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【間話8】 歴史学の教科書・神獣と王獣と魔獣

 魔王の配下は、一体の神獣と四体の王獣、八体の魔獣から成る。


●神獣「月光龍ムーンライトドラゴン

 透き通った水晶のような体躯を持つ巨大な龍。魔王の相棒として世界の空を駆け巡った。地上での目撃例はなく、詳しいことは伝わっていない。

 人間が放った全ての攻撃を無効化したと言われている。



●王獣

 魔王配下の四天王と呼ばれる高位の魔獣。それぞれが二体ずつ、八体の魔獣を従えている。


1.フィッサマイヤ(属性:火)

 フサフサとした長い尻尾を持つ金色の狐。小さい顔に大きな耳、体長は50cmほどと魔獣の中でも最小。

 額にある赤い宝石は、すべての魔法を無効化する力を持っている。

 聖女シュルヴィアフェスを憐み、最初に手を貸した魔獣。


2.アッシメニア(属性:水)

 硬い銀の鱗でおおわれた体長20mはある大鰐。水辺に潜み、ゆっくりとした動きでいつも眼を閉じている。

 その眼は空虚な黒い穴となっており、この眼に見入られた生物はすべて塵へと化す。生き物を分解し魔精力へと返す、いわゆる即死魔法と考えられている。


3.ブレフェデラ(属性:風)

 深い碧色の羽根を持つ大鷲。翼を広げた長さは10mほど。普段は東の果てにある高台、現在で言うところの「ブレフェデラの丘」にじっと佇んでいた。

 ブレフェデラが羽ばたくのは決まって人間が粛清された後であり、恐怖の象徴として恐れられた。

 これはブレフェデラの隠された浅葱色の羽根からもたらされる風が、「浄化・再生」を促すため。その大地の生物がアッシメニアにより一度死滅したことを指すからである。


4.マデラギガンダ(属性:土)

 巨人の男の姿で、牛のような角を生やし蝙蝠のような翼を持ち、黒い鉄鎧に身を包んでいる。魔王侵攻の際は身長30mほどの巨人だったと伝わっているが、魔王の使者として現れた際は5mほどだったという。そのため、身長体重は可変であると考えられている。一切の物理攻撃が効かない。

 ジャスリー王子と聖女シュルヴィアフェスに魔王の約定を伝えた魔獣。



●魔獣

 人語を解する、より高位の魔物。魔王侵攻の際の実働部隊。


1.フェルワンド(属性:火)

 碧色の瞳を持ち、灰色の毛でおおわれた体長5mを超える大狼。三つに分かれた尾を持つ。

 魔王侵攻の先陣を切り、炎の息で辺りを焼き払い、毒の息で人々を苦しみの中に堕とし、屈強な尾で地上の建造物を叩き壊した。

 魔王による『緊縛の紐』で制限されていなければすべてを破壊し尽くしただろう、と言われている。


2.ガンボ(属性:火)

 空駆ける赤い鷹。フェルワンドに付いて回り、魔王の斥候の役目を果たした。

 朱の舌により炎の刃(ファイアエッジ)を放つことができるが、水属性に弱い。


3.サーペンダー(属性:水)

 龍とも見紛う紫の大蛇で、あまりの長さゆえ頭と尾を同時に見ることができた人間はいない。

 あらゆる水脈から人類の生活圏に出没し、フェルワンドが荒らした土地をそれ以上荒廃させないよう見張る役目を担っていた。

 人間を痺れさせる霧を発生させて街ごと陥落していた。魔獣の中では穏健派と言われている。


4.リプレ(属性:水)

 黄色いヤモリで、臆病者として有名。魔王侵攻の際は積極的に人間の粛清には参加せず、サーペンダーが堕とした街に現れ、痺れて動けなくなっている人間を捕食していた。水鉄砲を放つことができるが、他の三属性には弱い。


5.ユーケルン(属性:風)

 薄い桃色の体躯に濃い桃色の鬣、真っ白な翼を持つ一角獣。

 魔王侵攻の際にフェルワンドとサーペンダーが人類を駆逐し荒らした大地を浄化し、魔王へ献上したと言われている。


6.トラスタ(属性:風)

 褐色の身体に黒い鬣を生やしている栗鼠。諍いが大好きで、煽動が得意。魔王侵攻の際はフェルワンドの蹂躙をはやし立て、攻撃効果を増幅する役目を担っていた。


7.トルク(属性:土)

 金色の角を持つ白い鹿。自然界の秩序にうるさく、自分の領域に入ってきた人間を片っ端から狩り、糧としていた。光物が大好きで地中に貯め込む習性を持つ。


8.ヴァンク(属性:土)

 地中を縄張りとする青い土竜モグラ。怪力で鋭い歯を持ち、地下から人間界に現れては自分の巣穴に引き込み捕食していた。光と風に弱い。



   * * *



『何だ、コレ?』

「歴史学の教科書よ。かつて魔王の配下として人間界を蹂躙した魔獣たちがまとめて紹介されてるの」

『……変なのー』

「変? どこが変なの、ハティ」

『順番、バラバラ』

『おう、そうだな』

「順番? 属性ごとにまとめてあるんでしょ」

『強さ、全然違う』

「え?」

『何つーか……魔獣にも格付けってのがあるんだよ』

「えっ、本当に!? 教えて教えて!」

『んーと……』



   * * *



~ハティとスコルによる魔獣格付けランキング~

 ※レベルは二人から聞いたマユが大体のところを数値化したもの


1位:フェルワンド(火)【Lv.99】


『とうちゃん、強い!』

『攻撃力だけなら王獣クラスじゃねぇかな』

「さすが一番有名な魔獣だけはあるわね」



2位:サーペンダー(水)【LV.98】


『霧を防ぐの、難しい』

『オヤジ抑えられるの、コイツぐらい』

「最強ペアって感じね」



3位:ユーケルン(風)【Lv.90】


『処女好きらしい』

「何その情報!」

『ルヴィ、言ってた』



4位:トルク(土)【Lv.75】


『容赦しねぇし、怖ぇし、頭でっかちの説教ジジイって感じだな』

『でも、キラキラに弱いの』

「お代官様と越後屋を思い出すわね」



5位:トラスタ(風)【Lv.50】


『ケンカ上等の戦闘狂っつーか』

「昔のヤンキーみたいね」

『すばしっこいの』



6位:ヴァンク(土)【Lv.48】


『すんげぇ暗い。陰湿。光物好きのトルクのことも実は嫌いらしい』

『コソコソしてるの』

「屈折してるのね」



7位:ガンボ(火)【Lv.30】


『派手好きで、チクリ屋』

『でもサーペンダーにすんげぇビビッてる』

「何かパシリ君みたいね」



8位:リプレ(水)【Lv.25】


『一人じゃ何もできない典型的な奴』

『でも、水鉄砲は、結構キケン』

「スナイパータイプかしらね」



   * * *



「ふうん、面白いわね。きっと誰も知らないわよ、こんなの」

『へへへ、まぁな』

『マユ、役に、立った?』

「ええ。ところでハティとスコルは魔獣に会ったことはあるの?」

『じぃちゃん以外、知らない』

『そうだな』

「えっ!? じゃあどうして強さなんてわかるのよ?」

『ルヴィ、教えてくれたー』

『もし会っても、ヴァンク以上は逃げろって』

「……ということは、ハティ達は6位と7位の間ぐらい?」

『そー』

『ウン!』

「実はすごいのね、あんた達……」

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