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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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11.殺風景なクランハウス

 クランハウスは、とても、殺風景だった。


「物置?」

「失礼な!! まだ手が回っていないだけだ!」

「拙者たちつい、攻略に勤しんでしまっているでござるよ」

「生産やってるのも案山子と柚子くらいですからね」

 ごりごりの攻略部隊だったようだ。


「セツナのストレージ用のタンスはちゃんと手に入れてるんだよ。で、俺ら以外のメンバーは案山子と、柚子なんだけど、そいつらの荷物でクランのストレージは埋まってる。このクランストレージは、買うクランハウスによって大きさが変わる感じだ。あとは個人ストレージ。これは、規定の大きさのタンスを買って設置したらいいんだ」


 クランハウスの中は、二階建てだ。一階がクランの共通ルーム。二階が個人ルーム。そして不思議なことにクランのメンバー数だけ部屋が増える方式。不自然な長さの廊下が続き、扉が向かい合わせに並んでいるという。

 クランハウスの大きさによって変わるのが、クラン用ストレージの大きさと、部屋の大きさだそう。


「わりと初期に買ったから、そんな大きな家じゃないんだよなぁ。あ、蟹身はクラン用ストレージに入れてもらっていいよ。そっちはほぼ食材。案山子シェフによって料理になり振る舞われる。ログイン時間が合ったときにな」

「クランハウス手に入れたがったのも、生産施設借りるのが面倒になってキッチン欲しくなった案山子のためだしね~。おかげでEP常に満タンだけど」

「EP?」

 俺の質問に、みんなが、あ、と声を上げる。


「チュートリアル終わらせてないからそこもまだ出てきてないんだなぁ。エンプティーポイントっていって、ようは……動けば腹が減る。腹が減りすぎるとHPがゴリゴリ減る。そのままにしていると、やがては餓死してゲート行き」

 腹も減るのか。


「初心者返上しない方が生きやすい気がしてきた」

 飯代もったいない……。


「ええー、このゲーム料理すごく人気よ。満たされるし美味しいやつは美味しいし。おかげでリアルで痩せられたわ」

「それは危ないゲームなのでは?」

「違う違う。デザート食べようとか、もう一品欲しいなってときも、まあ寝てラングドラシルで美味しい物食べたらいいや。ってなれるのよ。余計な一口を食べなくなった」

「うちの案山子殿はとてもレベルの高い料理人でござる」

 それはちょっと楽しみかな。


「のわりにテーブルもない……」

「うん……いやー家具も街でNPCから買うか、それかユーザーから買うかなんだけど、金はあっても物がなくてさ。セツナも見つけたら教えてくれよ。金ならある」

「金ならあるんですよ、ほんと」

 

 とまあそんなわけで、二階に部屋を一つもらった。タンスはソーダが設置してくれた。

 その前に、共有のクランストレージに蟹身をごそっと移動する。

 

「案山子に連絡しておくわ! そうそう、こうやって食材入れておけばそれで料理してくれた分EP回復用に持って行くのはオッケーよ。ダメなやつは案山子も自分のストレージに入れるようにしているし。共有ストレージはギブアンドテイクなんだから」

 それは、お世話になりたいが、蟹身以外食材がございません。


 二階の部屋はこれはまた単なる部屋だった。

 シングルベッドとタンスを入れたらあとは通路。そのシングルベッドすらもまだない。


「まあ、基本はログアウト用だなぁ。このクランハウスには、なんのアイテムもなしに飛べるようになってる。ただし、次始めるのはまたこのクランハウスからになるから、攻略中でよそにいるとき使うのはおすすめしないけどな。ステータスウィンドウのクランからクランハウス帰還っていうコマンドがあるよ」

 クランハウスもアランブレにあるから、うん、宿はここ。決定。でもベッドは入れたいなぁ。家具か。こんどそういった店も覗いてみよう。

 ミュス狩りの報酬で買えるかな……?


「やっぱりこのリビングで立って話してるの異様だな」

「そうですね……早急にリビングだけでも整えたい……テーブルが欲しい」

「案山子殿のご飯も立ち食いでござるしね」

 改めて自分たちの現状を見つめ直すことになっていた。


「街で家具屋とか見つけたら聞いてみるよ。予算は?」

 アンジェリーナさんとの話題の一つにしよ~っと。


「予算かぁ……相場、よくわからないんだよなあ。テーブルと、椅子が七脚。いや、八? リビングは広めだから大きいテーブルも置けるよな。うーん。全部で100万シェルでそろったら御の字かなぁ」


 ……天文学的数字。


 本が二千冊借りられる!


「そういえばセツナは生産系は何始めるつもりだ? 何やるにしてもなるべくある程度は絞った方がいいぞ。そういうスレッドもあるが」

「情報はなるべく見ない。アンジェリーナさん情報があったら即教えてくれ」

 俺の口から突如出てきた人名にみんなが首を傾げる。


「街中にある貸本屋の女神だ。あまりの美しさに目が潰れる」

「本読めないでござるね」

「彼女の貸本屋に通ってるから、基本この街から動く気はない」


 きっぱりと言い切ると、みんながちょっと微妙な笑顔を浮かべている。


「まあ、ゲームの楽しみ方は人それぞれだから止めないけど……本は図書館開放ミッション受けたらただで読めるぞ?」

「アンジェリーナさんの本を借りるからいい! 1冊全部500シェル!」

「今までいくらつぎ込んでるんだよ」

「んー、18冊かな?」

「9000シェルかぁ。この短期間で……」



「んで、生産系かぁ……今のところ気が向かないかな」

「拙者たちも一応あるとは言えそこまで熱心にやってないでござる。セツナ殿のことは言えないでござるよ」

「つい戦闘攻略しちゃうわよね~でもそろそろメインストーリー詰まりだしたからね」

「謎解きめいたこともあるし、サブストーリーも色々やらないと」

「イベントいくつか踏んでいるはずだが、放置しているな。金も集まってきたし、そういったことにも手を広げる時期かもしれん」

 八海山のまとめに、みんなが頷いていた。

 

 俺はとりあえず冒険ギルドを目指す。

「なぜついてくる?」

「いや、何か起きそう」

「正規ルートじゃないから面白いことが起こりそうよね!」

 


 そして言われた通りになった。



 花火連打! 連打連打!! パンパン打ち鳴らされるそれに、周りが何事かと反応する。受付のお姉さんは、すごいですねと手を叩き、おめでとうと唱和する。

「すごい恥ずかしいんだが……」

「レベルアップ時の花火切ってないんだね?」

「蟹倒したから普通より経験値入ってるからなぁ」

 結局、Lv3だったのが15になっていた。

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おうちって整えたくなるよね。

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