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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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126/362

126.ウンディーネの湖

 ウンディーネが出る湖までやってきた。

 もう夕暮れで、湖面は静かだ。周囲に青い花が咲いていた。ネモフィラに似ている。いくつか採取しておく。採りすぎはいけないし、今日の目的は水魔法を得るにはここ! とあったから。


 しかし、ここまで来てなんだが、この後は完全なる無策だ。


 ウンディーネについては調べてきた。といっても本当にちょっとネットで検索した程度だ。綺麗な女性として描かれることが多く、物語では騎士と恋に落ちたりする。結婚すると魂を得られるともあった。同時に、罵られたりすると別れて帰らなくてはならないと。


 【ウォーターボール】覚えたいなぁ~。


 何かヒントはないかと、湖の畔をうろうろ回っているうちに、日が暮れた。周囲は木々に囲まれているが、湖を覆う物はなく、月明かりが湖面に反射してとても綺麗だった。

 そういえば、ここに来てからモンスターに会っていない。

 やはり何かが起こるように思える。


 と、ぱしゃりと水音がする。

 慌ててそちらを見ると、薄い白い服を着た女性が、湖面に立っていた。確実に、人外だ。


 バッチリ目があった。

 長いまつげは銀色で、瞳は深い青色。

 うわぁ~と思っていると、水面を滑って距離を一気に縮めてきた。


「珍しいわ」

「こんばんは」

 まずはご挨拶。

「こんばんは。珍しいわ、人間ね」

「人間ですね。貴方は水の妖精さんですか?」

「そうよ、私はウンディーネ。水の妖精。貴方は?」


 妖精とか妖怪相手に名前言うの怖くない? 警戒しちゃうのは俺だけだろうか?

 だが、嘘を吐くのもなんなので、素直に名乗る。

「セツナです。よろしく」

「よろしくね、セツナ。セツナはなんの用事があって来たの?」

「そうですね~、水魔法の権威が、水魔法を覚えるならこの湖が最高だよって言うので、興味深くやって参りました」

「あら、水魔法を覚えたいの?」

「覚えたいですね~」

「いいわよ、教えてあげるわよ?」

「うーん、お礼の品がないですね」

「別にいいのよ。貴方が私の伴侶となって魂を与えてくれれば」


「無理ですね~」


 水の上をすいすいと動きながら、笑って言っていたウンディーネがピタリと止まる。

「なぜ? 私のこと嫌い?」

「嫌いじゃないけど、好きな人が別にいるので。他のお礼はありませんか?」


 お礼と言うよりも対価に思える。

 人ならざるものと取引をするときは重々気をつけろと言うではないか。可愛い姿をしていても、その内はわからないと。

 これ、ほいほいOK出したらどうなったんだろうなぁ?


「なら勝負をしましょう。勝ったら水の魔法を教えてあげる」

「負けたら?」

「水底で一日遊びましょう」

「溺れちゃいますね」

「溺れさせないわよ。私は水の妖精よ」


 勝てるようになっているのかな?


「何で勝負しましょうか?」

「それは、これしかないでしょう?」

 ウンディーネは湖から上がると、足下の石を拾い上げた。


 30分で3つの石を探す。

 

 そう、水切り3本勝負です。


 くっ……水切りなんて、小さい頃やって以来だ。田舎のひぃじーちゃんちに行って、川でやった。流れがあるからなかなか思い通りにいかないんだこれが。

 だが、石を選ぶポイントは知っている。なるべく下の面が平たいやつを選ぶ。そして水面と平行に投げるのだ。


 石を選ぶところからが大切。

 30分と言われたのでしっかり集めたヤツを吟味した。なるべく水平なものをとじっくり選ぶ。

「準備はいい?」

「はい」

 選抜メンバー、ナンバー1、黒い石。ナンバー2白に灰色のぶちがある石。ナンバー3は綺麗な白のつるつるした石だ。


「ルールは知ってる?」

「より多く跳ねて距離を伸ばした方が勝ち、ですよね」

「そうよ、距離が大切よ」


 ウンディーネがそれじゃあお先にととても綺麗なフォームで石を投げた。

 うわぁ……伸びるなぁ。

 細かく跳ね出したら終わりの印。それでは、と俺の番だ。

 手首のスナップを利かせて!! いけぇー俺の黒石ちゃんっ!!


 ……結果及ばず。

 だが、2投目のぶちちゃんはウンディーネに勝つ。


「あら、やるわね。じゃあこれで勝負が付くわね」

 今まで以上の球速? 石速? に、びびる。何あの豪腕。折れそうな細腕でどんな力出してるの……。


 しかしここで負けるわけには行かない!

 俺はしっかり、魂を込めて、我ながら素晴らしいフォームで白石ちゃんに命運を託した。

 かなりいい感じ。

 最初はすーっと水面を飛んでいき、跳ねる。これも、上手く横に跳ねた。次への距離もある。

 最終着地地点は、ウンディーネの魔法か、湖面が光っている。あと少しで、越える! まだ細かく跳ね出したところだ。これは勝てる!!!


 と思ったら。


 今まで静かな水面がぐわりと揺れた。

 白石は揺れる湖面に吸い込まれる。

「へ?」

「あら、誰かが水底で暴れているわね」


 ぽちゃんと沈む白石ちゃん。


「あああああ……」

「運も実力のうちね、私の勝ちだわ、セツナ」

「今のは!」


 無効試合だろうと言葉を発するより早く、迫り来る湖に飲み込まれる。

「ぎゃあああああ」

「1日だけよ、遊びましょう、セツナ」


セツナ:

綺麗なお姉さんに湖に引きずり込まれるんだけどこれえええ!!


八海山:

どこかな?


セツナ:

ウンディーネさんが……


八海山:

ああ、……諦めて、水底運動会に参加しておいで。景品の中に【ウォーターボール】のスクロールがあるから、頑張れ!



 水底運動会!?


 どういうこと……。



 気付けば足首を掴まれている。そちらを見ればウンディーネさんと目があった。笑っているが、シチュエーション的にはかなり怖いぞぉ……。助けてぇー。




 湖は底なしかと思うほど深かった。そして、呼吸ができる。

 と思ったら、【水中呼吸】とやらが生えている。が、今はグレーで説明も見ることができない。

 本来ずっと呼吸できることなんてさすがに無理だけど、今はウンディーネの力で呼吸が可能になっているということか。

 水の中なので、視界が時折歪む。

「さあ、セツナ。こっちよ」

 言葉は普通に聞こえるようだ。


 移動も水圧は関係ないようで、地上と同じように歩くことが出来た。少しだけふんわり感はある。

 そして渡されるハチマキ。

 色は黄色だ。


「セツナと私は黄色チームね。全部で4つ。赤青緑黄色よ。勝てば、優勝賞品が得られるから、頑張りましょう」

 そんなわけで、水底運動会が始まる。

ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。

誤字脱字報告も助かります。


3つ目の石は、ウンディーネさん、ズルしました。


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― 新着の感想 ―
突発イベント感がいいですね。 システム的に無理とわかっててもわからせたくなるNPCっていますよね…
まあ、競技に魔法禁止のルールはありませんでしたしw このウィンディーネ人間大好きですね。 実は一晩遊んでいたら地上では100年時が進んでいたとかありません?w(浦島太郎)
このイベントもそうだけど、この小説の「ちゃんとゲームっぽい」ところが好きです。
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