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24 盗賊退治

「――来たか!!」

「相手はなんだ!?」


 俺達が駆け出したのに遅れて、馬車から冒険者達が飛び出してくる。


「――盗賊だ!!」

「全員出てきてくれ!!」


 前方から、そんな焦った声が聞こえてきた。

 盗賊か。また何でこんな天気の良い日に。……盗賊達には天気なんて関係無いけど。


「――フィリノア、人と戦ったことは?」


 俺は走るフィリノアに聞く。


「……ありません」


 少し黙った後、小さな声で、フィリノアはそう言った。


 ……しまった。そうか、フィリノアは対人戦の経験がないのか。


 魔物を相手に戦う冒険者であるが、盗賊や犯罪者相手に戦い、捕縛するのも冒険者の仕事である。

 聞けば、フィリノアは今まで魔物討伐中心だったらしい。護衛をしてきたといっても、盗賊団に襲われるなんて事もなかったそうだ。


 魔物と人と戦うのでは大きく違う。

 普段魔物退治を生業とする冒険者にとって、人と戦う時と魔物と戦う時で最も違く感じる事は、恐らく嫌悪感だろう。

 魔物と戦うのと違って、人間と……自分と同じ人間と戦わなければならない。

 それにはどうしても嫌悪感が付きまとう。

 それとどう戦うか、それをどう考えずに戦えるかが大事だし、乗り越えなければいけない事だ。


 フィリノアは今まで『人と戦った事がない』。

 だが、それを精神的に助けるのが、武器たる俺の仕事だ。


「フィリノア。相手は盗賊だ。遠慮はするな。したらお前が死ぬぞ!!」

「は、はい!」

「こんなところで死んでちゃ、俺みたいにはなれないぞ! 俺みたいな”英雄”になりたいんだろう!?」

「わかってます!!」


 恐怖感と焦燥感を煽る。それで潰れるか潰れないかは――フィリノア次第だが、覚悟を決めたのかフィリノアははっきりと俺の言葉に頷いて返した。






 フィリノアが声のした場所に到着すると、既に戦闘は始まっていた。


「な、なんだぁ!?」

「磔にされた……男ォ!?」

「なんで?」


 俺を構えたフィリノアが現れると、流石の盗賊達も驚いている様で、そんな声が聞こえてくる。

 バカめ! そんな風に戦場で気を逸らしたら――


「隙を見せたな!!」

「――くらえ!!」


 冒険者の餌食になるに決まってるだろうに。まぁ視線を逸らしたバカの自業自得だ。


「ぎゃぁ!!」

「――くぅっ!?」

「クソッ!!」


 戦場じゃ、気を逸らしたり、油断した奴から死んでいくもんだ。

 今が好機と捉えた冒険者達に斬り付けられ、盗賊達が呻く。


「――フィリノア、あの坊主頭の奴を狙え!!」

「は、はい!!」


 俺の指示で、フィリノアが坊主頭の盗賊に駆け寄り、


「てぁあああああああ!!」


 掛け声と共に振りぬく。


「――ぐっ!?」


 坊主頭の盗賊が防ごうと剣を前に構える。

 だが、フィリノアの怪力を甘く見るなよ!!

 コイツは俺を持って何時間も歩いても疲れない程の力を持っているのだ。


「おおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」

「ぐぉっ――ぁぁあああああああああ!」


 フィリノアが、防ごうとして構えた剣ごと盗賊を大きく弾き飛ばす。

 ……おーおー、随分吹っ飛んだなぁ。


「――次だ! そっちの赤いバンダナの奴!」

「はい!!」


 どうやらフィリノアは相手が盗賊である事も気にならない程集中しているらしく、遠慮もなにもない。

 それで良い。手加減なんてしてたら此方が危ないからな。

 人間相手だろうと、やるなら全力だ。

 大丈夫大丈夫。俺打撃武器だから死にはしないって……多分。いや、知らんけど。


「――たぁ!!」

「ぶべっ!?」


 フィリノアが振るった俺の頭と、盗賊の頭がぶつかる。

 頭と頭がごっつんこ。


「――がっ!!」


 だが、痛みで声を上げるのは盗賊だけだ。……まぁ声を上げるどころか、下手したら死んでるだろうが。


 ……俺? 俺の防御力(硬さ)を舐めないで貰おうか。

 何せドラゴンよりも硬い身体を持つ男である(自称)。

 人間程度とぶつかった位じゃ俺はビクともしないぞ!


「――良し! 此の儘押し切れ!!」


 他の冒険者達も順調に盗賊を倒している様だ。

 俺達も頑張らないとな。


「――次だ! 行くぞフィリノア!!」

「はい!!」








 ――――――――――――――――




「ギ、ギギギギ」


 鬱蒼と茂る森の中、一匹のコボルドが、死体を貪っていた。

 何の死体かといえば、コボルドの――つまり同族の死体を貪っていた。


 そのコボルドは飢えていた。


「ガフ――ムシャムシャ」


 コボルドは実に美味そうに、同族を貪る。


「――ほぅ。同族を喰らうか」


 そこに、ふと男の声が聞こえてきた。


「――ギ?」


 コボルドがそちらを振り向く。そこにいたのは、一人の男だった。

 その手にあたるであろう場所には、禍々しい紫色の光を放つ石を持っている。


「面白い」


 男がコボルドをそう評した。

 男はコボルドに向けてパチパチと拍手を送る。


「君、我が実験に付き合ってくれるかね?」


 男が傲慢な口調で尋ねるが、コボルドは興味なさそうに再びコボルドの死体を貪り始めた。

 男はそれを見て薄く笑うと、石に力を籠める。


「ギ、ア……ガアアアアアアアア!!」


 すると、コボルドの肉体が石と同じ色の光に覆われ、徐々にバキバキと音を立てて変わっていく。

 数秒後、そこにいたのは最早ただのコボルドではなかった。

 コボルド・キングとも、通常のコボルドより大型のコボルド・リーダーとも違う巨躯。

 眼は真っ赤に染まり、ギラリと光っている。


「――ギ、ィィ。ウエ、ヲ、ミタス。……コノウエ、ヲ……グ、グウウゥゥゥ!!」


 コボルドは自分の変化した姿に驚くこともなく、片言の人語を喋りながらゆっくりと歩き出す。

 飢えを――その身を犯す飢えを癒す為に。


「おや、人語を理解するとは随分な進化だ。さぁ、恐怖を振りまくと良い。……全ては我が王の御為(おんため)に」


 その姿を見送った男は、そう呟いて、光を失った石をその場に残し、まるで幻の様にその姿を消えた。





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