第十三話 希望
「―――マスターは見ていなかったのか? 上から城を見た時、城を取り囲むようにしてあった森との境界線を」
サクラノヴァさんの言葉に俺は一瞬だけ記憶を遡る。
飛行中に見下ろした城の輪郭――そして、その周囲に広がる焼け焦げた地面―――。
「いや、見てはいたけど――――って、あっ! もしかして!?」
と、俺の考えを察し、サクラノヴァさんと俺は思わず事の発端である彼を―――ゴラクZさんを見た。
「……あぁ、マスターが吹き飛ばしたのはあくまで正門側。裏手まで森が消えているということはつまり―――」
「……ううむ、なるほど……。つまり俺の熱気は城の中だけかと思っていたが、城の周囲まで及び、森を焼き尽くしていたというわけか……」
そしてゴラクZさんの言葉に彼は頷く。
「あ~、だから今でも発し続けているゴラクZさんの熱気に、兵士たちも僕らの気がつかないうちに倒れてたってわけか~……って、それってやばくない? ゴラクZさんの熱気は自動発動だし……このままじゃ……」
そう話す猫バイトさんの言葉は正しい。
いくら今の姿が異形の王だとは言え、俺たち全員が元は人間。
その人間の種族が住むという王国の兵士たちを、無抵抗とはいえ傷つけているとなれば、必然的に関係が悪化する恐れがある上に、気分も良くない。
……っていうのは今知った事実だけど、ゴラクZさんの熱気を抑えなければいけない現状……そういうことなら確か―――!
「あ~! だからこいつが必要だったんだ!」
俺はゴラクZさんの背後にちょこんと座るサラマンダーを顎で示しながら問いかける。
その問いに、サラマンダーは―――。
「えぇ!? わっ、私に兵士を倒した熱の責任を擦り付けるってことですか!?」
「違うわ!!! 流石にそんな心まで怪物になってないっての! ……ほら、お前が出会ったっていうあの兵士の特徴! それをもっかい教えてくれないか?」
俺がそう言うと、サラマンダーは少し考え、はたと思い出したかのように話し始めた。
「あぁ! あの思い出すのも悍ましい女兵士……あの金色に輝く盾、炎を完全に防ぐ白銀の鎧、私の爪を切り刻む鋭い剣、素早い身のこなしに、流麗な剣技の―――」
「もういいもういいよ」
俺が制止しないとどこまでも話しそうなこのサラマンダーに、サクラノヴァさんが補足する。
「……マスターも気が付いたか。……先ほどこいつは無駄なことを話したが、重要なのはただ一点―――この、炎を完全に防ぐ白銀の鎧についての情報だ。こいつはその兵士に会っているらしいからな」
その言葉にゴラクZさんが思わず眉をひそめた。
「なるほど……炎を防ぐ銀鎧……って、もしや【ユグ:ドライアス】にもあった装備か?」
「……あぁ。それが"銀焔の聖鎧"なのか、"氷銀の鱗鎧"なのか、はたまた"銀層断熱装"なのかは分からない……。悔しいが本物を持っていない以上、確かめる術はその女兵士しかないわけだ」
鎧の名前が並ぶたびに、俺の脳裏にはゲーム内での記憶が蘇る。
そもそも属性耐性を持つ装備というのはいずれもがレアガチャや高難度ダンジョンでしか手に入らない優れた代物。
……だが、そんな優秀な装備を最強たる俺たちが持っていない理由というのが……。
「まぁ、そもそも全属性耐性がついてる僕ら種族王には必要のないものだしね~。倉庫圧迫しちゃうからって要らないものは僕も売っちゃったし……」
「ましてやゴラクZさんなんて一番持ってる必要のないものだし仕方ないよな」
もはや属性耐性値が高く設定されている俺たち種族王にとっては無駄なものという認識があったせいで、倉庫にすらいれていなかったのだ。
……そりゃわざわざ強いパッシブスキルがあるのに無効化する意味が分からないよな。
