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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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107/362

107.幽霊たちを成仏させよ!

『ただまあ、一理あるかなと思う。やってみよう』


 キリッとわんこ牧師が花婿と、イワに対面する。


「我が牡牛神(タウルス)よ、聖なる気配を纏ったこの魂の叫び、受けてみよ! 【ダークストライク】」


 【ダークストライク】の、モーションは、薄いグレーの丸い玉が野球ボールのように敵に向かう。知力の高さによって、このとき現れる玉の数が違うのだ。

 八海山の【ダークストライク】は光輝く玉だった。ホーリーライトの時のような、眩い光というよりは、仄かに光る白い玉。それがいくつも花婿……いや、その肩にあるイワへ向かう。


「ぎゃああああ」

『ぎゃああああ』


 声が重なって聞こえた。

 花婿は頭を押さえ、手をブルブルと震わせて刀を落とした。


『おのれぇ……貴様まさか、退魔の力をぉぉ』

「恨む気持ちはわかるが、それでももう、復讐は果たしただろう! 星へ還れ! 【ダークストライク】」

 八海山のダメ押し【ダークストライク】。

 イワは、顔にもろに食らい、ぐるぐるとのたうち回りながら、やがて、消えた。


《ローレンガの三大幽霊の一人、イワを星へ還しました 1/3》


『おおぅ!? 正解じゃん!!』

 これはワールドでなくパーティーメンバーへ告げられた模様。


『いや……大正解だよ、セツナくん……【ダークストライク】が聖魔法のツリーに組み込まれた』

『おおお!! やったじゃん。えー、これ聖と闇だけかな、火とか氷とかは別なんだろうか』

『ここ一通り終わったら検証スレにぶっ込んでやればよいのじゃ。検証大好きッ子たちが解明してくれるじゃろうて』

 俺の【ダークストライク】ちゃんも何かに変化するのだろうか?


『うわー、これチュートリアルしないと損じゃん』

『魔法ギルドに行けば金払って教えてもらえるじゃろ』

『そうだけどさー。もー』


 仕事押しつけた後輩のせいですね。


 ちなみに、イワさんからドロップ入りませんでした。

 三大幽霊だもんな。三人倒して……いや、星へ還してからなのかもしれない。


『あんまり時間もないし、次行こうか』

『次が一番怖いかもしれん……』

『次々と後妻を呪い殺したキングオブ幽霊なのじゃ』

『呪い殺すのがキングとは言えないでござるよ。三大怨霊は別にいるでござる』


 累ヶ淵は、淵、つまり川べりだ。アキヒトさんに教えてもらった心霊スポットへぞろぞろと移動。するとなんだ、修羅場の予感。

 男女がもつれ合って今にも川に落ちそうだ。


 だっと走り出した半蔵門線、間一髪で2人を川べりから引き戻す。

「危ないでござるよ!」

「うるさい!! こんな浮気男、川に突き落としてやる!」

「何を言うのだ、私はこんなにもお前に一途だろうさ」

「だけど毎晩毎晩、誰かが、誰かが、言う……あんたは、あんた……お前、不義理な、そうだ。不義理な男」


 あれあれ、女性の方の様子がおかしい。目が、イっちゃってる!!


「おい、どうした!? 大丈夫か?」

「おいじゃない、私の、私の名前は……私は」

「ハルだろ? お前の名はハルだ」

「違う!!」


 下を向いていた女性が目を見開き睨み上げる。


「わたしのなは、カサネ、ダ」


 ずずずずずと、地鳴り。

 男の方はその形相にぺたりと尻餅をつく。


『あれ、これ』

『もしやでござる』


『現在進行形だねッ!?』


 つまりまだ累ヶ淵終わっておりませーん!!!


