お片づけとゆずれないものと 前編
ついに、主人公の名前が!
今日は楽しいお部屋のお片づけ♪
……は、頼むからやめてくれって家から放り出されましたとさ。
ぐすん…。
お片づけは、師匠でも獣様でもなく、うちのおばあちゃま…もとい、カレンさんがやってくれるんだ。
おばあちゃんって呼ぶと恐いんだよね。だからカレンさん。
師匠は初め、「ばばあ」って呼んでひどい目に合わされたらしい。どんな目なんだろう…。恐いけど聞きたい、聞きたいけど恐い…。
あの元魔王様な獣様でさえ「カレン嬢」って呼んでたし。おばあちゃまなのに嬢?と思ったけど、獣様から見れば、人なんてみんな年下なんだよねぇ。ロリコン? いやいや、カレンさんが最強って話だったネ。
洗濯とか簡単な掃除とかは師匠の魔術でちょちょいのちょ~いってやっちゃうんだけど、あそこまで散らかっちゃうと、どうにもこうにもならないんだって。…まぁ、散らけた本人が言うことでもないんだろうけど。
そんなわけで、私は一人で畑いじり。
ま、出掛ける前にカレンさんにまでしっかりお説教されたけどね。…ぐすん。
私だって、自分で魔術が使えるようになれば、師匠の手を煩わせなくたって、洗濯だって掃除だって、探しものだってちょちょいのちょいなのに…。そんでもって、おまけにあんなことやこんなこと、そんなことまで…!?
「そんなとこでイジイジしてんじゃねーよ」
「ほあぅ!! ……師匠」
ブチブチ言いながら草むしりしてたら、師匠がいた。
急に人の背後に現れないで欲しい! 口から心臓がぼよーんって飛び出るかと思ったよ!!
「お前はバカだけど、ワタシのバカ弟子なんだから、そんなバカみたいに落ち込んでんじゃねーよ。
バーカ」
「な…バカバカ言いすぎだよ!
バカって言うほうがバカなんだよ! バーカ!!」
「なにおぅ!
師匠に向かってその口のきき方はなんだ! バカ弟子のくせに!」
「師匠だって人のこと言える口のきき方してないじゃん!
自分のこと“ワタシ”って言ってたら丁寧に聞こえるとか思ってるくせに!」
「な、なんでそれを…」
「あれ、ホントだったんだ…。フェル様の受け売りだったんだけど…」
「元魔王か…。やっぱ、殺すか…」
「えぇ!!」
あわわわ、師匠の目がマジだ。獣様、ピーンチ!!
どうやって師匠の怒りを鎮めたらいいだろうか?
水を掛けるか、クワで殴るか、飛び蹴りを……
「これ、詠んでみろ」
「はぇ??」
対策を練っている間に、怒りは鎮まっていたらしい。…残念。
読んでみろ、と手渡されたのは、何やら字と陣が描かれた紙だった。
もしかすると、呪文を詠め、ということか?
「アル・ルラ・フルクチォ・フェアリ・イオ・フル・フライ」
ゆっくり、間違いのないように確認しながら詠んだ。
詠み終えた瞬間、溢れたのは光。
色とりどりの光が私の周りを踊って、消えた。
そして、その光に導かれるように集まってきたのはキレイな蝶々…じゃなくて、精霊さん。
私の周りを、チカチカと瞬きながら舞うように飛ぶ。
「キレイ……」
それはそれは幻想的で美しい光景。きっと、ぽかんと口が開いていることだろう。
けど、さらに口が開ききることが起こった。
『クリス! 私たちの声が、聞こえる?』
『クリス!! ねぇ、遊ぼうよ!』
『やっとクリスとしゃべれる!!』
口々に(とはいってもどこに口があるのかはわかんないんだけど)精霊さんたちがしゃべりだしたんだ。
鈴の鳴るような、可愛らしい声に、けれど開いた口のまま返事が出ない。
蝶々が…いやいや、精霊さんだけど、でも見た目蝶々がしゃべるなんて…。
「お前は、保有魔力はワタシと同じくらいあるんだ。それを見込んで、弟子にとった。…決して、料理の上手さ目当てじゃねーぞ!
けど、そのお前の…天性の才能なんだか災厄なんだか、その危なっかしさでは、普通の魔術は教えられねー。何が起こるかわかんねーからな。
だけど、お前は精霊にはものすごく好かれてる。だから、こーゆー魔術なら使えると思ったんだ。
だからこれからは……」
師匠が何やら小難しいことを言っている。
けど、けど……今はそれよりも……
「私の名前は、クリスティーヌ・デ・マルゲリータです!!」
ゆずれないものが、あるのです。
悩んだ挙句のこんな名前。
いかがなものでしょうか??




