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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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10/361

10.美味しくできました!

 今回ソーダに誘われた理由の一つでもある。

 半年経ったので、新規参入者にはリアル時間で1カ月【ビギナーズラック】という称号が付くのだ。これは、運が上がり、ランダムで得られる物のレア率が上がるというものなのだが、パーティーメンバーにも適用される。


『いいか、カニだったらセツナは距離をとってなんとか攻撃を加えろ!』

 無茶を言う。武器ナイフだぞ?


『カニ爪は私がしのぐわ!』

『腕力でもげよ』

『あんたのその本、爪の間に挟んでくれるならやってもいいけどぉ!?』

 ピロリと八海山は軽口をたたき合っていた。


『セツナは攻撃一撃でも入れられたら結構な経験値入るから! 死に物狂いで行け! リザレクションはある!』

『任せてくれ、セツナ君! リザレクションは大の得意だ!』

 それってどうなのよ。


 やがて、池の中から大きな――茹でカニが現れた。

『すでに食べられる状態……』

『ドロップのカニ足、美味しいわよ♡』


 ソーダはいわゆるタンクという役職。一番前に出て叫ぶ。

「【一身集中】!」

 敵の注意を引きつけ、他の皆に攻撃が向かわないようにするスキルだ。


 そこへ八海山が本を開いて呪文を唱えてる。

「我が魚神(ピスキス)よ、友にその強き守りを与えたまへ」

 ソーダの身体がふんわりと緑色に光った。

 バフは緑、デバフはオレンジだそうだ。


 と、他で釣りをしていたパーティーがかけてくる。

「アライアンスくれ! 俺らも手伝うぜ!」

 みんな戦闘態勢万全のようだ。

 が、

「いや、俺たちで倒せるからアライアンスはしないよ~」

「はっ!? 甥若苦茹蟹(おいしくゆでがに)はみんなで倒すべきだろ!? どうせドロップ多いんだしさあ。だいたいHP激高だから、戦闘長引かれるとこっちは困るんだけど!? 釣りの邪魔だぞ! 大人数で手早く終わらせるのが周りへの配慮だろうがよ!」


「この後五分以上続いたらアライアンスするよ~」

 相手はなんか怒ってるがソーダは余裕だ。


『てことだから、とっとと終わらせよ』

『サー! イエッサー!』


「拙者カニ殿とは相性悪いでござる……【投擲】」

 ござ……もとい、半蔵門線が何かを投げると、大爆発が起こって小さい方の爪がもげた。


「ちょっと半ちゃん!? 美味しくカニ爪グラタンにするんだから、被害は最小限!」

 ピロリが叫んでいる。カニ爪グラタン……誰か料理しているのか。

 料理などは生産施設などを借りて生み出す系スキルだ。


 しかし、投擲か。ナイフで近づくのは絶望的だと思っていたが、【投擲】ならミュスを始末するにあたって、石を投げているうちに生えて来ている。

 ちなみにみんながスキル名を叫ぶのは、パーティーメンバーに自分の使用スキルを教えるため、だそうだ。効果を打ち消すスキルを使うことを防ぐためだ。

 ソロなら必要の無い所作である。


「【投擲】」

 池の中から拾った石をぶつけてみる。

 一応赤いダメージの星エフェクトが出ていたのでいくつかはわからないがダメージとしては通った模様。そして石が弾け散る。投擲で投げた物は無に帰すのだ。

 ならば、さっき池の中で拾ったガラクタを投げて行くか。


「これからずっと投擲してるから気にしないでくれ」

「ヘイトもそっち向かなそうなダメージだからいいぞ」

 カニの爪を盾で受けながらソーダが言う。

 長靴でダメージが一応あったのは面白かった。


「そろそろ行くわよ~【一刀両断】!」

 飛び上がったピロリがソーダの盾に飛び乗ると、タイミング良くソーダが盾をさらに上に押し出した。ピロリはくるりとカニの目玉の間に飛び乗ると、大剣を真っ直ぐ突き刺す。

 ズババババ、と音がして、甲羅が真っ二つに割れた。


《エリアボス甥若苦茹蟹(おいしくゆでがに)を討伐しました》


「わあい。今夜は蟹料理よ~」

 ピロリが喜んでいる。


「ランカーかよ。チッ」

 態度の悪いプレイヤーだな。いや、もらえると思った経験値が入ってこないからか?

 さらに彼らは顔色を変えた。

「はっ!? 蟹身、全然落ちてないんだけど、何なん? どんなチート使ってんの?」

 彼の言葉に周りの人間もざわめき出す。

「ランカーがチート使いとか、通報案件じゃねえか! おい、スクショ取れ!」


 ん???


「どういうこと?」

 俺がソーダに聞くと、ソーダも不思議そうに首を振る。

甥若苦茹蟹(おいしくゆでがに)はドロップアイテムの多いモンスターなんだ。蟹身以外の、甲羅とか足は防具になるんだけど、それは基本分配。割り切れないときはランダム分配。お前の方にも行ってるだろ?」

 【持ち物】の中を覗くと確かにある。


「だけど、蟹身はかなり重い上に所持限界の一枠99個軽く越えてくるから、だいたい討伐したやつら以外ももらってくもんなんだよね」

 99個……?


「俺、572個持ってるけど?」

 ぼそりとつぶやいたつもりだったが、辺りのプレイヤーには聞こえていたらしく、複数の目がこちらに向いた。


「チート使いはそいつか!」

「チートってどうやって使うんだ?」

 使える物ならアンジェリカさんの好感度を上げたい。

「……あ、わかったかもしれないでござる。セツナ殿、チュートリアル終わったって言ってたでござるよね?」

 ござるは忘れないござる氏。


「これでチュートリアルは終わりですって言われたな」

「その後、冒険ギルド行ってないでござるね?」

「行ってないね」

「初心者チュートリアル中の持ち物所持数制限無限の時期続いてるでござるよ」

「あー! そーゆうことね。お前www まだチュートリアル終わってねーよ!」

 んん? と思ってナビゲーションをオンに……オンに出来るところあるし、終わってないな。


「ナビゲーション残ってる……」

 街の方へ伸びてる。


「やったわぁ~しばらく蟹パーティーよお!!」

 ピロリと八海山がハイタッチしていた。


 その後はぐぬぬぬっとなってる彼らにバイバイして、また歩いて帰路に着く。

 蟹身は、態度が悪い! というパーティーチャット満場一致であげないことにした。それで嫌がらせされても、反対にこちらが録画とってるから平気よ、とピロリがのたまった。


『私可愛いから~変なのにまとわりつかれることが多いの~。自衛自衛』

『中身おっさんなのにな』

 八海山の突っ込みに回し蹴りを喰らわせてる。

『中の人の話は厳禁!』

 おっさんなのか……。ちょっときついから記憶から消すことにする。


『それにしても蟹パーティー嬉しいわね。セツナくん、ギルドに行く前にクランハウス寄った方がよくない? ストレージあげてさ、そこに詰めておかないとギルドでチュートリアル終わらせた途端重量限界で動けなくなるわよ』

『自分の倉庫でもいいけど、倉庫も限りあるからね。せっかくだからクランのストレージ空いてるし。あと、料理スキルまだないでしょう? 美味しく料理するなら案山子に任せた方がいいし』

 ということでクランハウスにお邪魔することになった。

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


私もカニ爪グラタン食べたいです。

あけましておめでとうございます!

今年も何かしら毎日更新しますのでよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
中身はおっさんな女性と中身はお姉さんな男性な感じの2人と出会った事あったな…
これ想定されてない挙動じゃね?w
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