57久しぶりの対面
「とりあえず、急ぎましょう」
「そ、そうだな……」
わたしたちがロビーまで進むと、見覚えのある人たちと行き会った。
「っ!!! アンタはっ!」「この疫病神が!!!」「アンタのせいでこのお屋敷は滅茶苦茶よ!! このアバズレッ!!」
そう叫んで、掴みかかって来たのはシスターナ付きの侍女たちだ。
「えっ!? あの、ちょ……やっ……!」
彼女達の目は血走っており、女性とは思えないような力でわたしの服を引き剥がそうと群がる。
マリクル様から頂いた作業用のお洋服だから、女の力で思い切り引っ張ったくらいでは破れたりはしないが、まるで、素手で服を引きちぎろうとしてくる侍女たちの尋常ではない鬼気迫る態度に思わず足がすくむ。
「おいっ!! やめろっ!! 俺はシスターナお嬢様のご命令でその人を連れて行くんだ、よっ!!」
べしっ! ばしっ!! どッ!!
「ぎゃっ!!」
ヒャトイさんの振り払いと体当たりでバランスを崩した侍女三人が倒れ込む。
「おい、急げ、こっちだ!!」
「は、はい!!」
ピーーーーーーッ!! ピーーーーーーッ!!
わたしたちが駆け抜けた後ろから、何やら笛の音のようなモノがけたたましく鳴り響いた。
「くっ!! であえーーーっ!!! であえーーーーっ!!! あの魔女よ!! 伯爵家に呪いをかけた売女を捕えるのよっ!!!」
侍女の一人がキンキン声でそう叫んでいるのが聞こえる。
わたし、そんな事をしたつもりは無いんだけど……!
だが、笛の音のせいなのか、屋敷の至る所からバタバタと駆けまわるような足音が響いて来た。
一体、どういう事なんだろう?!
何が、どうなっているの?
わたしとヒャトイさんが全速力でシスターナの部屋に向かう。
あ、あそこがシスターナの部屋……なんだけど、本来は壁であるはずの場所が裂け、黒いカーテンで内側から覆われている。
「シスターナお嬢様っ!! ミルティア様を連れて参りましたっ!!! だからキディを、キディを返してくださいっ!!」
ヒャトイさんが、走る速度を落とさずに、その黒い帳に突っ込んだので、わたしもそれに続く。
「……まぁ! まぁ!! まぁぁッ!!! ふふふ、クズでも、仕事は出来たのねぇ、偉いわぁ~」
目に飛び込んで来たのは、触手の生えた黒い小山。
「……えーと? え?」
なに、これ?
「会いたかったわ!!! おねえさまああああぁぁぁぁッッ!!!」
もしかして、これが、「麗しの」と枕詞を付けて呼ばれていた義妹のシスターナ?
いや、あの、少々お待ちください?
声まで変わって……、というレベルでは無いのですが……
だって、一目見た時「だれ?」じゃなくて、「なにこれ?」だったのだ。
いや、ヒャトイさんが魔物のよう、とは確かに言っていたけれど……あの天使のようなブロンドの面影どころか、人間の形状すらしていない。
ヘドロの小山に人間の顔面が張り付き、無数の触手が生えている塊。
それが、シスターナお嬢様、と呼ばれていたのだった。




