109.お皿フリスビー
リアル時間22時が、ゲーム内午前0時。
丑三つ刻まで待てない我々は、やってきたのだ。
やはりスキルから八海山だろうと、皿は渡してある。
雰囲気が駄目なタイプは、すすり泣く声とか、井戸のそばで皿を数えるか細い声とかの方がダメージがでかいらしく、尻尾、また丸まっておりますよ……。
「いちまぁ~い、にま~い」
「こんばんは、キクさん」
微妙に震えた声の八海山。頑張れ! 俺も結構この雰囲気ダメっ!
「誰……」
「昨日皿を間違えた者です。それで、こちらの皿ではどうでしょう?」
「……いっしょ、いっしょだわ!! 揃った。1枚、2枚、……全部ある!」
「それはよかった」
「おめでとうございます」
「おめでとーッ!」
「よかったのじゃ~」
みんなで褒めそやす。
これ、ぱああってなるやつだろ、と思っていたんですよ。
皿を抱きしめぷるぷると肩をふるわせるキク。
だが、顔を上げた瞬間、八海山がざっと下がって距離を取った。
「これで、私は悪くない、よね?」
半透けの真っ白な顔。その目はうつろに虚空を睨んでいた。
「私は悪くない……お皿なんて、いつかは割れるものよ。なのに、あんなに、責め立て、追い立て……私は、わたしは……」
おや、キクの様子が……じゃない、これ、あかんやつだー!!!
『きっと戦闘入るぞ~気をつけて。とどめは八海山の【ダークストライク】な!』
『あいよ~』
『闇落ちじゃぁ~』
美少年の闇落ちにも、柚子、わくわくしてなかった?
「わだしぃぃぃぃぃぃ」
びゅんっと飛んできた皿! 慌てて避けたら後ろのあばら屋の柱、すぱっと切れた。
『おい、あの皿凶器度合いがやべえ!』
『半蔵はたたき落とせるか試してみてくれ!』
「【一身集中】!!」
この皿攻撃、ヘイト取ったら俺に全部来るのか。避けきれるかなぁ。
綺麗なフォームで投げてたもんな。リアル物質の皿を、透け感80%のキクがつかめるのがまた謎。
思いっきり綺麗に飛んでいった。それはまるでフリスビーやブーメランのようで……ん?
『皿返ってくるかも! 後ろ気をつけろ-!!』
言って振り返ると、まんまとやってきているフリスビー皿!
「【投擲】」
慌てて石投げると、軌道がずれはしたが、やがてはキクの手元に戻って行った。
『我々は武器を与えてしまったのか』
『専用武器を完成させてしまった感でござるね』
『フリスビーをとりあえず落として行くかぁ……』
『発射速度速い魔法で行こうかなッ』
『アイスアロー1を打つのじゃ』
アロー系は1~10まで威力や詠唱スピードが色々とある。1は威力は弱いが、宣言する間もないくらいすぐ発動するとのこと。
『【投擲】が押し負ける皿……石ぶつけられて、割れない皿……』
『セツナwww そこは考えたら負け』
『骨董市のひびを継いだ皿とかで良かったんじゃないの~?』
『金継ぎ皿とか高くて買えない』
『金継ぎするほどの皿っていうことでござるね』
「ひどいひどい、たかがさらがわれたていどで、なんで! どうして!!」
フリスビー3枚。
「【ファイアアロー】」
「【アイスアロー】」
「【ダークストライク】」
ぱりん、と音がする。
「ぎゃあああああああああ」
選ばれたのは、【ダークストライク】でした。
『結局そこかいっ!』
『八海山がんばんなさい』
『命中はちょっと、自信がない』
『私たちはやることがなくなったのじゃ』
『柚子っちさ、【フロストサークル】を周りに展開して、そこ通ったら凍らせたら? 【ダークストライク】複数打てないし、1つずつ始末するにしても、飛んでくる脅威を減らせる』
『採用じゃ!』
「【フロストサークル】」
『【メテオストライク】」
右と左がひんやりとあつあつになっております。
メテオストライクは賑やかしだったけど。効かないのよー。
でもそうしたら、フリスビーの軌道がはっきりした。同時になげてくるが、1つ以外は【投擲】で軌道を反らす。
あ、そうだ。
思い出して途中雑貨屋で買ったものを投げつけてみた。
「ギャァァァ!!」
あ、効いてるなぁ。だけど、とどめにはならん模様。まあ、パラパラだし、塩。
『なにそれ?』
『幽霊には塩だってあったから……岩塩じゃないとだめだったみたい。皿の軌道は変わらん』
おイワさんのときは忘れてましたよ……。幽霊には塩!!!
まあ、今回は八海山がメインだし。軽くばらまいておく。
そうして、たくさんあった皿もとうとう、残すところ1枚である。妙に真新しいそれは、たぶん、八海山が渡した、新しい分。
「おのれぇ、おのれぇぇ!!」
握力で割れるんじゃないかと思うほど、皿を握りしめているキク。
一番あっさり終わりそうだったのに、どこでどう間違った!?
円盤投げの選手かと思うような、気合いとフォームで皿を放つキク。
真っ直ぐ八海山へ向かうが、さすがの気迫に思わず避ける。後ろの廃屋がとうとう崩れた。ぶんぶんぶんと音をさせながら返ってくる皿へ、八海山は構える。
「【ダークストライク】」
青白い光を帯びた皿と、【ダークストライク】の白い光がぶつかる。
「ぎやああああああああ」
思わず皿の方を見ていたが、後ろでキクが顔を押さえてのたうち回っていた。
「退魔師めがぁぁ!! 口惜しや、口惜しや……おトヨの方っ!!!」
ああああ、と言いながら、キクの姿は霧散した。
《ローレンガの三大幽霊の一人、キクを星へ還しました 3/3》
《ローレンガの三大幽霊をすべて倒しました》
『おお……生えた』
『何、何々!?』
八海山のつぶやきにクランメンバーが湧く。
『【ダークストライク】から、ツリーが伸びた。あと、個人アナウンスで、退魔師の資格を得ましたってあった』
『すげー!! 【ダークストライク】、キーになる魔法なんだな』
『無属性ってのは、何色にでも染まります、ってことなのかなッ!』
『忍者色に染まって欲しいでござる。忍法火遁の術とか言いたいでござる』
そのために時々魔法使いに転職して魔法のスキルツリーは伸ばしているらしいです。涙ぐましい努力だ。
退魔師についてどのくらい情報開示するかという話を、真夜中の井戸の側でしている。
場所変えない? あ、いや、もうこのまま行った方がいいのか?
『えー、ところで。次どうする?』
『次?』
俺の言葉にみんな頭の上にクエスチョンマークを出す。
さっきキクが言ってたんだけど、聞き逃してるのか?
『たぶん、ボスであるおトヨの方どうする?』
『ボス?』
『にゃんパラを崩壊させることになるかもしれないけれど――』
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退魔師きました。新役職!!




