105.定食屋で漏れ聞いた
「今日は何食べる?」
「うーん」
どれもこれも美味しそうなんだよ。
「唐揚げ定食で!」
やっぱり食べてないもの食べたい。
「あいよ!」
相変わらず威勢がいい。
そして今日も混んでいる。
「アキヒトから聞いたぜ、肝試しするんだってな」
どんな、どんな話になってるんだ。
「いや~、新しい街での新しい発見に出会えるかなぁと」
「まあ、ほどほどにしておけよ、本気で出るって話さ」
スケさんがにやりと笑う。
そして唐揚げ定食。めちゃくちゃ旨い。からあげーじゅーしーだし周りはざくってしてるし、最高! 定食だから付け合わせがあるんだけど、俺、白和え大好きなんだよねー!
最高、白和え。うまっ。味噌汁は合わせだしだった。豆腐とネギだ。うまーい。
と、突然耳に入ってくる近くの席の会話。
「そういえば、お屋敷の領主様が倒れたらしいぞ」
「聞いた聞いた。毎晩うなされてるって話だ」
「本妻ないがしろにして妾とうつつ抜かしてるからだろう」
「あの領主様は自業自得だ。街を治める才能はあっても、あっちがひどい有様さ」
お子様に聞かせられない話じゃん。
というか、こんな風に人の話が耳に入ってくるの珍しい。
珍しいってことは、なんかあるー。
フラグなんか踏んだかな?
そんなことを考えている間も、隣の会話は続く。
「そういや、お屋敷の庭大変なことになってるらしいぜ」
「ああ、それも聞いた」
「知り合いの庭師が行くの嫌がってるな」
「どいつもこいつも目が怖いって。剪定してるのを監視されてるようだって話だぜ」
「全部あのお妾さんが可愛がって集めてるって話だよな」
「毎日大量の餌が用意されるってよ」
「1匹2匹は俺だって可愛いと思うけどさ、10とかまとまり出すとちょっと怖いよな」
「ああ、猫ってやつは、あの目が怖い」
ふぁああ、猫又だぁあああ!!!
なんかあったなぁ、猫又案件。妾食い殺して乗っ取ってるやつ。
「おトヨの方だろ? すげえべっぴんさんだって聞くけど、毎日猫と日がな過ごしているらしいじゃねえか。正妻様は気が気じゃねえだろうなぁ」
幽霊だけじゃなくて化け猫騒動も始まるのかこれ。ちょっと今は幽霊の方に集中したいから、心に留めておく。同時進行とか大変だし。
だいたい聞き終わったらしく、彼らの話がすっと遠のいた。
よし、それじゃああとはアランブレに戻って、ログアウトまで狩りをすることにしよう。 ソーダたちも図書館を追い出されて、どこか狩りに行ってるらしい。レベル上げと資金調達に忙しい毎日だ。
さてさてやってきましたローレンガ!
図書館で、退魔師について司書に聞くと本を1冊渡されたそうだ。
『たぶんフラグ踏まないとダメなんだと思う。俺らはセツナとあの本読んだだろ? だからそこで退魔師について知っている判定になって、図書館で本を得られた』
図書館で新しい職業を探すのに、手当たり次第聞いてみている人たちもいたという。だが、手がかりを得ていない段階でそれをしても、わかりかねますと返され終わっていたらしい。
半蔵門線は、忍者聞いたってよ。
『幽霊についてもいくつかあったよ。だけど、ゲームの中でも本を読むことになるとは思わなかったなあ』
みんなが笑う。まあ、それはそう。俺もアンジェリーナさんがいなかったらここまで本読んでないからね! もう150冊を越えてるんだよな。実は。200冊でまた何かあるかちょっと楽しみ。
『俺の方も事前に教えてもらった幽霊の話を読んだけど、同時に、店主から化け猫って話が出てきてさ。化け猫系の本もいくつか読んだんだよね。それでそのあとスケさんところの定食屋に行ったら、ローレンガの領主の屋敷が猫だらけって話を漏れ聞いた。あんまりNPCのちょっとした話は耳に飛び込んでくることないから、なんかあるかなって』
『ローレンガの屋敷の猫って、にゃんにゃんパラダイスだよな?』
にゃっ?
『猫好きの楽園って話よね』
『猫に名前つけてるやついたッ! 見分けがついてきたってッ!』
『にゃんにゃんパラダイスなら拙者もチラ見しに行ったでござるよ。猫好きにはたまらん空間でござるな、あれ』
『オスの三毛がいるって話じゃよ! 庭全体に散らばってるから見つけたらラッキーなのじゃ』
にゃんにゃんパラダイス……。
『その楽園崩壊させたら恨まれそうだ……』
『崩壊させるようなネタがあるのか?』
『うーん。ただ、幽霊と同時進行きついから、お触りするならまた後でかな?』
『図書館で色々調べるの楽しかったし、今度からもう少し利用していきたいな』
『フラグ踏んでないと本出てこないのが困りものだけどな。蔵書多すぎて俺ら手分けしても目的のものを探すとか無理そう』
ああ、図書館にはそんなデメリットもあるのか。
『それじゃあ行こうか、八海山どれからがいい?」
『えっ』
『お前に一番関係がありそうだからな』
ソーダがにやりと笑った。
八海山の尻尾、股の間に入っちゃってるじゃん!
『嫌なら別に無理に行かなくても……』
『……新しい職には興味があるんだ』
まあそれなら行きましょうか。
一番穏便そうな、キクさんところから行くことになった。
今ログインして真夜中。丑三つ時まであと少し。
『きゃーっ! 雰囲気出て、お化け屋敷来た感じ~』
ピロリは好き系らしい。他の面子も平気そうだ。
つまり、びびってるのは俺と八海山! うん、俺……。わっ! って驚かされるの苦手なんだよ~。ゾンビも苦手。
アキヒトに教えてもらった古井戸が見えてきた。
寂れた家の庭にある。ローレンガは空き家が多いようだ。
そしてどこからか聞こえてくる何かを数えるか細い声。
「いちまぁ~い、にま~い」
『きたきたきたぁ!!』
『お約束よね~!』
井戸の上には木で蓋がされている。その横で、着物姿の女性が涙を流しながら皿を手にとっていた。
『八海山中心に行かないといけないと思うが……無理そうなので、俺が行こうか』
ピロリの後ろで気配消している八海山。俺も、案山子を盾にしております。
「こんばんは、何かお探しですか?」
「……誰?」
「通りすがりの来訪者です」
「……お皿が、お皿が足りないのよ」
「お皿ですか……」
彼女の手元には数枚の皿。
「いくつ足りないんですか?」
「……割ったのは1枚よ」
キクさん透けてらっしゃるー!
「ふむ、ちょうど皿があるんですけど、これで代わりになりますか?」
ソーダお前っ!?
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にゃんにゃんパラダイス!!!
私も行きたい!!!




