45お出かけ先は……?
「ミルティア、お疲れ様でした。……ありがとうございます、私に代わって、大地の病魔を治療していただいて」
ガラガラガラ、と、公爵家の魔導馬車がのどかな田園風景の中を駆けて行く。
その中でわたしとマリクル様はゆっくりと会話を交わしていた。
「いえ、そんな……大したことはしていません。あの、私は、ただ、石灰を撒いただけなので……その、本当の意味で大地を治癒していたのは、ソンチョさん始め、農家の皆さんです」
「ええ。そうですね……」
そう言って、微笑んだマリクル様の視線の先には、少しまだら模様に枯れた植物が残っている田畑が広がっている。
だが、その枯れた茶色のすぐ下には、新緑の黄緑が準備万端! と言わんばかりに顔を覗かせ始めていて、しばらくすれば、また、豊かな緑が帰って来るであろうことは想像がつくような様相を呈している。
「ところで、作業中に何か妙な事や危険な事はありませんでしたか?」
「危険なことは何も……あの、皆さん、本当にわたしにも優しくしてくださって……」
むしろ、自分も鍬を振るえなかったのが申し訳ないくらいだった。
「妙な事は、特には何も……あっ! そうだ、マリクル様、あの、農地の片隅に……」
わたしは、例の悪臭の生ごみの件を伝えた。
ちなみにあの生ごみ、似たようなモノが他にも2つ、合計3つほど発見されていて、その3つ共が、石灰をかけると見事に縮んでしまったのだ。
今では三つともソンチョさんが肥溜めに放り込んで発酵中だ。
「そうですか……悪臭を放つ生ごみ……直接、石灰を掛けると悲鳴のような音……3つ……」
あ、あれ?
わたしは「ちょっと珍しいな」と思った程度なのだが、思いの外マリクル様の表情が鋭くなってしまい、その真剣な眼差しに、少しだけ、わたしの心臓さんがキュン、と悲鳴を上げた。
「あの、マリクル様……もしかして、何か正式な対処が必要だったのでしょうか?」
「ああ、いえ、違うんです。特にミルティア達に何も害が無ければ問題無いんです。ただ、何らかの呪術の可能性が有るかと思って……」
「呪術、ですか……?」
「ええ。まぁ、こう見えて、この若さで宮廷魔導士『筆頭』の称号も持っていますし、尚且つアルスにも気に入られていますからね、私は。色々と嫉まれやすいんです」
「そうなんですか……」
うーん、高位貴族も大変なんだなぁ……
やっぱり「ねたみ」って言う感情はある程度同じランクの人にしか感じ得ない感情だからなぁ……
マリクル様を「ねたむ」なんて……「憧れる」なら分かるんだけど……
すぐ隣で、手を伸ばせば、そのお顔に触れられるような距離に居てなお、本当に自分と住む世界が一緒で問題無いのだろうか? という場違い感がまだ残っているのだ。
「ところで、マリクル様」
「なんですか?」
「この馬車は、どこに向かっているのでしょう?」
わたしを農地まで迎えに来てくれた訳だが、一旦屋敷に戻り、衣装を少し余所行きのお出かけ服に着替え……そして現在、改めて馬車に揺られているのだ。
「……そうですね。その、到着してからのお楽しみ、では……いけませんか?」
そういうと、マリクル様はふいっと視線を外に向けた。




