128.なんでもありリレー
「俺、選手にならなくていいんじゃないですか? 確実に足を引っ張りますよ……」
「でも、他のチームが納得しないのよ~」
最初のウンディーネ、リリさんが、困った顔をして言う。
俺にやられてるからなぁ。
「まあ、リレーで負けてもすでに2競技勝ってるから、総合では勝ちだから大丈夫」
「うーん」
【ウォーターボール】のスクロールが欲しいんですよお~!
1つ負けたら商品のランク下がりそう。
水の中、ふわふわしてるから走りにくいしなぁ。
「まあ、そこは仕方ないわよ。前の2試合で圧勝したし、私たちはもう満足してるから」
とはルルさん。
いや、俺が困るんですってばー。
黄色チームきゃっきゃしてるけどさ~、他チームの視線は痛いです。
「さあ、行きましょうセツナ」
リリさんに促されて渋々出場って、アンカー渡されたし。もー。
そして、予想通り、ウンディーネたちの個体差はさほどない。だいたい同じくらいで水底に敷かれたトラックを走っている。
「あっ、今赤の子が魔法で妨害したわね」
「でも、緑の子、上手く避けてたわ」
「……妨害ありなんですか」
「そうよ、傷つけるような危険なものじゃなければ、多少はいいのよ」
「そうそう、小さな範囲なら問題ないわ」
「セツナは狙われるわね、気をつけて」
確実にやられるやつだよ。
走者は5人。第4走者が走り出した時点で、団子だ。ほとんどみんな差がない。
俺もバトンパスの位置に立った。
おう、お姉さんたちの圧がすごい。
「あなた、リリの申し出を断ったんですってね」
「私たちは伴侶を得れば、地上を自由に行き来できるのよ。伴侶を得ることは大切なことなの。ひどい子だわっ」
「いやー、俺には心に決めた人がいるので」
「もしかして、妖精の求婚を知らないの? 別に伴侶とはいえども、人間同士の結婚とは違うのに」
「一緒に旅をするだけよね」
「ただ、大切にしてくれないと、私たちはまた魂を失ってしまうけど」
「いやー、俺には心に決めた人がいるので」
「融通の利かない子ねっ!」
「ほんと、憎たらしい」
憎悪マシマシになっちゃった。
そして第4走者が迫る。うん、また団子だ。
さてー、やるかぁ~!
「セツナ! 頑張って!!」
「はーい! 【冷凍】」
お姉さんたちの足先を、ちょっと凍らせてもらいますよ。
「キャッ!」
「わっ!!」
「何っ!?」
走り出そうとして足が離れないと言う事態に、彼女たちは軽くパニックになる。
その間に俺は、ちょっとでも距離を稼ぎますよ~!!
と思ったら身体が横に吹っ飛んだ。
水の中なので、必死で腕をかいたら止まったが、魔法使われてる!
【冷凍】はそこまで強いものじゃないから、すぐ後ろを追いかけてきていた。
これは、やれることを山盛りやってしまえということかっ!
「キャッ! 熱い!!」
突然の顔面【沸騰】サービス。いや、すぐ周りの水で温くなると言うか、突っ込むときに温くなってるけど、それでも熱いだろう。妨害です。
「またっ!!」
また【冷凍】です。これ、凍結とかあったらもう少し長くなるんだろうな。まあでも、足が動かなくなって多少の妨害にはなってる。
緑と青が多少後ろの方に。だけど赤のお姉さんはしぶとい。
「絶対に、絶対にこの競技だけは勝ってやるんだからっ!!」
鬼気迫る表情でぴったり後ろをつけてくる。
魔法を使うと余計な動作が入るらしく、彼女はもう何もせずただひたすら走っている。
正解です。水の中だと俺の方が足遅い。
もうすぐゴールだ。ゴールテープが張ってある。
赤ハチマキのおねえさんが先を行く。
くそ、この手だけは使っちゃダメだと思ってたけど。
「【引き寄せ】」
リレー、バトンなんだよね。
俺の手元にすっと入る赤いバトン。それをぽいっと後ろへ放る。
見事ゴールしたのは赤チームからの黄色チーム。だが、赤チームはバトンがなくて無効になりました。
「い、いぇーい?」
隣でめちゃくちゃ怒ってるお姉さんと、水の中で胴上げされる俺。
地団駄踏んでる。たぶんさ、魔法使わなかったら俺普通に負けてるんだよね。正々堂々って大切だね!!!
表彰式が行われ、無事【ウォーターボール】のスクロールもらいました! やったー。
広げた途端習得終了。
「楽しかったわ、セツナ。また遊びに来て。私を伴侶としてくれてもいいのよ」
「いや、心に決めた人がいますので」
「頑固な人ね。妖精の伴侶はあなたたち人が思っているようなものじゃないのに。まあ、水辺なら呼べばどこへでも行ける。困ったことがあったら水に向かって私の名を呼んでちょうだい」
《クエスト:ウンディーネの大運動会 をクリアしました》
《ウンディーネリリの信頼を得ました。水辺なら彼女の力を借りることができます》
おお、お断りたくさんしたのになんかゲットしました。わーい?
帰りは湖から少し離れたらタウンハウスへGOのぽちっとが出来るようになったのでそのまますっと移動した。
ソーダたちもちょうど帰ってきていた。
「ウンディーネの運動会行ったんだって?」
「うん。【ウォーターボール】もらえたよ」
「ああ、参加賞だろ。よかったな」
「えっ!? 参加賞なの? 必死でやったのに」
「初期の派生魔法だぞ? そこまで難しくないよ。なに、勝ったのか?」
「一応3連勝してきた」
「すごいな」
案山子がテーブルに料理を並べ始めたので俺も参加だ。いないのは柚子だけ。
「和食結構作れるようになったよ~! チーズ屋のおばあちゃんサイコー!」
筑前煮に肉じゃが、ご飯のお供がたくさん。
「あれって、水切りで勝てたらその場で【ウォーターボール】もらえる?」
「いや、水切りになった時点で水底に引き込まれるルート確定だと思うよ。聞いたことない」
「出来レースなのか……」
「水の妖精相手に水辺で勝とうというのが無理でござるよ」
「伴侶にする人いるの?」
「ああ、水の妖精を連れ歩けるようになるんだって。俺もやってないからな、そのクエスト。ただ、妖精は1人1つと言われてる。2つ目を伴侶? 契約? できたやついないって。戦闘になるとその妖精の特殊魔法でサポートしてくれるらしい」
ただで戦力強化できるならちょっと惜しかったかも? いや、でも、俺の心にはアンジェリーナさんがいるからな。
「他にすでに契約妖精いると、水底コースらしい」
「【ウォーターボール】覚えるためには仕方ないのか」
「他にもあるらしいけど、1番早いのはそこだってさ」
まあ、無事にゲットできてよかったです。あの本のおかげだ。
ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。
誤字脱字報告も助かります。
小手先の技でなんとかクリアしました。




