10.美味しくできました!
今回ソーダに誘われた理由の一つでもある。
半年経ったので、新規参入者にはリアル時間で1カ月【ビギナーズラック】という称号が付くのだ。これは、運が上がり、ランダムで得られる物のレア率が上がるというものなのだが、パーティーメンバーにも適用される。
『いいか、カニだったらセツナは距離をとってなんとか攻撃を加えろ!』
無茶を言う。武器ナイフだぞ?
『カニ爪は私がしのぐわ!』
『腕力でもげよ』
『あんたのその本、爪の間に挟んでくれるならやってもいいけどぉ!?』
ピロリと八海山は軽口をたたき合っていた。
『セツナは攻撃一撃でも入れられたら結構な経験値入るから! 死に物狂いで行け! リザレクションはある!』
『任せてくれ、セツナ君! リザレクションは大の得意だ!』
それってどうなのよ。
やがて、池の中から大きな――茹でカニが現れた。
『すでに食べられる状態……』
『ドロップのカニ足、美味しいわよ♡』
ソーダはいわゆるタンクという役職。一番前に出て叫ぶ。
「【一身集中】!」
敵の注意を引きつけ、他の皆に攻撃が向かわないようにするスキルだ。
そこへ八海山が本を開いて呪文を唱えてる。
「我が魚神よ、友にその強き守りを与えたまへ」
ソーダの身体がふんわりと緑色に光った。
バフは緑、デバフはオレンジだそうだ。
と、他で釣りをしていたパーティーがかけてくる。
「アライアンスくれ! 俺らも手伝うぜ!」
みんな戦闘態勢万全のようだ。
が、
「いや、俺たちで倒せるからアライアンスはしないよ~」
「はっ!? 甥若苦茹蟹はみんなで倒すべきだろ!? どうせドロップ多いんだしさあ。だいたいHP激高だから、戦闘長引かれるとこっちは困るんだけど!? 釣りの邪魔だぞ! 大人数で手早く終わらせるのが周りへの配慮だろうがよ!」
「この後五分以上続いたらアライアンスするよ~」
相手はなんか怒ってるがソーダは余裕だ。
『てことだから、とっとと終わらせよ』
『サー! イエッサー!』
「拙者カニ殿とは相性悪いでござる……【投擲】」
ござ……もとい、半蔵門線が何かを投げると、大爆発が起こって小さい方の爪がもげた。
「ちょっと半ちゃん!? 美味しくカニ爪グラタンにするんだから、被害は最小限!」
ピロリが叫んでいる。カニ爪グラタン……誰か料理しているのか。
料理などは生産施設などを借りて生み出す系スキルだ。
しかし、投擲か。ナイフで近づくのは絶望的だと思っていたが、【投擲】ならミュスを始末するにあたって、石を投げているうちに生えて来ている。
ちなみにみんながスキル名を叫ぶのは、パーティーメンバーに自分の使用スキルを教えるため、だそうだ。効果を打ち消すスキルを使うことを防ぐためだ。
ソロなら必要の無い所作である。
「【投擲】」
池の中から拾った石をぶつけてみる。
一応赤いダメージの星エフェクトが出ていたのでいくつかはわからないがダメージとしては通った模様。そして石が弾け散る。投擲で投げた物は無に帰すのだ。
ならば、さっき池の中で拾ったガラクタを投げて行くか。
「これからずっと投擲してるから気にしないでくれ」
「ヘイトもそっち向かなそうなダメージだからいいぞ」
カニの爪を盾で受けながらソーダが言う。
長靴でダメージが一応あったのは面白かった。
「そろそろ行くわよ~【一刀両断】!」
飛び上がったピロリがソーダの盾に飛び乗ると、タイミング良くソーダが盾をさらに上に押し出した。ピロリはくるりとカニの目玉の間に飛び乗ると、大剣を真っ直ぐ突き刺す。
ズババババ、と音がして、甲羅が真っ二つに割れた。
《エリアボス甥若苦茹蟹を討伐しました》
「わあい。今夜は蟹料理よ~」
ピロリが喜んでいる。
「ランカーかよ。チッ」
態度の悪いプレイヤーだな。いや、もらえると思った経験値が入ってこないからか?
さらに彼らは顔色を変えた。
「はっ!? 蟹身、全然落ちてないんだけど、何なん? どんなチート使ってんの?」
彼の言葉に周りの人間もざわめき出す。
「ランカーがチート使いとか、通報案件じゃねえか! おい、スクショ取れ!」
ん???
「どういうこと?」
俺がソーダに聞くと、ソーダも不思議そうに首を振る。
「甥若苦茹蟹はドロップアイテムの多いモンスターなんだ。蟹身以外の、甲羅とか足は防具になるんだけど、それは基本分配。割り切れないときはランダム分配。お前の方にも行ってるだろ?」
【持ち物】の中を覗くと確かにある。
「だけど、蟹身はかなり重い上に所持限界の一枠99個軽く越えてくるから、だいたい討伐したやつら以外ももらってくもんなんだよね」
99個……?
「俺、572個持ってるけど?」
ぼそりとつぶやいたつもりだったが、辺りのプレイヤーには聞こえていたらしく、複数の目がこちらに向いた。
「チート使いはそいつか!」
「チートってどうやって使うんだ?」
使える物ならアンジェリカさんの好感度を上げたい。
「……あ、わかったかもしれないでござる。セツナ殿、チュートリアル終わったって言ってたでござるよね?」
ござるは忘れないござる氏。
「これでチュートリアルは終わりですって言われたな」
「その後、冒険ギルド行ってないでござるね?」
「行ってないね」
「初心者チュートリアル中の持ち物所持数制限無限の時期続いてるでござるよ」
「あー! そーゆうことね。お前www まだチュートリアル終わってねーよ!」
んん? と思ってナビゲーションをオンに……オンに出来るところあるし、終わってないな。
「ナビゲーション残ってる……」
街の方へ伸びてる。
「やったわぁ~しばらく蟹パーティーよお!!」
ピロリと八海山がハイタッチしていた。
その後はぐぬぬぬっとなってる彼らにバイバイして、また歩いて帰路に着く。
蟹身は、態度が悪い! というパーティーチャット満場一致であげないことにした。それで嫌がらせされても、反対にこちらが録画とってるから平気よ、とピロリがのたまった。
『私可愛いから~変なのにまとわりつかれることが多いの~。自衛自衛』
『中身おっさんなのにな』
八海山の突っ込みに回し蹴りを喰らわせてる。
『中の人の話は厳禁!』
おっさんなのか……。ちょっときついから記憶から消すことにする。
『それにしても蟹パーティー嬉しいわね。セツナくん、ギルドに行く前にクランハウス寄った方がよくない? ストレージあげてさ、そこに詰めておかないとギルドでチュートリアル終わらせた途端重量限界で動けなくなるわよ』
『自分の倉庫でもいいけど、倉庫も限りあるからね。せっかくだからクランのストレージ空いてるし。あと、料理スキルまだないでしょう? 美味しく料理するなら案山子に任せた方がいいし』
ということでクランハウスにお邪魔することになった。
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私もカニ爪グラタン食べたいです。
あけましておめでとうございます!
今年も何かしら毎日更新しますのでよろしくお願いします。