『わぁ~どうする八海山!』

『どうするの八海山?』

『八海山殿ゴーでござるー!!』

『いけいけはっちゃん!』

『八海山の、ちょっといいとこ見てみたいッ!!』


 パーティーチャットが八海山をけしかけている。


『かさねってさ、お、をつけると収まり悪いよね。あれって江戸時代の話じゃないの? お岩とかお菊とか、お、つけて呼ぶじゃん? それか、お、つけるときにだけルイって呼ぶのかな?』

『この状況でそんなこと考えてるセツナがおかしいwww』


 気になるじゃん! ウェブの神様召喚!! すぐ調べられるのは助かる。

 カサネじゃなくて名前はやっぱりルイだったみたいだ。江戸時代下総の国のできごと。

 前に亡くなった姉とカサネて、ルイではなくカサネと呼ばれるようになったという。

 へーって感じのお話でした。


 俺がそんなことをしている間に、八海山は2人の側まで移動していた。

 バフめっちゃ自分に掛けてるけどね。


「あなたはカサネさんのことをご存じなのですか?」

「し、知らん!! それに、カサネではなく、ハルだ!!」

「本当にご存じないのですか?」

「知らないはずがなかろう、私はこやつの最初の妻だ! 顔が悪いからと、この男は私を川に沈めたのだ」


「えーひどぉい!!」

「じゃあ最初から結婚するなでござる」

「美醜で人を判断したらダメッ!」


 ガヤがすごい頑張る。


「だそうですけど」

「知らぬ!! そんな女知らぬぞっ!」

「結婚の履歴ってわかりますよね。調べればすぐ真偽がつきます」

 八海山何したいんだろうな。ハルさんONカサネさんも戸惑ってるのか動きかねていた。それか、何かスイッチ踏むまでこの状態なのだろうか?


「嘘だった場合こちらのカサネさんの論が通りますから、打ち首獄門ですか?」

「う、打ち首!? い、いや、確かにカサネは私の妻だった。だが、ある日行方をくらましたのだ。俺は知らん! それより、俺の妻たちが次々川に身を投げたのは、もしやお前のしわざか!? ふざけるなっ!! ハルを返せ!!」


 その言葉にぎろりとハルが男を睨んだ。

「ふざけているのはお前だ。妻が死んだら次の妻を娶ればいいと、次々女を嫁に迎えて、この節操なしがっ!」


『あれ、ちょっと普通の修羅場みたいになってきたんだけど』

『想像してたんと違うでござる』

『やだー、それでも旦那を愛してるってやつー?』


『俺がさっきウェブ検索で簡単に見てきた累ヶ淵と違う……』

 貸本屋で読んだやつとも違う。もっとドロドロしてたよ。


「カサネさん……命を落としたことは大変残念でした。ですが、この女性に罪はありませんよね? どうか、解放してあげてはもらえませんか?」

「でも、だって……」


 ここで最高のわんこスマイル。


「この男にはしっかり罪を償わせます。行方不明になったということは、ご遺体が見つかっていないということですよね? 今、どこで眠ってらっしゃるか、教えてはいただけませんか?」


 八海山に諭され、カサネはハルの身体で川を指した。

「この街の人々とは良い関係を築いていますので、兵士にお願いして探します。そして、この男を捕まえてもらいましょう」


 ハルはやがて涙を流し、崩れ落ちた。

 そこに残ったのは透けた、カサネだ。


「よろしくお願いします」


「やだ、アイプチして~、お化粧したら全然かわいくなれるわよ~」

 ピロリの言葉にちょっと微笑んで、彼女はふわりと宙に浮き、空へ登る。


「あなた、腕のいい退魔師ね……」

 キラリと星が光った。


『ぱぁぁぁぁが来たのじゃー!』

『浄化の方だねッ!』


《ローレンガの三大幽霊の一人、カサネを星へ還しました 2/3》


 お皿探しが始まる。

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残るはお皿です!!

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― 新着の感想 ―
ネゴシエーター八海山!
まあ確かに累ヶ淵は後妻呪い殺すくらいなら旦那の方殺れよってツッコミ入れたくなるわなw
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 お皿探し、字面だけだと何にも関係なく見える 不思議
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