121.ヴァージル親衛隊からのお願い
クランハウスにいたのはソーダだけでした。
「先日はスレへの降臨、ありがとうございます。無事、同志たちが討ち死にしました」
「や、ホントごめん……」
「何したのソーダ」
席を勧めてすぐ、アリンさんがゲン○ウポーズ取ってたよ。
「ヴァージル絆ルートの検証会だよ。でもさ、絆確立したのって、絶対あの隠しクエストだろ? スレの人たちみんな隠しじゃない方でクリアしてるからさ……」
「ああ……」
クエストの性質上、同じクエストは受けられなさそう。
「一応、このサーバー以外の同志は希望は捨てておりませんが」
「フレンドになってピンチ助けたらいけるんじゃね?」
「フレンド……」
「NPCとフレンドにほいほいなれるやつそういないからな?」
まあそうなのか。
アリンさんの眉間のしわがどんどん深くなっていく。
「結論、フレンドになるのも、あの謎の紙切れがポイントだろうって話にはなってるけど」
「ミュスルートで引く以外の方法がないか、検討中です」
まあ、よくわからないけど。頑張って。ミュスのところの、No.5だったから、3と4に期待。
「それで、今日お伺いしたのは、是非お取引がしたいと思いまして」
「取引?」
「今、このサーバーがメインでない同志たちも集まってきて、クランを作りました。まあ、メインが大切なのでこちらは資金稼ぎにたまにやってくる程度なのですが。セツナさん、お願いです。……ヴァージル様のスクリーンショットをご提供ください」
「ぇあ? あー! そゆことか」
「別に金は「1枚5万シェル! ベストショットならばもっと出します」
「乗ったっ!!」
「もしも、もしも出来るなら、動画投稿してくださいませ……投げ銭しますぅ」
「いやちょっとそれは、リアルマネーはちょっと」
「別にセツナの会社副業禁止じゃなかったろ? いいじゃん。儲かるよ」
「動画作るのめんどくさ……」
「めんどくさがらないでっ!!!」
これが言ってた強火かぁああ!!
「確定申告面倒くさくなるじゃん」
「めんどくさがらないでください……本業税理士なんでなんならわたくしがやりますぅ」
つよ職おるし……。
「Marchサーバーのヴァージルさん奪っちゃった罪滅ぼしに、ショートでもいいじゃん」
「ショートで全然構いませんっ!」
ソーダずっと横で笑ってる。
「簡単に動画投稿って言うけどさぁ」
「是非ご検討ください」
まあ、スクショの方は構わないんだが。ちょっと思わずとっちゃったやつあるしなぁ。
「スクショ、どんな風に渡します?」
「そうですね、掲示板はあまり見ないと聞きました。確かに、親衛隊スレにもネタバレがどうしても書いてありますので、定期的にわたくしがここで受け取り、ヴァージル様以外の情報を消す加工をして、わたくしが管理しているヴァージル様親衛隊サイトに乗せようと思います」
それじゃあ、と俺はスクショ取引を相手に持ちかけようとして、できなかった。
「あー、フレンドにならないとダメなのかこれ」
即フレンド申請来ました。受け付けて、再度スクショ取引。
先日の、貸本屋周辺を出歩かないと誓ったものをぽいっと渡した。
机に額打ち付けている。
ダメージ判定出てるよ。
「とぉ……とぉとい……っ」
泣いてる。ちょっと面白い。
「こんな間近で、しかも視線が完全にこちらを向いているなどと! っこれは、100万シェルの価値あり……ですがすみません、まだ私たちキャラ育てているところでそこまでお金がなくて」
「いや、100万はいらんのでさすがに」
「10万で」
「んーじゃあ、これもプレゼントするから合わせて10万で」
牛丼食べて米粒口元に付けてるやつをぽいっと。代わりに10万来た。
「はっ、はあああ!? え。ご飯食べてる。やだ、かわいすぎん? うそでしょ。何これっ。あ、ちょ、ログアウトはしたくない今はだめ」
慌てて深呼吸している。
それはーわかるー。
アンジェリーナさんの不意打ちでたまになるし~。
システムからのログアウト勧告きてるやつだ。
ソーダは笑いを押し殺しています。
失礼だぞ。
「はあ。すみません、取り乱しました」
「いえ、お疲れ様です」
胸に手を当てて、肩で息してらっしゃる。
「セツナ様、是非とも、是非とも今後もお取引をお願いしたい。シェルはもちろん、定期的にこれだけ近いスクリーンショットをいただけていたら、セツナ様をつけ回してヴァージル様を見ようとする、こらえきれない同志たちもきっと自重するに違いありません。これらの供給が断たれるということですから」
供給……。
「動画も是非ご検討を。ただ、セツナ様はかなり特殊なルートを引いてらっしゃるようですし、秘匿する情報もあるでしょうから、ソーダ様に確認してもらってからの方が良いと思います。ミュスルートのお話、わたくしもスレの方で拝見しましたが、とても興味深いものでした。ただ、このサーバーにキャラクターを作った後、同じようにミュスだけを狩って何日もというのが苦痛でしかなく諦めました。狂気の沙汰でございましたね」
え、突然のディス。
「同志が退屈をしのぐためにパーティーを組んで何人かでやっていたら、ミュスルートには入れなかったそうです。ソロで、も条件の1つなのかもしれませんね」
トムくんぴえんルート、もう、ミュスルートって呼ばれてるみたいです。
まあ、そう呼びたくなるのもわかる。
「本日は有意義なお取引ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします」
なんかビジネス。
「こちらこそ」
「今宵同志たちが沸き立つことでしょう。それでは失礼いたします」
にこやかに去って行くアリンさん。
所作がお嬢様なんだけど、すごいな、推しに対する愛。
……俺もあんななの?
ソーダに作り方を聞いて、ショート動画を作ってみた。
この間の牛丼食べているところ。
照れてたやつね。
基本なにか情報があるかもしれないから動画は取りながらやっていて、ソーダにぽいっとまとめて渡している。
この部分をショート化してみろと言われて、ツールとか説明されながらやってみた。
「ショート動画が高再生されるために大切なのは、テンプレートを作ることだよ。同じ形で作るのがいいんだ。よく流れてくるヤツ、だいたい一緒だろ? 最初の絵の感じ。人って習慣性に弱いから。だから、1つ目、作りやすい形にしておいた方がいいよ」
「別に、高再生狙ってないし」
まあ、とりま、タイトルは『今日のヴァージル•アスター』。
1週間で収益化の条件満たしました。
ヴァージル親衛隊こえええ。同じ動画何百回再生してんだよ! こわっ!!
アリンさんから、ショートじゃない方もやってって言われたけど、動画作ってたらほら、ログイン、ゲーム時間内で夜中になっちゃうからさ。本読むチャンス逃したくないからお断りした。
ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。
誤字脱字報告も助かります。
こーゆう人は書いてて楽しい。
あと、残念ながら(?)本人たちは腐りません。
ヴァージルは末っ子なのでにーちゃん気分です。
弟でキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!! みたいな。




