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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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106/362

106.三大幽霊さんたち

「これで代わりになりますか?」


 ソーダは1枚の皿を彼女の前に差し出した。

 どこにでもありそうな白い皿だった。


「……これは」

 もちろん幽霊のキクの手で皿を取ることはできない。


 え、まさか、足りない分これで賄えちゃう系!?


 と思ったがさすがに無理でした。

「この皿とは違う……」


 そしてしくしくと泣きながら、皿を数え、やがて消えた。


『これは、成仏した?』

『してないでしょう。そっくりか、または似てる皿を持ってこいってことよね』

『ということは、同じような皿を作っているところがあるでござるね。それを探すのがクエスト』

『とりま渡したりするのははっちゃんの方がいいじゃろ』

『ローレンガで起こってるクエストだから、ローレンガの食器屋さんかなッ!』

 ただ、この真夜中に店が開いてるわけがない。

 なので、皿さがしは一旦置いておいて、次のスポットへ。


『お岩さんが突然目の前に出てきたら失神するかも……』

『3日間のログイン不可になるやつよ』

 心身に過剰な負荷がかかったので、(本来ならそんなことはあるはずないからお前の身体がおかしいんだろう)病院で診てもらってね? という措置らしい。


 やがて、聞いた話の場所が近くなると、何やら騒がしくなる。


 真夜中のことである。

 真夜中なのに、人がたくさんいた。たくさんの幽霊だ。

 バッと八海山を確認すると、割と平気そう?

 尻尾も元気。


『幽霊が来るとわかっていればそこまで問題はない』

 雰囲気に弱いタイプか!

 まあ確かに井戸の周り怖かったもんなぁ。出るぞ出るぞって感じで。


 近づくと、だんだん幽霊たちの言葉が聞こえてくる。

「めでたやめでたや」

「なんと綺麗な嫁さんだろう」

「前妻は病で倒れたとか」

「男と逃げたと聞いた」

「病で酷いご面相になったとかで、狂ったと」

「狂ってどこかへ駆けて行ったと聞いた」


 囁く幽霊たちの声がはっきりと聞こえる。


「花嫁を待たせて婿殿はどこへ?」

「花婿はまだ来ないのか?」

 ざわつく幽霊の間を通り、玄関から上がって、開かれた座敷の側に、いつの間にかたどり着いていた。


 土足で入っちゃった。


 座敷には、白無垢姿の小柄な可愛らしい女性が座っていたが、その横の花婿の席が空いたままだった。

 舅と思しき男がなんだかんだと花嫁に話しかけている。

 と、ドタドタと板の間を行く足音が近づいてきた。


「おお、婿殿だ、婿殿がきたぞ」

 そして襖がガラリと開く。

 喜色とともに振り返る花嫁、だが、その場の全員が悲鳴を上げることとなる。


 目を血走らせ、額から首筋から汗をダラダラとかいた悪鬼の形相の花婿。その手には日本刀。


『ぎゃー!』

『こわー!!!』

『日本刀でござるっ!? 小太刀、小太刀こいっ!!』


 その場の幽霊たちは婿の、刀とその顔に怯え驚く。

 だが、俺たちは違う。

 目が爛れ、腫れた、おイワさんが男の右肩に憑いている。


「なぜここにイワがいるのじゃ!!」

 振りかぶった刀が花嫁を切り裂く。

 白無垢が赤く染まった。

 返す刀で舅もひと突きにされていた。


「乱心じゃ!」

「花婿殿が!!」

「逃げろ!!」


 蜘蛛の子を散らすように、幽霊たちはその場から消え失せる。


 残るは俺たちだ。

『八海山動ける〜?』

『まあ、大丈夫だ。つまり、モンスターだ』

 なんか自分に言い聞かせてらっしゃる。


「この恨み晴らさでおくべきか」


『おー名言いただきました〜』

 八海山とソーダたちの温度差よ。

 

『投擲は効かないだろうなぁ』

『聖水はあるでござるよー』

『これさ、八海山が使える魔法で倒すんじゃないの?』

 俺の疑問にみんなもそう言えばと一瞬止まる。


 そこへ花婿が飛びかかってくる。

「【一身集中】」

 とりあえず攻撃が他所へ行かないようにソーダがヘイトを己に向ける。

 刀を盾で弾き飛ばした。


『あ、まず。フィアー5秒』


 ソーダが花婿から攻撃を食らい、恐慌状態に陥った。


「【投擲】」

 すかさず半蔵門線が石を投げる。

 が、その石は花婿を通り抜けソーダの盾に当たった。


『実体なしでござー……拙者の存在終了のお知らせ』

『でも刀当たったよね?』

 てことで俺が試しに石を投げる。刀を狙って。


 ガッと音がして刀を振り上げたままの花婿の視線がこちらに向く。


『刀は実体。つまり、妖刀正宗っ!!』

『村正でござろう……欲しい』


 今は畳の部屋。祝言をして客人を招き入れられるほどには広いが、それでも場所に限りがある。逃げるのにも限界が。

 ということで。


「こっちでござるよ【投擲】」

「俺にも構って【投擲】」

「フィアー解けた~【挑発】」


 三人で適度な距離からヘイト集めしてました。


 その間に魔法使いたちは会議中。

『聖職者で攻撃魔法かあ……ホーリーライトならあるが、基本は悪魔、アンデッド系なんだよな』

『マミーちゃんにばりばり効くやつじゃね!』

『やってみるのが一番だよッ! 何事も挑戦挑戦ッ!』


「我がおうし神(タウルス)よ、悲しき身に浄化の光を! 【ホーリーライト】」

 左手で本を開き、右手を花婿、へ向ける。すると、本が光り出し、宙に光の玉が現れる。

 花婿はその光から身を隠すように後退った。


 光は急に飛び出し、花婿に、妖刀へ当たる。


「ぎゃあああああ」

 ダメージは受けているようだ。

 しかし、頭を振りながら今度は八海山を睨み付けた。

 右肩に乗ってるおイワさんの顔よぉ……トラウマになっちゃう。怖い。


『微妙、かしらね』

『蓄積ダメージはあるかもしれないけど、もっとこう、ぱぁぁぁってなるようなのとか、ないんじゃろか?』

『ぱぁああ、か』


「我がおうし神(タウルス)よ、聖なる領域を現せ! 【サンクチュアリ】」

 花婿の足下に突然現れた文様。そこからまぶしい光が溢れ出す。


「ぐあああああ」

 だが【サンクチュアリ】はそこまで範囲が広くなく、苦しみながらも花婿は後ろに下がった。


『決定打に欠けるのう』

『他に攻撃魔法は?』

『攻撃はないんだよなぁ……』


 基本は癒やしたり、状態回復を行うのが聖職者だ。悪魔、アンデッド用の【ホーリーライト】くらいしかない。


 と、先日の狩りを思い出す。


『【ダークストライク】は? あれ、闇属性の人は闇魔法のツリーにあったんでしょ? 聖属性と対だし、聖属性の【ダークストライク】とか』

『名前は闇よりだけじゃが~』

 ダークって、隠されたとか秘匿する的な意味もあると思うんだよなぁ〜。


『今のところツリーは単独だけどな……』

『八海山の呪文の、『おうし神(タウルス)よ』ってところが聖属性の呪文なんでしょ? そこに【ダークストライク】混ぜってみるとか』


『いや、アレはオリジナル』

『八海山のRPでしかない』


 まじかっっ!!

 

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 刀に投石当たるって命中率いいですね
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