60ミルティアの戦い③
「お前さえ居なければっ!!」
そう叫んだ義母様の触手が、わたしを打ち据える。
パァンッ!!!
「ぎゃぁあッ!!!」
しかし、わたしに触れる直前に弾けて飛んだのは義母様の触手の方だった。
「えっ……?」
ふと気づけば、薬指に嵌めていた経済的なお守りが、薄っすらと青く透き通る光を放っている。
「ぐっ……忌々しいっ!!」
どうやら、この指輪のおかげで、義母様もシスターナ(?)も、直接わたしに触れることができないようだ。
それなら、少しくらくらするけれど、ここから退出することは不可能では無い。
そう考えて息を整えようとした時だった。
ばしんっ!!
「きゃぅっ……!!」
「きゃははっ!! どういう訳か直接は触れないけど……道具を使って殴ることはできるみたいね、お姉様ァ」
視界に映り込んだのは、来客用の椅子を振り回しているシスターナの予備の足と義母様の背中から生えた触手だ。
うぅ……い、痛い……
どうやら、さっきの衝撃は、椅子で殴られたものだったようだ。
「ほ……ほほほ!! 直接触れないなんて、何事かと思ったけど……それならこちらにも考えがあるわ!!」
ばきっ!!
「あぅっ!!」
ずざざぁっ……がつん!
「う……うぅ……」
どうやら、丸太でぶん殴られて、壁際まで吹っ飛ばされたらしい。
全身が痛みに悲鳴を上げている。
折角マリクル様にいただいたお洋服が、擦れたり、引っ張ったりしてボロボロだ……
……がちゃん!
「え?」
その時、聞きなれない金属音が耳に飛び込んで来た。
「あ……」
「ほほほ!! つ~か~ま~え~た~わぁぁぁ~! お姉さまぁぁ!!!」
何度も丸太やら椅子やらでどつきまわされ、吹っ飛ばされた結果……わたしはキディちゃん達が捕らえられていた牢屋の中に弾き飛ばされていたらしい。
格子状になっている牢の隙間から、シスターナ(?)の足が侵入しようとして、じゅっ……、と小さな音を立てた。
「……ッチ! これ以上近づくとこちらが傷ついてしまうわ……」
「か弱くて可愛い年下の妹に危害を加えるなんて、なんて酷い女なのかしら! ふん、あの魔女の娘なだけあるわ!!」
「そうだ、良い事を思いついたわ。お姉さまなんか、下種な男達の慰み者になればいいのよ! うぅん、こんな貧相で不細工なゴミ、抱きたいなんて男が居る訳ないわ! ……そうよ! この子たちなら適任よ!!」
ごぽ、ごぽ、と不自然な音を立て、シスターナ(?)の予備の足が本体から外れ、蠢き始める。
「魔物に純潔を奪われた女なんて、流石にレンロット公爵もお嫌なはずよ? だから、お姉さまの代わりにわたくしが公爵夫人になってあげるの!!」
「まぁ、素晴らしい考えだわ!」
人間、驚きすぎると悲鳴も出ないものなんだな、と、わたしはその時初めて知ったのだった。




