る。人数が揃わなかったり、自信がない人たちへの措置だとか。

 ただ、1つしか賭けられず、1位から3位までを当てる、いわば三連単。参加パーティーが多ければそれだけ当てにくい。


 チャンネルへは、こちらも自動振り分けらしい。


『正直こういったものは運だからなぁ。わからないのに』

『宝珠は全チャンネルのタイム順らしいからな。ロジックと一緒なのは、マイナスだ』

『絶対何か仕掛けてくるだろうなぁ……氷系は俺が持ってるけど』

 とはジラフ。

『ただ、範囲はプレイヤーに当たったら失格になるからやれないかな』

『雷系バフ持ってりゃ、川に雷落として脱落者を増やすだろ?』

『そこは誰だって対策してくるところでござらぬか?』


 この会話、全力でオール漕ぎながら。

 それはもう、ものすごい勢いで鯉のぼりボートぶっ飛んでる。

『フロストダイスは?』

『あれ、ラック高くないとダメなんだ……それに人にはぶつけられないし、範囲がわからない』

 難しいもんですね。


『嫌がらせしていいの?』

 するならできるけども。


『セツナ、なんかできるのか?』

『やってこっちにヘイト来て対応できる?』

『普通に漕いでたらあそこの腕力チームに負けるからやっていいよ!』


 ソーダから許可が出たので、それでは失礼。


「【引き寄せ】」


 ロジックのボートが少し先を行っていたので、1番後ろの人のオールに照準を合わせていただき。

 ちょうど後ろへ漕ぎきったところだったらしく、すぽっと手からオールが飛び出し後方へ流れていった。

 あの大きさだと完全に引き寄せられないらしい。


『www なーいすー!』


 オールなくした子、ごめんな。


『すぐだとバレそうだな。もうちょっと、次のカーブあたりで、セツナもう一回。その前に前方6人、ブースト用意!』

 ブースト溜まったらしい。


 ブーストを使うと軽く水面に浮くレベルで漕ぎによる力が強くなった。先を行くボートにかなり近づく。


『セツナ、カーブ来る』


 どうせならバランス悪くなあれってことで、同じこちら側の後ろから2人目のオールをいただきます。

「【引き寄せ】」

 すぽっと抜けるオール。

 だが、抜けたはずなのにたぐり寄せてる??


『惜しい、【糸】で対策してる。あー、俺らもしておいた方がいいかもな」

『【糸】持ってます』

『拙者もあるでござる』

 同じ手は使えないってことか。


 魔力の糸を渡され、オールと自分の手を結ぶよう言われた。すごく細いが、とても丈夫な糸らしい。

 結ぶというか、ぺたりとくっつける。蜘蛛の糸っぽい。


 と、目の前が光る。

『あ、当たっちゃった』

 そして、左上に見えてるマップのうち、1つのボートが暗くなった。

 雷系魔法だ。ちなみにボートの数は20ある。バフがあったのでちょっと眩しい程度。


 人に当たると即失格か。

 怖い怖い。

 たぶん川へ雷を落とす気が、俺らの速度と合わなかったやつ。


『魔法、なかなか厳しいな』

『川が凍ったら私が一発かまして御神渡りみたいにして船転覆させるんだけど~』


 どうもロジックとの距離が縮まらない。

『ふぁあ~』

 突然、後ろの女の子が叫び声を上げて、ボートから落ちた。


『えええ、どうしたっ!?』

『オールが何かに引っかかって引っ張られちゃった~!!』

 よく見ると、進む先が時折キラリと光ってる。


『【蜘蛛の巣】だ』

「【ファイアーアロー】』

 案山子が前方に向かって打つ。ぽっ、と火の手が上がって何かが燃え落ちた。


『丸ごと引っかからなくてよかったなぁこれ……』

『だけどますます離されちゃったわよ~』

 川の流れに逆らい、進むのはやっぱり腕力だったらしい。

『ジラフ、川凍らせられない?』

『マスター無理言うなよ-。範囲になっちゃうから危ない。真っ直ぐあちらに【アイスアロー】飛ばしても、手前の川部分に落ちてそこが少し凍るくらいだろ』


『んーんじゃ俺ちょっとやってみる。ただ、こっちも被害でるかも』

『どちらにせよ、ロジックより先に行かないと、入賞出来ない気がするからやっちまえー』


 船員たちが、ゴーゴー言ってるので、俺は【持ち物】から革袋を取り出した。

「【氷付与】」

 作ってもらった触媒がふわりと舞った。

 西風のダガーが冷気を放つ。


『おっ、セツナ君。付与師になったんだ』

『付与師になりましたとは出てないけどね』

『それは付与持ち全員がそう』

「【ひと突き】」

 こう、少し斜め前方水面を狙って俺はダガーを真っ直ぐ繰り出す。

 本来は急所を狙う技なのだが、今回は川面を狙った。ダガーは届かずとも、強い付与の冷気が真っ直ぐそのまま川を凍らせる。氷はロジックのボートの船尾に到達し、そのまま真下の川が凍結した。

