62《公爵side》そして因果の終着駅
「キィィィィエエエエエエエエェェェェアアアアアアッッ!!!!」
「おねぇぇぇぇぇさまぁぁぁァァアアアアアぐがぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ミルティアに口づけをした瞬間、この世のものとも思えない悲鳴が化け物母子から同時に上がった。
さもありなん。
愛しい彼女は気付いていない。
だが、この清浄で、優しく、暖かい溢れんばかりの魔力は、完全なる『浄化』の光だ。
愛で満たされた小さな身体から、津波のように浄化の力が溢れている。
まぁ……原因は私なのは明白なんですけど……
しかし、彼女のうるうるに潤んだ上目遣い、小さく震える華奢な身体……
必死にわたしに縋り付いて来る可愛い生き物の姿に、愛おしさが天元突破するのは、男性の摂理であり世界の真理です。
いかな大魔導士とはいえ、森羅万象に逆らえる訳がありません。
結果、ミルティアを苦しめていた呪いは、あのとおり。
浄化の力に直撃されて、怨嗟のうめき声を上げている。
身体を動かし、こちらの世界に干渉することは一切できなくなる代わりに、今まで自分たちが他者に向けて行って来た悪意や行為が、何十倍もの苦痛となって自分に戻って来ている……ということなのだ。
「あ、あの……マリクル様……あの、二人は……だ、大丈夫なのでしょうか?」
ようやく、キスの衝撃から立ち直ったミルティアが、小さく首をかしげて、不安そうに毒母子を見つめた。
私のミルティアがお人好し過ぎて、可愛すぎるんですが、どうしたら良いんですかね?
「問題ありませんよ。これはあくまでも『浄化』の力です。本人たちが本気で心から反省し、過ちを償う気になったら、元の姿に戻れます」
本気で心から反省し、過ちを償う気になったら……ですけどね。
「それには、まず相手の痛みを知らないと……反省するまでは激痛地獄ですが、それは自業自得です」
「そうですか……でも、戻れるなら……」
ただ、この二人がそう簡単に改心するとは思えない。
十年……いや、二十年……程度は最低でも苦痛にのたうち回る必要があるだろう。
まず、あの外法で殺された3つの魂が彼女等を許すまでは絶対に解放されない。
「そうですね、では……時空魔法【一日百年】!」
「キィィィィェェェェェアアアーーーーー!!!」「オネェェェェ、オネェサマアアアアアア……ァァァーーーー!!!」
途端に、悲鳴がまるで早送りでもしているようなキュルキュルした不可解な高音へと変化した。
「マリクル様、これは……?」
「これは、せめて少しでも早く反省をして欲しいので、彼女達の感覚を時空魔法で圧縮させてもらいました」
これで、こっちの1日の苦痛が、彼女達にとっては100年責め続けられているような感覚になる訳である。
これなら、10日で1000年分の激痛を味わうことになるし、100日も続けば、人類の歴史より長い間、激痛を味わう事になるのだ。
おそらく、これなら改心も早いだろう。
「……坊ちゃん、えげつないことしますねぇ……」
「何故です? 思いやりですよ。きちんと反省し、過ちを償う気になれば良いんです。戻ってきたら、きちんと法律に則って、裁きを加えますからね」
これだけの事をしているのだ。
爵位の剥奪・貴族追放は当然。リラン伯爵家の名はミルティアが……そして、私と彼女の次男以降の子供が継ぐことになるだろう。
「き、貴族って怖ぇ……」
「あれは自業自得だから仕方ないですよね、坊ちゃん」
バードラが使用人の青年と何やら話し込んでいる。
「さ、行きましょう、ミルティア……」
「は、はい!」
「今は無性に貴女の料理が恋しく感じます」
「あ、でしたら、アクアパッツァが準備できています!!」
ミルティアの笑顔で世界が鮮やかに輝き始めた。
名簿の整備もほぼ終了したし、明日からは本格的に彼女に魔法や公爵夫人としての教養を学ばせることになるのだろう。
魔法の勉強については、ミルティア本人もとても楽しみにしていたし、きっと、面白い事になるに違いない。
「それは、とても……とても楽しみです」
(おわり)




