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第十話 サラマンダー



俺様はサラマンダー。


この森に君臨する灼炎の竜種にして、洞窟の絶対者……というのはまァ自称だが、概ね事実だ。

誰が呼んだか知らぬが、“竜の厄災”などという二つ名も悪くない。

……あの忌々しい者との記憶も忘れられるしな……。

それに、近くの村人には牽制をしておいたからここにいればしばらくは安全だろう。

まァこの俺様の力を見たらそうせざるを得ないのも理解できるがな。


「……ん?」


と、そんな時、森の端に微かな気配を感じた。


これは……二人、か……?

ほう……? あれ程まで警告したというのにわざわざこの俺様の縄張りに足を踏み入れるとは、いい度胸だ。


俺様は尾を揺らし、洞窟の奥で身構える。

まずは軽く“挨拶”をしなくてはな。

不遜にも、偉大なる俺様の棲処に近づいた愚か者どもに、灼熱の洗礼を――!


「俺様の炎を喰らいなッ!!」


俺様が吐き出した炎は豪快に洞窟の入口へと吹き出す。


ふはははは! どうだ、これが灼炎の力――!

思い知ったか!


俺様は満足げに鼻息をついた。

これで奴らも逃げ帰っただろう。

俺の聖地に踏み入れた代償さ!


くっくっく、にしても久方ぶりに炎を吐いたから威力の高いものが出てしまったな。

これなら人間どもを焼き尽くしてしまったやも――。


……ん?


……いや、まだいるな。

二つの気配が……いや、三つ? 違う、四つに増えた!?

この森の中において俺の探知を搔い潜れる奴がいるのか……?

まさか……? ……ム……こいつら、洞窟の中に入ってきやがったな――!?


「……愚かな……!」


ならば今度こそ確実に焼き尽くしてやる!

ここに逃げ場はない!

この洞窟に入ってきたことを後悔させてやるわッ!


俺様は再び口を開き、炎を溜めて吐き出した。


先よりは威力は低いものの、それでも洞窟の壁を焼き焦がすほどの威力!

……流石に短時間に二度の全力放射は疲労感があるが、これなら―――な、なにッ!?


炎を浴びせたはずの洞窟の奥から、まだ“気配”が近づいてくる。

しかも、はっきりとした足音――こちらに向かってゆっくりと歩いている。


……生きている、だと?


俺様は思わず目を凝らした。

あれほどの威力の炎を喰らってなお、向かってこれるだとォ!?

そんな奴……ま、まさかあの……!?


俺様がある人物を思い浮かべようとしたその時、炎の残滓が揺らめく洞窟の闇の中から、二つの影がゆらりと現れる。

しかしその動きは鈍く、ぎこちなく、同時に俺の知る者ではなかった。


……いや、死にかけている……?


俺様は再度炎を吐こうと口内に熱を集めかけていたのをやめ、安堵のため息を吐いた。


なんだ、驚かせやがって……!

……あれは……なるほど、そうか、そういうことか!

つまり、彼らは先の炎で倒れ、なおも執念だけでこちらに向かってきていた死に体だったのか!

そうかそうか。この俺様の炎に耐えられる奴なんているわけが―――。


ってあれ、なんか近くない?

ってか全然倒れないなコイツ―――――。


―――――そう思った時。

目の前にやってきた人間の姿をハッキリと捉えた俺様の思考が……止まった。


焼けただれた皮膚に唸る声。

ボトッという鈍い音とともに床に落ちた腐った腕。

見るものを凍り付かせるほどの濁った瞳が熱に溶かされ、今、俺様の目の前に落ちて――――今、視線が交差する――――。


「――――ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィヤァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!」


気が付けば、叫びながら俺様は逃げていた。


なんだなんだなんなんだよアレは!?

人間じゃねェじゃんか!!!


転がりながら、洞窟の壁に体をぶつけながらも、俺様はやっとの思いで外に出て――――。


「ふん、俺からのプレゼント、喜んでもらえたか?」


夜の森。

月明かりに照らされた、黒いローブの――――骸骨を見る。


「――――ギィィッン」


「「あ。」」


横にもう一人いたようだが、もはや俺様は既に言葉も出せず。

そして、ゆっくりと――意識が、闇に沈んでいった。




◆◇◆




暗い。

重い。

……静かすぎる。


(……ここは……どこだ?)


そう思うのと同時、意識の底で誰かの声が響いていた。


「サクさん、これどうすんの?」

「……先の叫び……恐らくこいつは人間並みの知能があると見た。連れ帰って研究を―――」


(……な、なにィ!?)


その言葉に、俺様は反射的に飛び起きた。

この俺様は研究材料にされてたまるかと言わんばかりに体を跳ねさせ、尻尾で地面を叩いて目を見開いた瞬間――。


「やぁ、起きたかい?」


―――目の前にいたのは、あの骸骨だった。


「ギャァアアアアッイン!?」


俺様は叫びながら、反射的に後退し、後ろにある木に頭部をぶつけた。

……だがその痛みもなんのその。


(こ、こいつはなんなんだ!? 喋る骸骨、だと!? ひ、人ですらねェじゃねぇか!?)


グッ……だが今度は気絶しないぞ!

体は震えているが、……これは武者震いだ!

その証拠に俺の意識ははっきりしている!!!


「……む?」


と、ふと視線をずらすと隣にもう一人、こちらは人間の姿をした若者がいることに気が付いた。

しかし……隣の骸骨ほどの恐怖感はないが、妙に落ち着いた雰囲気を纏っていやがるな……。


俺様は、しばらく沈黙したまま二人を見つめていたが、意を決して言葉を発した。


「……ふん。俺様を研究対象などと……笑わせるなよ!」


声は震えていたが、誇りは折れていない。

俺様は胸を張り、堂々と宣言した。


「俺様は灼炎の竜にしてこの森の主だ! 貴様らごときに屈する俺様ではない! だから―――!」


俺様の言葉に、骸骨らは無言でこちらを見ていた。

その眼窩の奥の光が、再び揺れた瞬間――俺様は、ほんのわずかに身を引いた。


(……ひぃっ、やっぱり、あいつはヤバイ! 無理だ!)


「―――そ、そこの骸骨は……! その……ちょっと、む、無理だ! だから……!」


俺様は、震える声を押し殺しながら、隣の人間を指差した。


「貴様だ、人間! 俺様と一対一で勝負しろ!」


その言葉に森の空気が張り詰める。

……な、なんだ?

何か言え!!


「え……俺????」


その人間はまるで自分が狙われることなど寸分も思っていなかった顔で骸骨に目配せをしていた。


――が、しかしその姿を見て俺様は確信した。


はっはっは!!

やはりあの男は骸骨の従者だな!!?

あいつを倒すことができれば、きっと俺様は奴に認められてより高い地位を得るだろう!!

そうなれば、ここ以上の安全を得られるかもしれねェ!!


月明かりが差し込む中、俺様は尾を振り上げ、炎を纏いながら叫んだ。


「さぁ来い人間!! 俺様の灼熱に耐えられるか、試してやるッ――――――!!」



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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!

 

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何卒よろしくお願いいたします!

 

更新は第一章までは毎日【AM1時】更新予定です!

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