 流れる水を凍らせるのはとてもエネルギーのいることだ。

 これはほんの数秒しか持たない。

 ピロリに声をかけようと振り返ったとき、すでに彼女は飛び出していた。


「正拳パンチっ!!」

 ……スキルじゃないっぽい。単なる、腕力。

 だが、少し溶け始めていた氷は割れて、割れた氷が船尾を揺らし、そのままボートの下で大きく裂ける。

 ロジックのボートのバランスが崩れた。


「【投擲】」

 氷の上のピロリを、投網で半蔵門線が回収する。さっきの女の子は突然過ぎて反応できなかったそう。残念。


 うまいこと、片側が持ち上がるようになり、必死に体勢を整えようとしている。


「【風付与】、【突風】」


 ちょっとね。ちょこーっとその浮いている方の下辺りに風を吹き抜けさせてみた。


「ぎゃあああああ」

 叫び声が聞こえる。


『セツナナイスー! 抜けてとっとと行くぞ!!』


 ロジックはここでかなり時間をロスした。後続の船が来ないように、俺は後ろを向くと、再び氷を付与して後ろ側の川を凍らせた。一部だけどね。

『あ、それいいな。俺も凍らせておく』

 ジラフがこまめに【アイスアロー】を打つ。【フロストサークル】はそこに飛び込まれたら困る。

 上手くいくと氷塊が出来て、それがぷかぷかと後ろへ流れて行った。邪魔になればいいな。

『登竜門がもうすぐだ』

 ここを越えればゴールはすぐそこ。

 だが、眼前に広がる絶望。


『スキージャンプ場でござるか……?』

『これは、えー、私の腕の筋肉切れちゃう』

 傾斜角度いくつあるのが、とんでもない坂が結構な距離伸びていた。


『ターボしても途中で止まりそう……』

 せっかく離した後続に追いつかれそうだ。


『あ、セツナ君の氷剣で前凍らせて、火魔法でつるっとロケットするとかー?』

『噴射系の火魔法あるのか?』

『風魔法後ろに向かって打ったら? さっきの風剣みたいなのとか』

『MPもう切れたから属性剣切り替えできません。【MP譲渡】ある?』

『ないっ!!』


 残念。俺が出来るのは氷ですよ。


『……騎獣に後ろ押させましょう!』

 リボンさん改めマロンが騎獣石を取り出した。でるか? と思ったらでた。騎獣は使えるようだ。

 

『俺の氷、そんなに範囲広くないから、両側オールで漕げると思う』

「【ひと突き】」

 ボートの1番前まで移動させてもらって、前方へ繰り出すと、川が凍った。だが、あんまり持たなそう。なんかブルブル揺れてる。


『モンちゃん、押して~!』

 マロンの騎獣は狼タイプ。鼻先で船を押してくれてる。

『どっちかっていうと牽引する方がいいかも。セツナくん、ぎょろちゃんよろしく』

 何をさせるの、と思ったら、尻尾をピロリが掴んだ。

『ぎょろちゃんごめんねー! 尻尾痛くないかしらって、あつっ!! 足熱い……火魔法……』


 おおお、後ろ側こんな熱風来るのかよ!!

 【熱さ耐性】出ててよかった。


 他メンバーはオールで漕ぐ。ぎょろちゃんの牽引はピロリくらい腕力がないときついらしい。

 足を舳先(へさき)へ引っ掛けて、ぎょろちゃんのジェット噴射に耐えながら、前と後ろで引っ張って押してしてもらうと滑り出す。

 滑り出したらあとは速かった。むしろ、坂じゃなくてもこれ、早い。ダントツトップなら妨害ないからなおのことだ。


 ピロリへの回復が忙しそうだったけど。ぎょろちゃんの足下熱いんだな……。


 お陰様でとびうお座とカジキ座の宝珠をもらいました!

 副賞はローレンガ北の山のふもとの温泉入浴券。


ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


そんなわけでこどもの日企画でした。

節分とかは、先まで書いてる時に、はっ!! イベント!!

となったので無理やり突っ込むのに番外編にしましたが、なるべくこうやって本編に入れて行きたいですね〜


生活魔法、強し!!

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― 新着の感想 ―
まえ、ギョロちゃんがよその子を押して空高いところを飛んだ事があった筈だから、また鼻先とかで押してもらえばピロリは犠牲にならなかったのでは?w
船に風付与でキャビテーションとかではなかったか……
セツナ「ソーダ!アレを使うわ!」 ソーダ「ええ、良くってよ」 1位(トップ)を狙えって言うからつい……
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