第三話 王の力
《オルディレスト城》――玉座回廊。
ギルドマスターが座るための……改め。
俺が座るための玉座が鎮座している場所へと続く長い回廊を歩きながら、俺は無意識に自分の腕へと視線を落とし、その感触を確かめるように撫でる。
指先で鱗をなぞるたびに、ざらりとした感触が返ってくる。
冷たく、硬く、そして腕に伝わる感覚も確かに俺のもの。
「……まだ信じられないな……」
俺がぽつりと呟くと、隣を歩いていたゴラクZさんが低く言葉を返す。
「そうだな……だがマスターは一番マシさ。俺もそうだが……竜種や灼炎種はある程度人の形を保てるからな。見た目も感覚もまだ“人間”に近い」
彼の炎の鬣が歩くたびに揺れ、足元に影を残す。
その姿は確かに人間離れしているが、それでも人の形を保っているということの重要性は、やはり身近にいる彼らを見てより強く思ってしまう。
「……こんなことになって一番辛いのは、猫バイトとサクラノヴァさ。……ありゃ完全に人外になっちまったからな……」
俺は彼の言葉に静かに頷いた。
この異世界転移という事象において、まずもって影響を受けるのは自身の姿だと強く感じる。
元が人間である以上、当然姿が人間に近いほど違和感を抱くことは少なくなるけれど、猫バイトさんは岩の巨人として。
そしてサクラノヴァさんは骸骨として……――そこにはもはや人間の面影はないと言っていい。
特に、人間としての終着点であるサクラノヴァさんは今の現状を理解したとき、何を思ったのだろうか。
……ただ……この世界に根付く十種の中でも限りなく人間種に近い姿を持つ竜種の王である俺にはそれを理解する術はない。
「……何でこんなことになったんだろうな……って、え? あれ?」
そんなことを考えながら歩みを進めていた俺はふとあるものを見て足を止めた。
回廊の先にある大窓――そこから差し込む景色に違和感を覚えたのだ。
そして、確かにそこに視線を向けた瞬間に胸の奥がざわつき、気づけば俺は窓辺へと駆け出していた。
「むっ、どうした!?」
突然の行動に驚いたゴラクZさんが、低く鋭い声を上げる。
だが俺は振り返らず、窓の外を見つめたまま問いかけた。
「……ゴラクZさん……ここって、俺の間違いじゃなきゃオルディレスト湖にある城、でしたよね……?」
その言葉に、ゴラクZさんが眉をひそめる。
そして彼も窓辺に近づき、俺と同じ景色を見た。
そこに広がっていたのは――しかし俺たちが見覚えのある湖ではなかった。
「……森、だと……!?」
かつて窓辺から見えていた美しく広がる湖畔は跡形もなく。
そこには深く、濃密な大森林が広がっていた。
木々は高く、窓の景色を覆い、風に揺れる葉の音がかすかに聞こえる。
かつてこの城が建っていた湖畔の穏やかな水面は……どこにもなかった。
「……完全に場所が変わってる……!? ってことはもしかして俺たち……この城ごと……!?」
そう仮説を立てた俺たちは顔を見合わせ、ざわつく心の鼓動を抑えながら互いに無言のまま正門へと向かった。
石造りの階段を下り、重厚な扉の前に立つ。
「……開けるぞ」
ゴラクZさんが扉に手をかけ、ゆっくりと押し開く。
軋む音とともに、城の中に木漏れ日が差し込んだ。
その先に広がっていたのは―――やはり、何度見ても鬱蒼と生い茂る森だった。
「……やっぱり、湖じゃない……」
その光景に俺たちは呆然と立ち尽くす。
目の前には見たこともない木々が生い茂り、僅かな獣の気配すら漂っていた。
振り返って城を確認するが、かつて湖の上に建てられた立派な城は大地に根差し、まるで最初からそこにあったかのように自然に溶け込んでいた。
だが、俺たちの驚きはそれだけでは終わらなかった。
―――ゴウッ!!!
「……なっ!? 敵か!?」
突如として、耳を劈くような轟音が辺りに響き、何の前触れもなく目の前の木々が燃え始めたのだ。
炎は急速に奔り、周囲の木々に瞬く間に伝播していく。
風も、雷も、魔法もなかった。
ただ、木々だけが一斉に燃え盛ったのだ。
「マスター、下がれ!」
ゴラクZさんが俺の腕を引き、城内へと下がる。
だがそれでも炎は瞬く間に広がり、さらに熱気が肌を焼くような……って、あれ? 熱を感じない……?
「……っ、もしかして……!?」
と、ある違和感をもとに、一つの思考に辿り着いた俺はゴラクZさんを後に外に出て、外側から大きな扉を締め切った。
「マ、マスター!?」
「大丈夫です! 俺に策が!」
扉の向こうで叫ぶ彼の声に、俺は簡潔に答えて燃える木々に相対する。
……俺の推測が正しければ、この炎は敵襲ではない。
おそらく――――。
……っと、とりあえずこの炎を消さないとな……。
えぇと、確かスキルとかも使えるんだったよな?
うーん……簡単に炎を消せるスキルといえば……これかな!
そうして俺は、息を吸い込み―――叫んだ。
「【竜王の息吹・白嵐】ッ!!!」
―――刹那。
俺の咆哮とともに、空気が震える。
口元から放たれたのは、その名の通り、竜種の王が発する咆哮―――言ってしまえば白い嵐を纏っただけのただの大声。
故に、炎を消すぐらいならこれぐらいで十分だろうと考えたワケなんだが……。
「……あ、あれ……? これやりすぎた……かも……?」
周囲を見渡せば、そこはまるで整地された公園の広場。
燃え盛る木々は紙屑のように消え去り、残された背丈の低い草原だけがそこに広がっている。
一帯は、技名が示すようなまさに嵐が通り過ぎた後のように静まり返り、遠くにある木々のざわめきが僅かに耳に届く。
「……これは……うん、ブレス系はしばらく使わない方がいいな……」
俺がそう思うのと同時――。
「―――何があった!?」
黒いローブを翻す骸骨姿―――サクラノヴァさんが突然目の前に現れた。
依然として正門は閉められていることから、恐らく彼の魔法による転移でここに来たであろう彼に俺は、少しだけ申し訳なさそうに言った。
「……少しだけ話があるんだけど……」
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