第16話:先生達の逆転無罪!
本当は逆転裁判よろしく、ぶっ飛び証言者達のトンデモリアクションとかもやりたかったのですが、弁護士枠がいないので……
俺達は初め、デナーシュ・ドーチックとギルド職員らの出してきた事実無根のでまかせによって窮地に陥っていた。
けれど、ギルドで助けたウェイトレス――デイジーが声を掛けてくれたザナット・ブランキーがひっくり返してくれた。
ギルドのスキル鑑定士によってウスティナが本人であると証明されたし、ドーチックの虚偽が明らかになった。
そして、カティウスは……
「懺悔いたします……私は――」
「――余計なことを言うなと伝えた筈だぞカティウス!」
怒鳴るドーチックだが。ザナットがそれを、
「貴様は黙っていろ」
と、制す。
「私は、デナーシュ・ドーチック氏より依頼を受けて、環状峡谷の調査に同行しました。
その後、坑道の落盤した箇所を経て最奥部の祭壇にて――」
「――やめろ、それ以上は言うな!」
「嫌だ! 言います!」
あとは俺も知っている内容だ。
そして小袋から取り出したのが、祭壇の封印に使った儀礼用短剣だった。
俺の血液がまだ僅かに残っているそれを、衛兵隊がその場で検査した。
俺の指先からも血を取られて、完全に一致している事が証明された。
魔力の痕跡からはカティウスのものであると証明されたし、それまでの証言は全て引っくり返された。
ザナットが随時、理路整然と立証していくので、観衆は皆納得せざるを得なかった。
更に、デイジーやギルドのウェイトレス、受付嬢、書類管理係が次々と証人として呼ばれる。
証拠が沢山あがった。
俺達が退店したあと、ギルド職員のところに常連の冒険者パーティが接触した。
そのパーティのリーダーであるガイローンが、ハーフエルフのディスランに、俺達を尾行するよう指示。
俺達が坑道に辿り着くタイミングでギルドに使い魔で手紙を出す。
ウスティナを、ネクロマンサーであるとして通報。
実際にスケルトンを討伐したのは件のパーティだったという事にするため、新しい依頼書を作って、リストも上書きする。
後は偽の証拠を固めるため、ドーチック商会と結託して証拠を揃えるという段取りだ。
……じゃあやっぱり、ドーチック商会がらみの問題と、ウスティナが偽者だと思われている問題は繋がっていたというわけだ。
あの職員もよくやるな。
そんなエネルギーがあるなら、ギルドの職場改善に役立てれば良かったのに。
「ぐぬぬ、おのれ……こんな筈では……!」
「――もう、終わりにしませんか。デナーシュさん。元より隠し通せるものじゃあ、なかったんです。
あなたもいずれ、思い知るでしょう。まばゆい誠実さの前には、小手先の誤魔化しなんて無意味だと」
「……」
「さあ、ブランキー卿。どうぞ、私ともども罰して下さい。覚悟は、ご沙汰が下るまでには、必ず済ませますから……」
カティウスが頭を垂れるも、ザナットは首を振った。
「命を脅かされてやむを得ない事情ならば、破門は免れられる。殉教が誉となる風習は随分前に廃れた」
「しかし……」
「罪はドーチック商会にある。もし負い目があるならば、ただ、励め」
「ありがとうございます……!」
「さて。判事殿、閉廷を」
「……ルクレシウス・バロウズ、アレット、およびウスティナの判決を言い渡す! ……――無罪!」
やった……やった!
みんなが、繋げてくれた!
みんなのおかげで、俺達は……ウスティナは……!
「もうっ、先生。まだ泣いちゃ駄目ですって」
「す、すみません……」
涙で滲む視界の中、控え室に戻ると。
「やりましたね、ルクレシウスさん!!」とデイジー。
「うちのギルドの子を助けてくれてありがとうございます」と受付嬢さん。
「色々とご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。埋め合わせは何としてでも致します」とカティウス。
「皆さん、僕達の為に、本当にありがとうございました……!」
「ルクレシウスさんが助けてくれたおかげで、色んな人が勇気付けられたんですよ。
男は敵じゃないって。ちゃんと見てくれる人がいるし、声を上げて抗議する事はワガママでもなんでもないって」
これで、全て片付いた。
おそらくデナーシュ・ドーチックの処分は共犯者達ともども、ザナット・ブランキーとの係争によって決まるのだろう。
ザナットには後でお礼を言わないとね。
(……それと、クソ衛兵のヴィクトールには今度会ったら嫌味を言ってやろう)
とにかくまずは、ウスティナに声をかけよう。
「ご迷惑をお掛けしました。もっと段取りとか、周囲に気を配っていれば苦労をかけなかったのですが」
「水臭いぞ、貴公。それに、ともすればこれはチャンスにできる。逆恨みで何かを仕出かしても誠実に処分されるだけだと知らしめるチャンスにな」
だといいんだけど、あの判事は最初こっちの反証を待たずに判決を下そうとしたからね。
最終的にザナットが駆けつけてくれて、事なきを得たけどさ。
そうそう何度も同じ奇跡が起きる筈は無いから、もっと慎重に事を進めないと駄目かな……。
こういう時にもっと頭が回れば、学院を追い出されずに済んだのかな。
「――あ痛ッ」
背中を叩くなよ。
「なーに深刻な顔してるんですか! 祝勝会やりますよ! 酒だ酒だー♪」
「すぐそうやって……」
アレットは相変わらずだな。
「祝勝会のあとは剣闘大会だな。征く先々で逆恨みをされて閉じ込められては腕が鈍ってしまう」
「……わかりました」
ウスティナも、そうとう溜まっていたようだ。
まぁ、しなくていい我慢は、しないほうがいいのかも。
「そうら、また逆恨みで変な輩が釣れたようだぞ」
ウスティナが顎をしゃくって示したのは、例のベテラン冒険者パーティだった。
沙汰が下るまで、おとなしくできなかったのか?
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