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26 とある駆け出し冒険者達の災難

 ハザティーク 冒険者ギルド


 フィリノアとユーグがハザティークの街に向かっている頃、


「――コボルド?」


 冒険者ギルドの受付で、若い男がそう声を上げた。

 見るからに駆け出し冒険者、といった風貌の少年だ。


「はい。Eランクの冒険者でも受けられる依頼ですけど、現状コボルド退治かゴブリン退治しか……」


 少年に、受付嬢が申し訳なさそうに言う。

 Eランク……つまり駆け出し冒険者の出来る依頼というのは、種類が少ない。

 例えば危険の少ない『薬草の採取』であったり、身体の巨大さに比べて危険度の低い『巨大蛙(ジャイアント・トード)の討伐』であったり……その中でも特にゴブリンと並んで駆け出し向けと言われているのが犬型の魔物である”コボルド”だ。

 ゴブリンと同様で、Eランク冒険者が、Dランク冒険者となる為の、壁の一つである。


「なんだコボルドかー」


 とはいえ、少年がつまらなさそうにそう言うのも仕方ないだろう。

 コボルドというのは魔物の中でも、弱いという事は間違いないのだから。

 だが、実際には少なくない駆け出し冒険者達がコボルドに負け、帰らぬ人となっている事も事実である。


「コボルドなら楽勝だな!」


 少年が調子良く言ったのに対し、


「こーら、そんな事言わないの!」

「油断は禁物です」

「そうだぜ。コボルドだからって油断してたら、死ぬぜー」


 後ろでそのやりとりを見ていた仲間達がそう若い男を(たしな)める。

 どうやら若い男と同じく駆け出しの様で、装備もまだまだ新品に近い。

 剣士の少年、魔術師の少女、僧侶の少女、そして斥候(スカウト)の少年。

 まだまだ駆け出しであるが、バランスは良いパーティーだ、大きな問題さえなければ、大丈夫だろう。

 受付嬢はそう考えた。

 とはいえ、である。


「場所は近くの森……だそうです。恐らく、どこかに巣があるのでしょうけれど」


 受付嬢が心配そうな声を出す。

 コボルド程度と侮って帰ってこなかった冒険者達を、数多く見てきたからだ。

 だが、若い男は、


「大丈夫大丈夫! 俺達に任せてくれよ! コボルド程度、直ぐに討伐してくるから!」


 自信満々にそう言った。


「……わかりました。では宜しくお願いしますね」

「おう! 行ってきます!!」


 若い男を先頭に、四人のパーティーが冒険者ギルドの扉を開けて出て行く。

 その背を心配そうに、受付嬢は見ていた。







 ――――――――――――――――



「――てやぁっ!!」

「ギャン!!」


 受付嬢の心配を他所に、四人の新人パーティーは順調に依頼を熟していた。

 森の中、逃げるコボルドを後ろから追いかけて斬り付けた。


「……ふぅ。何とか倒せたな。逃げるんじゃないよ。全く……」


 ゴブリンを倒したのを確認し、少年が文句を言いながら剣についたコボルドの血を雑嚢から取り出した布で拭う。

 そこに、仲間達が急いで追いついてきた。


「粗方片付いたかしら?」

「これで六体です。順調ですね。……というか一人で駆け出さないで下さいよ!」

「わ、悪かったって!!」


 少女達も、コボルドの死体を見て、一段落だと気を緩める。

 だが、斥候の少年だけは緊張を解いていなかった。

 耳を澄ませ、周囲の気配を探る。すると何かを感じ取ったのか、


「――!! 皆、敵が近くにいるぞ!!」


 仲間達にそう言うと、斥候の少年は地面に耳を付け、


「……こっちに近付いてくる。数は……二……いや、四体……違う五体だ!!」


 そう言って地面から耳を離し、腰に差していた小型ナイフを構える。


「――新手か!!」

「皆、気を付けて!!」

「無理はしないで下さいね!」


 仲間達も斥候の少年の言葉を信じて声を掛け合う。


「ウォン!!」

「ガフ!!」

「ハッハッハッ!!」

「ギャンギャン!!」


 現れたのは四体のコボルドだった。

 子供が全力で走るのと同じ速度で、四人の方へ向けて走ってくる。


「――四体? 五体じゃなかったのか?」


 武器を構えながらも、少年が疑問を口にする。


「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!!」


 魔術師の少女が、杖を構えて叫ぶ。


「わ、分かってるよ!!」

「――来ます!!」


 その間にも、ゴブリン達は全力疾走で四人の方へ駆けてくる。

 と、その様子がおかしい事に、斥候の少年は気が付いた。

 ゴブリン達が、まるで何かから逃げているかの様だったからだ。


「――何かコボルドの後ろから来るぞ!!」


 斥候が叫んだ直後、


「――ガァアアアアア!!」


 叫び声を上げながら、コボルド達の背後から()()がやって来た。

 ()()は一番最後尾を走っていたコボルドの頭を、手に持っていた棍棒で叩きつけて殺すと、それをバリバリと音を立てて喰らい始めた。


「――な、なんだ!?」

「何あれ!?」

「……コボルド?」

「嘘だろ……」


 コボルドを襲ったのは、同じコボルドだった。しかも、巨大な――四人が今まで見た事もない程に。

 ふと、コボルドの視線が四人に向けられる。


「――ニン……ゲン。……クワセロ!!」


 そう言うと、コボルドに似た何かは四人に襲い掛かった。


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