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9 身支度を整えよう

「うん、こんなもんでどうだろう?」

「はい! 良いと思います!」

「随分印象が変わりましたねぇ~」


 相変わらず俺は磔にされた儘であるが、その状態でも着れる様な服を、店は用意してくれた。

 黒を基調とした、冒険者風の服を、しかも同じ服を二着用意してくれた。

 服の着方もちゃんとフィリノアに教えてくれた。

 金はフィリノアが払ってくれた。金額を提示された瞬間、フィリノアの表情が死んでいたが、動けないどころかこの世界の情勢を知らない俺にはどれ程の金額だったのかも想像出来ない。ゴメンな。


「いやぁ……なかなかに貴重な体験だったよ」


 店主が額に浮かんだ汗を拭う。


「助かったぜ店主、礼を言うよ」


 俺が頭を下げると、フィリノアも「有り難うございました!」と頭を下げて、俺を持ち上げ、店を出ようとする。


「構わないよ。仕事だからね。……しっかしアンタもケッタイな事になってるねぇ。磔されてるなんて……一体何したんだい?」


 店主は不思議そうに訊ねてきたので、俺はニヤリと笑って、


「……神に挑んだ罰ってやつさ。……じゃあな、助かったぜ」


 俺は格好つけてそう言い残して、フィリノアの肩に担がれながら出ていった。

 ……女の子に担がれてるから何を言っても格好悪い、なんて言ってはいけない。







 服を着たとはいえ、相変わらず道行く人々に見られている俺達が次に向かったのは、鍛冶職人達が忙しなく働く工房を併設した武具店だった。

 俺の枷をどうにかする為だ。


「――すいませーん!!」


 フィリノアが声を掛けると、奥から不愛想な男が顔を覗かせる。


「あぁ、いらっしゃ……あぁ? なんだアンタ等は」


 ここでもまた、先程の店と似た様な反応をされる。

 わかってはいるけど、そんな反応しなくても良いだろうに。若干傷つくぞ。

 俺達を怪訝な顔で見てきたのは、肌を赤く焼けさせた武骨そうな男だった。

 鍛冶師……だろうか?


「この人の枷をどうにかしたいんです。どうにか壊せないですかね?」


 フィリノアの言葉に、鍛冶師の視線が俺の枷に向く。

 俺が力を込めてカチャカチャと枷を動かすが、壊れる様子はない。


「……ちょいと待ってな」


 その様子を見た店員はそう言って奥に引っ込むと、金槌を持ってきた。恐らく、仕事で使っているモノだろう。


「ちっとばかし痛むだろうが、構わねぇよな?」

「おう。思いっきりやってくれ」


 俺の許諾を取った鍛冶師の男は、俺の枷を金槌で思いっきりぶっ叩いた。


 カアアアァァァァァン


 という金属と金属が打ち合った時にでる甲高い音がなった直後、


 パキン!


 と脆い音を立てて金槌の方が割れてしまった。


「――なにぃ!?」


 武骨そうな鍛冶師の眉が驚きで跳ね上がる。

 恐らく、こんな経験初めてだっただろう。俺も初めてだ。

 とはいえ俺にとっては想定出来ていた事だ。

 磔状態の俺を易々と持ち上げて振り回す事が出来るフィリノアでさえ壊せなかったのだ。

 こうなる事は想定していた。


「……一体こりゃ何の金属なんだ? ……伝説に聞くオリハルコン? それともアダマンタイトか?」


 鍛冶師が不思議そうに枷やら十字をカチャカチャと触る。


「……熱してみるってのも手だな。ちょっと奥へ来な。よっと――ぐ、ぐぐぐぐぐ!!」


 鍛冶師が俺を持ち上げようとするが、重くて持ち上がらないらしい。


「あ、動かしますね。――よいしょっと」


 対して、フィリノアちゃんは軽々と持ち上げて見せる。


「じょ、嬢ちゃん怪力だな」


 鍛冶師がフィリノアの怪力に驚く。


「えへへ、そうですかね? ……で、どこに行けば良いですか」

「お、おぉ。こっちだ」


 フィリノアの怪力に圧倒された儘の鍛冶師の案内で、俺達は鍛冶職人達が働く工房の中に足を踏み入れた。





 ―――――――――――――――――


 工房の中は加工に使う火の熱気によってかなり暑い。汗を掻いてしまいそうだ。


「暑いですね」

「そりゃ、武器はここで作ってるからな」


 鍛冶師がそう言いながら、準備をする。

 どうやら熱して溶かそうと思っているらしい。

 周囲の鍛冶師達も、なんだなんだと俺達の周りに集まってくる。

 俺を台座の前に横に置き、


「……いいか、これからやるのは危険な事だ。下手に動くと全身火だるまになっちまうぜ」


 俺達に向けて真剣な顔で忠告すると、鍛冶師は熱々に熱して溶かした鉄を、枷に触れさせる様にして慎重に流し出した。


「……熱いが、我慢出来る位の熱さだな」


 流石に近くで枷を溶かすとなると熱い。とはいえ、千年前の魔王討伐の最中に体験したドラゴンのブレスよりは熱くない。全然我慢出来る範囲内だ。


「なら黙ってろ。こっちは集中してんだ」


 相当な緊張を持って望んでいるらしく、鍛冶師の声は鋭い。

 だが、溶けた鉄を全てを流し切っても、枷にも十字にも傷一つも付かなかった。


「……こりゃお手上げだな」


 鍛冶師はそう言って匙を投げた。

「すまねぇな」と謝られたが、そう言いたいのは此方の方だ。

 ホントゴメンな。あのバカ神のせいだ。


「……ダメでしたね」


 工房から出て、フィリノアが慰めてくる。


「まぁ仕方ないさ。こればっかりは無理だと思ってたし。……さて、これからどうする?」


 俺が尋ねると、フィリノアは神妙な顔でこう告げた。


「……クエストを受けたいです。さっき買った服でお金が……」


 うん、俺は君にちゃんと謝らないといけないな。

 スマン。




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