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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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12.作りたくても作れない家具屋

「セツナさんですね、おめでとうございます。これで見習い冒険者卒業です」

 そう言われると同時に、ステータスウィンドの名前の後ろにあった薄いグレーの文字の【見習い】が、【駆け出し】に変わる。


 さらに、布袋を渡された。


「こちらは街の衛生局からの謝料です。お渡しするよう頼まれていました。局員のミュス狩りに同行して活躍されたそうで、大変感謝してらっしゃいましたよ」

 おお、臨時収入。ボランティアのつもりだったから素直に嬉しい。

 3000シェル。本が6冊借りられる。


「冒険ギルドからも感謝を。セツナさんがいつもミュスを狩ってくださるので、アランブレのミュスはだいぶ減ってきています。またこれからもよろしくお願いしますね!」

「はい、喜んで!」

 あいつらは撲滅する。


「この先の貴方の未来に喜びが訪れますように。もし何をしたらよいのかお困りでしたら、神殿に行くのも良いかもしれませんね。神々は常に私たちを見てくれています。または、冒険ギルドの掲示板に依頼はたくさんありますから、それをこなしていくのも一つの道筋ですよ」


《チュートリアルが終わりました。今後の注意をお読みください》


 システムよりお達し。

 重量無制限解除やEPエンプティーポイントなんかのお知らせをいただく。

 

「いやー派手だったわぁ~」

「チュートリアルの後神殿行くの薦められたっけ?」

「さあ、覚えてない。調べるか」

「掲示板は言われた気がするわ」

「あ、拙者集会の時間でござる。これにてドロン!」

 ござ……半蔵門線はそう言って手を振ると人混みの中へ駆けていった。


「集会?」

「あいつも友だち多いからな。よくわからんけど」

 ござるが集まってそうだなと思いました。


「それじゃあ俺はそろそろアンジェリーナさんのところに行くから、失礼する。クランハウスの部屋は宿代わりに使わせてもらう。遠く行ってすぐ帰るのに便利そう」

「おう! 案山子と柚子がINしたらまた連絡するよ。顔合わせは一応しておこう」



 と、いうわけで。

 金を得た俺はまた会いに来ましたよ、アンジェリーナさぁ~ん!!


「あら、セツナくん。いらっしゃい」

「本を読みに来ました」

 さて、今日は何にしようかな~。

 ちょっと料理も面白そうだった。食べる側だけど。つまり、生産職に興味が湧いた。そういえば、木造の家についてあのおじさんにまた今度話をしようと言ったきりだったな。今度行ってみよう。木造住宅のこと軽く調べてから。完全なる無知でいくとがっかりされそうだ。

 本棚を端から読んでやると思い立ったとはいえ、それでもつい目に止まる物がいくつか。


『星月夜と旅の女神』

『街歩き~アランブレ東編~』

『街歩き~アランブレ西編~』


 この三冊を借りて読むことにした。

 旅の女神の話は、街から街へ道を行く旅人を守る女神の話だった。星と月が明るい夜は女神の加護が手厚いらしい。そんな星月夜に女神が出会った旅人たちを綴った、女神視点の短編が五話収録されていた。


 街歩き、はアランブレのおすすめ露店や隠れ名店などがいくつもあって、その中で家具屋も見つけた。これは楽しそう。他にも絨毯やカーテンなどの布屋。食器などが売っている陶器通りなど、地図に次々マーキングされていく。

 かなり賑やかになって面白い。

 基本北はアランブレの貴族が住む貴族街になっている。真っ直ぐ通った道の先にまた大きな門があるのだ。


 ちょうど良いからこのあと家具屋を見に行ってみようと思う。が、その前に。


「アンジェリーナさん、おすすめの家具屋さんとかってご存じですか?」

「あら、おうちを持ったの??」

「いいえ、友人のクランが家を買ったのですが、家具が全然揃えられないようで、リビングに置く大きなテーブルがなかなか見つからないそうです。八人掛けの大きなもので」

「あら、確かにそれだけの物になると一般的な平民の家で使うものではないからオーダーメイドや、大型家具店になるわね、西に家具店が集まる場所があるのよね。平民向けの、オーダーメイド家具店が確か、ここにあったわ」

 アンジェリーナが地図を広げてほっそりした美しい指先で地図の一点を示す。


「ありがとうございます。これから見に行ってみようと思います」

 ステータスの中の地図に、アンジェリーナが示した家具店が刻まれた。




 久しぶりの街歩きだ。

 ユーザーの数が多くなると、こうやって歩いているユーザーがある程度見えなくなるそうだ。ごった返してわけがわからなくなるのを防ぐためだという。


 城門から一本南北に走る大通りは、人だらけ。宿屋は門近くが多く、露店は左右に細かく通る道沿いにあった。

 そして中央にそれは大きな噴水。

 その東側に広場があるのだが、ここがユーザー向け露店広場だった。

 所狭しと木で作られた露店がひしめいている。そちらも気になるが、今はアンジェリーナさんが教えてくれた家具店へゴーだ。

 

 家具屋通りは、いろいろな家具の展示があったが、なんというか、お値段がすごい。これだけあれば買えたのでは? と思ったが、確かに八人掛けは無さそうに見える。

 四人掛けか、六人掛けが多い。

 どれもこれもショウウィンドウから見えている。さらにその上で店先に見本家具を並べていた。

 これ、公共道路にはみ出してるやつ。


 ようやく目的地に着くと、その店は、店頭に何もなかった。

 んんん〜隠れた名店?

 しかしそれ以前に人の気配がまったくしないのだ。ミュス狩りを繰り返したことにより、【気配察知】というスキルが、生えている。


「すみませーん?」

 お店は開いている。

 が、中から返事はない。

 さすがに店として構えているのだから、入って怒られることはないと思いたいが、どうだろう?


「すみません、家具を見たくて……」

 怒られたときの言い訳を考えながら、スルッと中へ侵入。

 すると、奥からわりと若い、背の高い男性が現れた。


「あ、すみません。家具のオーダーを請け負ってもらえるかもしれないと、教えてもらってきたんですけど」

「請け負っても、材料がなくて無理なんだよ」

「材料が、ですか。木材不足?」

「木材はあるよ、材木屋にね。だけどうちにはないんだよ。諦めて帰ってくれ!」

 との言葉により強制退去。


 ぇー!

 このゲーム強制退去多くね?

 そしてそれって、クエストの予感。

 こういった街クエが星の数ほどあるという。ソーダが俺をこのゲームに勧誘していたとき聞いている。

 クエストならば何かしら次へ繋がるヒントが――。

「あら、あんた、マルスの店に用かい? ダメダメ、今マルスは材木屋から切られてるんだよ。家具を作りたくても作れないのさ」


 そこのところもう少し詳しくお願いしたい。


  

ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。


とりまアンジェリーナさんに聞くコマンドを発動するセツナくんであった。

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