エピローグ
「ああ、もう畜生!!」
俺の娘――タバサが産まれた。
それは非常にめでたく、祝福すべきことだ。もっとも、俺は帝都に書簡を届けに行くという任務もあったため、目覚めたジュリアに一言告げてからすぐに出発した。
ちなみにジュリアに、「次の娘はプリンちゃんにしよう」と伝えたところ、苦笑いをされた。部下やレインや親父のように正面から否定することはなかったが、困ったような笑顔をしていたことを考えると、やはり俺に名付けのセンスはなかったらしい。むしろぼそっと、「村長が決めてくれて良かった……」と呟く声が聞こえたくらいである。
そして俺は、皇帝陛下に奏上を行った。
現在のウルスラ王国との最前線――王都攻めにおいて、その状況が膠着にあるということ。そしてその上で、これから冬になってくる今、無理に攻め込むべきではないと。
ちゃんとレインは、俺が読むようにカンペも用意してくれていた。実に良い部下である。
で、その結果どうなったかというと。
皇帝から俺、ならびに第五師団へと命令が下った。
冬の間、第五師団は最前線で防衛を行え、と。
「どちくしょぉぉぉぉぉぉっ!!!」
俺が斧を振るう一撃で、数人の敵兵が吹き飛ぶ。
敵の哨戒部隊を発見したため、俺が僅かな手勢を引き連れて自ら討伐に来たのだ。半分は、俺のフラストレーション解消のためである。
何せ、来年の春まで戦場に居続けろと、そう命じられたのだ。
子供産まれたばかりなのに。
「くそがぁぁぁぁぁぁっ!!」
逃げようとした敵兵の前に回り込み、思い切り両断する。
別に、持ち帰られて困るような情報はないけれど、ただ俺が発散したいためだ。
一緒にやってきた古参の兵でさえ、「隊長やべぇ、キレてる」「今近付かねぇ方がいいぞ」と俺から距離をとっているくらい、俺は荒れていた。
「ひぃっ!」
「ぎゃあっ!」
「死ねやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
哨戒部隊――百人はいるだろうその兵たちを、一人残らず両断する。
いっそのこと、このままウルスラ王都に攻め込んでしまおうかと思うくらいに、俺はブチ切れていた。どうして俺は、こんなにも活躍してるのに帰れないんだよ。どうしてガーランド帝国が勝ち続けているのに、戦争が終わんねぇんだよ。
俺は一体、いつになったら帰ることができるんだよ!!
「ギ、ギルフォード殿! こ、この先には敵の本陣が!」
「知るかぁっ!!」
『ユーリア機動兵団』の隊長――ええと、名前忘れた。とりあえず隊長が、俺に向けてそう言ってくる。
どうしてこうなってるって、お前らのせいだよ。お前らがいつまで経っても敵の指揮官に翻弄され続けてるから、時間がかかってんだよ。
俺が最前線に立てば、こんな戦争すぐに終わるんだよ!
「ガ、ガーランド軍が来ました!」
「何だと!? どれほどだ!」
「十数名です!」
「馬鹿なのか!?」
敵の本陣から、そんな声が聞こえてくるのが分かる。
ああ、別に馬鹿でいいよ。とりあえず、大暴れしなきゃ気が済まない。
「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」
「ぜ、全軍、方円の陣てんか……ぐぎゃあっ!?」
なんか、一際派手な兜を被った奴をぶっ飛ばした。
多分、この部隊の指揮官なのだと思う。知らんけど。
とりあえず、もうどうでもいい。
この戦争を、終わらせてやる。
「おぉぉぉぉぉぉっ!!」
ウルスラ王国、平原防衛部隊二万二千。
俺、ならびに古参兵合わせて十七名。
勝ったけど、何か?
「……まさか、本当にウルスラ王都を落としてしまうとは」
「いや、俺もちょっと必死すぎて何やってるのか分かんなかった」
平原の防衛部隊を撃破した後、俺は一人でウルスラ王国の王都まで殴り込んだ。
その時点で古参兵たちは、「もう俺ら戻るっすよ」と勝手に本陣の方まで戻っていった。まぁ別に俺一人でいいだろと思って向かい、城壁をよじ登り、そのまま城壁の上を制圧した。
城壁を制圧し、王都の中へと侵入し、宮殿の壁をよじ登って最上階まで向かい、かつてレオナと共に行ったようにウルスラ国王を拘束した。
その間にレインが全軍を動かしてくれていたらしく、王都は見事にガーランド軍によって包囲され、結果的にウルスラ王国は全面降伏に至った。
「とりあえずウルスラ王国は落ちたわけだから、もう戦争終わりだろ」
「そうですね。ライオス帝国との最前線は、まだ維持する必要がありますけど……」
「はぁ……まったく」
ああ、だめだ。イライラしている。
ここはちゃんと落ち着いて、タバサちゃんの顔を思い出すんだ。しわくちゃだけど、俺がちょっとくすぐったら笑顔を見せてくれた娘の顔を思い出すと、それだけでにやけてしまう。
将来は、ジュリアみたいな美人に育つといいなぁ。
「さぁ、やっと帰れるぞ――」
「帝都より使者が来ました」
「嫌な予感しかしねぇ」
俺がウルスラ王都を落として、二週間。
レインからそう伝えられたことに、不安しか感じない。
もう戦争終わりだよな?
俺、もう帰っていいよな?
「第三師団と交代し、現在フェンリー法国を攻めている部隊に加わるようにと」
「まだ落とせてねぇのかよ!?」
うちの数倍の兵数がいるくせに、何やってんだ!?
「あと……」
「……まだ何かあんのか?」
「フェンリー法国を陥落させた暁には……ライオス帝国との最前線に向かい、戦うようにと……」
「……」
レインが、可哀想な目で俺を見てくる。
その眼差しの理由は、よく分かる。どこまで俺、こき使われるんだろう。
アリオス王国、メイルード王国、ジュノバ公国、ウルスラ王国、そしてこれから、フェンリー法国とライオス帝国――俺は一体、幾つの国を落とせばいいんだろう。
いつになったら、戦争が終わってくれるのだろう。
俺、この戦争が終わったら結婚するんだ。
だから、早く戦争終わってくんねぇかなぁ!?
これにて完結。
ご愛読ありがとうございました。




