107.幽霊たちを成仏させよ!
『ただまあ、一理あるかなと思う。やってみよう』
キリッとわんこ牧師が花婿と、イワに対面する。
「我が牡牛神よ、聖なる気配を纏ったこの魂の叫び、受けてみよ! 【ダークストライク】」
【ダークストライク】の、モーションは、薄いグレーの丸い玉が野球ボールのように敵に向かう。知力の高さによって、このとき現れる玉の数が違うのだ。
八海山の【ダークストライク】は光輝く玉だった。ホーリーライトの時のような、眩い光というよりは、仄かに光る白い玉。それがいくつも花婿……いや、その肩にあるイワへ向かう。
「ぎゃああああ」
『ぎゃああああ』
声が重なって聞こえた。
花婿は頭を押さえ、手をブルブルと震わせて刀を落とした。
『おのれぇ……貴様まさか、退魔の力をぉぉ』
「恨む気持ちはわかるが、それでももう、復讐は果たしただろう! 星へ還れ! 【ダークストライク】」
八海山のダメ押し【ダークストライク】。
イワは、顔にもろに食らい、ぐるぐるとのたうち回りながら、やがて、消えた。
《ローレンガの三大幽霊の一人、イワを星へ還しました 1/3》
『おおぅ!? 正解じゃん!!』
これはワールドでなくパーティーメンバーへ告げられた模様。
『いや……大正解だよ、セツナくん……【ダークストライク】が聖魔法のツリーに組み込まれた』
『おおお!! やったじゃん。えー、これ聖と闇だけかな、火とか氷とかは別なんだろうか』
『ここ一通り終わったら検証スレにぶっ込んでやればよいのじゃ。検証大好きッ子たちが解明してくれるじゃろうて』
俺の【ダークストライク】ちゃんも何かに変化するのだろうか?
『うわー、これチュートリアルしないと損じゃん』
『魔法ギルドに行けば金払って教えてもらえるじゃろ』
『そうだけどさー。もー』
仕事押しつけた後輩のせいですね。
ちなみに、イワさんからドロップ入りませんでした。
三大幽霊だもんな。三人倒して……いや、星へ還してからなのかもしれない。
『あんまり時間もないし、次行こうか』
『次が一番怖いかもしれん……』
『次々と後妻を呪い殺したキングオブ幽霊なのじゃ』
『呪い殺すのがキングとは言えないでござるよ。三大怨霊は別にいるでござる』
累ヶ淵は、淵、つまり川べりだ。アキヒトさんに教えてもらった心霊スポットへぞろぞろと移動。するとなんだ、修羅場の予感。
男女がもつれ合って今にも川に落ちそうだ。
だっと走り出した半蔵門線、間一髪で2人を川べりから引き戻す。
「危ないでござるよ!」
「うるさい!! こんな浮気男、川に突き落としてやる!」
「何を言うのだ、私はこんなにもお前に一途だろうさ」
「だけど毎晩毎晩、誰かが、誰かが、言う……あんたは、あんた……お前、不義理な、そうだ。不義理な男」
あれあれ、女性の方の様子がおかしい。目が、イっちゃってる!!
「おい、どうした!? 大丈夫か?」
「おいじゃない、私の、私の名前は……私は」
「ハルだろ? お前の名はハルだ」
「違う!!」
下を向いていた女性が目を見開き睨み上げる。
「わたしのなは、カサネ、ダ」
ずずずずずと、地鳴り。
男の方はその形相にぺたりと尻餅をつく。
『あれ、これ』
『もしやでござる』
『現在進行形だねッ!?』
つまりまだ累ヶ淵終わっておりませーん!!!
『わぁ~どうする八海山!』
『どうするの八海山?』
『八海山殿ゴーでござるー!!』
『いけいけはっちゃん!』
『八海山の、ちょっといいとこ見てみたいッ!!』
パーティーチャットが八海山をけしかけている。
『かさねってさ、お、をつけると収まり悪いよね。あれって江戸時代の話じゃないの? お岩とかお菊とか、お、つけて呼ぶじゃん? それか、お、つけるときにだけルイって呼ぶのかな?』
『この状況でそんなこと考えてるセツナがおかしいwww』
気になるじゃん! ウェブの神様召喚!! すぐ調べられるのは助かる。
カサネじゃなくて名前はやっぱりルイだったみたいだ。江戸時代下総の国のできごと。
前に亡くなった姉とカサネて、ルイではなくカサネと呼ばれるようになったという。
へーって感じのお話でした。
俺がそんなことをしている間に、八海山は2人の側まで移動していた。
バフめっちゃ自分に掛けてるけどね。
「あなたはカサネさんのことをご存じなのですか?」
「し、知らん!! それに、カサネではなく、ハルだ!!」
「本当にご存じないのですか?」
「知らないはずがなかろう、私はこやつの最初の妻だ! 顔が悪いからと、この男は私を川に沈めたのだ」
「えーひどぉい!!」
「じゃあ最初から結婚するなでござる」
「美醜で人を判断したらダメッ!」
ガヤがすごい頑張る。
「だそうですけど」
「知らぬ!! そんな女知らぬぞっ!」
「結婚の履歴ってわかりますよね。調べればすぐ真偽がつきます」
八海山何したいんだろうな。ハルさんONカサネさんも戸惑ってるのか動きかねていた。それか、何かスイッチ踏むまでこの状態なのだろうか?
「嘘だった場合こちらのカサネさんの論が通りますから、打ち首獄門ですか?」
「う、打ち首!? い、いや、確かにカサネは私の妻だった。だが、ある日行方をくらましたのだ。俺は知らん! それより、俺の妻たちが次々川に身を投げたのは、もしやお前のしわざか!? ふざけるなっ!! ハルを返せ!!」
その言葉にぎろりとハルが男を睨んだ。
「ふざけているのはお前だ。妻が死んだら次の妻を娶ればいいと、次々女を嫁に迎えて、この節操なしがっ!」
『あれ、ちょっと普通の修羅場みたいになってきたんだけど』
『想像してたんと違うでござる』
『やだー、それでも旦那を愛してるってやつー?』
『俺がさっきウェブ検索で簡単に見てきた累ヶ淵と違う……』
貸本屋で読んだやつとも違う。もっとドロドロしてたよ。
「カサネさん……命を落としたことは大変残念でした。ですが、この女性に罪はありませんよね? どうか、解放してあげてはもらえませんか?」
「でも、だって……」
ここで最高のわんこスマイル。
「この男にはしっかり罪を償わせます。行方不明になったということは、ご遺体が見つかっていないということですよね? 今、どこで眠ってらっしゃるか、教えてはいただけませんか?」
八海山に諭され、カサネはハルの身体で川を指した。
「この街の人々とは良い関係を築いていますので、兵士にお願いして探します。そして、この男を捕まえてもらいましょう」
ハルはやがて涙を流し、崩れ落ちた。
そこに残ったのは透けた、カサネだ。
「よろしくお願いします」
「やだ、アイプチして~、お化粧したら全然かわいくなれるわよ~」
ピロリの言葉にちょっと微笑んで、彼女はふわりと宙に浮き、空へ登る。
「あなた、腕のいい退魔師ね……」
キラリと星が光った。
『ぱぁぁぁぁが来たのじゃー!』
『浄化の方だねッ!』
《ローレンガの三大幽霊の一人、カサネを星へ還しました 2/3》
お皿探しが始まる。
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