「あぁ。だが、もしそいつを手に入れることができたなら……外からの熱を守れる装備なら当然、中からの熱も抑えることができるはずだ」
サクラノヴァさんが出した結論に、ゴラクZさんが燃える鬣を光らせながら唸る。
――と、それをきいていたサラマンダーが、再び申し訳なさそうに口を開く――が。
「あ、あの……皆さんの実力を疑う余地もない上でなんですが……その女兵士を甘く見ないほうが良いと思われます……逃げる際、彼女は仲間から"剣聖"と呼ばれていましたから―――」
「「「「―――剣聖っ!?」」」」
「うわぁぁぁあ!? なんですか皆様!? ち、近いです!?」
思わぬ単語に興奮した俺たち全員にサラマンダーが尾をぶんぶん振りながら後ずさる。
だが、俺たちにとってその単語はある人物を想起させ、思わず興奮してしまう。
「剣聖っていや、……まさかあの“ユイ”か……!?」
俺が呟くと、サクラノヴァがローブの裾を払って立ち上がる。
眼窩の奥の青い光が、どこか懐かしさと警戒の色を帯びて揺れていた。
「……ああ、懐かしいなその名前! あの異常な反応速度に、魔力の流れを読む直感、そしてなによりあの剣筋! あれはまさに剣聖だった……!」
「わっかる~~~! 僕なんて物理攻撃が通じないから相性的に優位なのにマジで斬られるかと思ったもん! あの人どっかの剣術道場の師範代なんでしょ? 多分世界で一番ヤバい女性だったんじゃない? 休日さんとは違う意味で」
そう言いながら猫バイトさんは岩の腕を組んで目を細める。
「あぁ……俺も武道の心得はあるが……あれはまさに武の極致……種族が人間種でなければこの世界で敵なしもあり得た者だ……」
そしてゴラクZさんの言葉に俺も思い出す。
かつて、俺が竜種の王になったばかりの戦いを―――。
「だが、何と言ってもやはりマスターと剣聖の戦いは今でも思い出せるな……あれなら昔の世の中で剣闘士博打が流行ったのも頷ける……」
「サクさん!? 俺が死にかけそうなときにそんな目で見てたの!?」
「はっ、死にかける? 馬鹿を言うな、お前は―――」
――と、そんな思い出話に花を咲かせていると、青ざめた顔のサラマンダーがまた口をはさんだ。
「ひぃいい……わ、私はそんな恐ろしい相手と戦ったのですか……」
サラマンダーが地面にぺたんと座り込み、尾を抱えて震え出す……が。
「……いや、戦ってたっていうよりお前は逃げてたって言ってたろ」
「おっと、そ、そうでした! 逃げてました! 全力で! 全速力で! 命からがら!」
俺たちは顔を見合わせ、同時にため息をついた。
そして、そんなサラマンダーにサクラノヴァさんが改めて告げる。
「……ただ、恐らく俺たちが考えているものと、そちらの剣聖とは別人だろうな。……俺らの知る剣聖は……もうこの世にいないからな」
「へ……?」
サクラノヴァさんの言葉に、僕らもまた小さくため息をついた。
―――そう。
僕らが今、思い出話に花を咲かせていた、"当時の剣聖"―――ユイは、俺との勝負以降……このゲームに来ることはなかった。
ゲームの掲示板では、現実世界が忙しいやら、別ゲームに行った、ましてや死んだという話にまでなってたけれど、その本質は、意味は、俺たちだけが知っている。
「……ま、あくまで人違いってのは仮説にすぎないけど……仮にそれが僕らの知る剣聖が相手でも心配いらないよ」
「へぇえ? そ、それはいったいどういう……?」
サラマンダーのその問いに、僕らは顔を見合わせ、答えた。
「だって……俺らはみんな、かつての剣聖に一対一で勝ってるからね――――」
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