111.ネコババの末路
八海山のバフが飛び交う。
あったけぇ〜!
「【一身集中】」
ソーダは盾を構える。
「よく見れば可愛い子たちね、よかったら私と遊ばない?」
「アンジェリーナさん以外の女性お断りなので」
「セツナ殿即答www」
いやまじいらんので。
「拳で遊びましょ」
ピロリはそう言いながら剣構えてるけどな。以前のものと違う、なんだか薄紫にぼんやりと光っている双剣。
「私の魅力がわからないお子様たちばかりなのね、残念だわ」
おトヨの方は四つ足で、敷いてあった布団の向こう側を移動している。真っ白な尻尾が、2本。
『完全猫又なのじゃ』
『なんかこう考えると、本って大切ね』
お互い最初の一手を探りながら、睨み合う。
一応八海山以外も、攻撃が通るか見ていくらしい。
『半蔵、ヘイト奪いよろしく』
『了解でござる〜』
俺のヘイト取りの石投げは賑やかし。
最初に攻撃を始めたのは柚子だ。【フロストサークル】はこのように狭い場所だと、相手の行動を制限できるし、少しでも凍るのならば足止めできて有効だ。
しかし、魔法陣が展開された瞬間、おトヨの方が動く。
腕をブンブンと振って、斬撃を繰り出した。
にゃんこちゃんによる切り裂き攻撃だ!
目の前の布団が畳ごとスパッと切れる。
そして向かうは柚子のもと。
俺は攻撃モーションが来た瞬間柚子の背中を叩いてそのまま柚子を抱える。
『キャストキャンセル感謝なのじゃ〜。ただ、せっちゃんのパンチ結構効く……』
『あー! 獅子座の宝珠のせいだ!』
外しておくか?
『【ダークストライク】』
八海山ではなく、案山子。
発動までが早いものに変更したらしい。知力ガッツリあるから、敵の数がなければこちらも使い勝手がいいと判断したようだ。ついでに言えば、【ダークストライク】が未知の可能性を秘めていると、積極的に使っていきたいとのこと。
もちろんダメージはそれなり。
「【ダークストライク】」
八海山のも結構効いている。幽霊とは違って、そこまで差はないようだった。
『にゃんこだし、猫又と言えど獣じゃ、火魔法の方が効くかもしれんぞ〜?』
『うう、やっぱそうかなッ! 育てたかったけど』
『【一身集中】と【挑発】の効きが悪い。ヘイト取ったところに行くかもしれないから気をつけろよ〜』
爪攻撃と、噛みつき攻撃が何度か続く。
噛みつきはソーダが間に入ってしっかり防いで、まったく不安がない。
爪の切り裂きは、俺が柚子を抱えることにした。筋力上がったから抱えるのがかなり楽。
『せっちゃん力持ちなのじゃ〜』
『柚子さんこれ以上太ったら無理ですから』
『デリカシーなし男!! 太るシステムあったら泣くのじゃ……』
『私も泣いちゃう。案山子のご飯美味しいし』
何度か攻防を繰り返したところで、おトヨの方が声を上げる。
「おや? まさかそんなところにいるとは」
彼女の視線の先には、半蔵門線。
『選ばれたのははんちゃんでした??』
『拙者、にゃんパラクラウドファンディングをすることは吝かでござらんが、猫耳には興味ないでござる〜』
「出でよ、我が眷属」
「わっっ!?」
突然、半蔵門線の足元に黒い煙が。
そして、彼の手に……日本刀。
『ふぁぁぁ!! 呪われたでござるぅぅ!!!』
『あっおま!! 村正拾ってたのかっ!!』
『そういえば、いつの間にか消えていたな』
『半蔵っち!! やらかしッ!!』
『す、すまんでござる……出来心がぁ』
ドロップなら自動でもらえるのに、落ちていたからつい、拾っちゃったそうです。あとで全ドロップ精算の時に出そうと思ってたら、呪われましたなやつ。
今回の呪いは、ターゲットにただひたすら攻撃する、だそうだ。
そして選ばれたのは、俺ぇぇぇ!!! 弱いところから攻撃するなんて、卑怯なり!
『セツナっち、足早くするから頑張って~』
『半蔵門線にデバフ掛けるか……』
『半ちゃんの足下怪しくするのじゃ』
『仲間が容赦ないでござる~』
レベルもスキルもステータスも何もかもが上の半蔵門線から逃げるのは大変っ!!
『先行クランメーンバーつよぉぉお』
ぶんっと振られた村正をギリギリ避ける。
『半ちゃんは地味に見えてつおつおなのじゃよ……早いし、パワーは無くても【投擲】のレベルがエグいのじゃ』
『手裏剣のコソ練してるの知ってるッ』
『これは、こっち片付けたら呪い解ける感じかな?』
『それか、新しいスキルを試す時が来たか……使ったら妖刀村正が単なる刀になるけどいいか? 最悪壊れる』
『くぅ……それはちょっと惜しいでござる……』
呪われてても会話はできるので、半蔵門線が次の攻撃を教えてはくれるが、早いから追いつけない俺。結局逃げ惑うしかなかった。助かったのは、剣の種類が日本刀に分類されているらしい村正、日本刀で使える【スキル】をまったく持っていないこと。いつもは分類短剣での戦いだったから。
ちなみに残ってたステータスポイントを、耐久力ちょい振りして、あと全部敏捷に突っ込んだ。逃げ切れない。耐久に振ったのは、一撃死を防ぐため。さっき剣かすったらHPギリギリになったよ。さすがに八海山の負担がキツい。
『セツナ殿ぉ~【隠密歩行】また出るでござる。気をつけて。拙者つおい!!』
【隠密歩行】は戦闘中、一瞬相手の視界から消え、攻撃を繰り出す準備をする、【隠密】派生のスキルだそうで、とても厄介です。
そういや、戦闘中、ふととんでもない場所から攻撃仕掛けてた。
俺もそのスキル出したいので頑張ります。
味方だったら頼もしいが、敵に回ると厄介を体験できる、そう、それが呪い。
「我が牡牛神よ、聖なるその気で悪しき呪いを消し去りたまえ! 【呪物浄化】」
まんまそんな技が!
『ひやああああでござるぅ……』
今度は半蔵門線の足下に白い円陣が。
『拙者……メイクアップしそうな勢い~!』
確かに魔法少女になりそうではある。
握っている黒いもやをまとっている村正が、ブルブルと小刻みに震え出す。
「貴様っ!! させん!!」
八海山へかみつき攻撃に向かうおトヨの方を、ソーダが間に入って受け止めた。その後ろからピロリの攻撃。
『ううん、素早さ高いから、やっぱりソーダに攻撃したときに殴るのがベストね~』
「ぎゃあああ」
そして、村正からも断末魔風に、きぃぃぃんと音がした。
『おお! 村正改になったでござるよ!!! 呪いも解けたでござる。ご迷惑をおかけしたでござる~』
『壊れなくてよかった』
それじゃあ後はこの化け猫さんだ。
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